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39:本物の証明
しおりを挟む会場内では、意見が二分していた。
学生時代のナターシャ・ピラートルを知っている人間は、エステルの主張を信じ始めている。
確かにみすぼらしく醜いナターシャが、今の私と同一人物とは信じられないだろう。
私本人も未だに信じられない。
私達より上の世代は、ラスペード公爵家とブルーキンク辺境伯家を信じている。
そのような悪行をするはずが無い、と確信していた。
しかし、今ここで私が本物のナターシャだと証明するのは難しい。
何せ実の姉と父親が「偽物だ」と言っているのだから。
「あの……発言を宜しいでしょうか」
お義父様に肩を組まれたまま下を向いているおじさまが、遠慮がちに手を上げました。
子爵家のおじさまには、崖から海に飛び込む位の覚悟だと思われます。
顔は見えませんが、手指は血の気が引いていて、震えています。
勿論、声も震えていて、今にも消え入りそうです。
「発言を許そう。顔を上げよ」
王太子殿下がおじさまに告げます。
予想通り、おじさまの顔は土気色です。
「わ、私はナターシャ公爵夫人の遠縁の、ブレーズ子爵家当主ブリアックと申します」
ピラートル伯爵家の遠縁と言わないあたり、本当に嫌悪しているのでしょう。
「実は、そこのナターシャ公爵夫人が本物である事を証明する方法があります」
ザワリ。
おじさまの言葉に、会場が揺れた気がしました。
エステルの眉間に皺が寄ります。
「実は私の祖父は、自分が名付けた子供には護りの宝石を贈ります。魔術師に依頼して持ち主固定もしてある物です」
先程話してくださった、コーンフラワーブルーサファイアの話ですね。
「ナターシャ公爵夫人には、サファイアを贈りました。その宝石をなぜかそこのピラートル伯爵令嬢が着けております」
エステルの顔色が変わりました。
今までは優越感に浸っていたのに、胸元の一際大きなサファイアを握り、おじさまを睨んでいます。
「魔術師が調べれば、正当な持ち主が判るはずです」
おじさまはそこまで言うと、体から力が抜けてしまいました。
お義父様の腕からスルンと抜けて、床に座り込んでしまいます。
「よくやった!ブリアック!」
お義父様がおじさまの背中を叩きました。
お義父様はこれを予想して、おじさまを逃がさないようにしていたのでしょうか?
いえ、さすがにここまでの状況は予想出来ませんよね。
エステルを含むピラートル伯爵家の行動は、普通ではありませんから。
でも、護りの宝石の話は、もっと詳しく聞くつもりだったのかもしれません。
おじさまが、力無くお義父様に笑顔を向けました。
やり切った感が凄いです。
ありがとうございました、おじさま。
「魔術師による持ち主固定は、本人の魔力を登録するので誤魔化しは利かない。これ以上は無い証明だ」
王太子殿下が右手を上げました。
近衛騎士が王太子殿下の後ろから二人、エステルの方へと行きます。
「サファイアの提出をお願いします」
騎士の方が手を差し出しました。
「これは私の物よ!持ち主固定とか無いわよ!」
エステルが宝石を握りしめたまま、頑として渡そうとしません。
「それを確認する為に、調べるのです。何も無ければ、このままお返しします」
騎士の方が抑揚無く話をします。
しかしエステルは、騎士を睨み付けたまま動きません。
手を差し出したままの騎士と、宝石を握りしめたまま渡そうとしないエステル。
膠着状態が続きます。
「あ~いいよ、良いよ~そのままで」
場に不似合いな、物凄く軽い声が響きました。
「持ち主固定の護りの宝石でしょ?他の人が悪意をもって持っている時に証明の魔法を流すとね、良い事が起こるんだよね~」
真っ黒いローブを羽織った男性が王太子殿下の横に並びました。
「やって良い?」
魔術師の方のようです。
何かの枝のような物を手に持って、王太子殿下ににこやかに話し掛けています。
「良い事とは、会場が水浸しになったり、持っている人間が火だるまになったりするのでは無いだろうな?」
王太子殿下が怖い事をおっしゃいました。
それ、良い事では無いですよね!?
────────────────
この話の副題は「おじさま、頑張る」です(笑)
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