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38:『詐称された可哀想な妹』

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前話冒頭に、ピラートル伯爵がナターシャの名を呼ぶシーンを追加しました。
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 エステルが私を見る。
 口元を歪ませて、少し困ったように笑う。
「初めまして?ナターシャさんとおっしゃるのね。私の妹と同じ名前だわ」
 エステルがおかしな事を言い出した。
 意味が解らず、不安になる。

「私の妹は、ラスペード公爵家に嫁いだはずなのだけど、貴女とは似ても似つかないのよ。どういう事なのかしら?」
 周りに侍っている年若い貴族に「ねえ?」等と同意を求めている。
「公爵家に嫁ぐ為に、他家に養子に行ったのだけど……」
 エステルが戸惑って先を言い淀む……振りをする。

「え?まさか、入れ替わりですか?」
 隣にいた女が驚いた声を出す。
「確かに学生時代のナターシャさんとは、似ても似つかないですよね」
 他の人も同意を示す。
「髪色も違いますね」
 口々にエステルに同調するのは、おそらく私の同級生だろう。

「いえ、まさか……私の勘違いだと思うのよ?」
 エステルが私を見て、ニヤリと笑う。
 これは、本気で私を娼婦だと思っているのだ。
 本当の私醜いナターシャは辺境伯領に監禁されていて、娼婦がナターシャの戸籍を奪い取ったと思っているのだ。

『私に娼婦を妹だと認めて欲しかったら、言う事をききなさい』
 そんな思惑が見え隠れする。
 驚き過ぎて、いや、呆れ過ぎて?言葉も出ない。


 それはオーギュ様も、お義母様も一緒のようだ。
 まるで怪物でも見るような目でエステルを見ている。
 呆然と立っているブルーキンク辺境伯の足下から、這うようにしてピラートル伯爵がエステルの側へ移動した。
 エステルに侍る男達の手を借りて立ち上がる。

「確かにそこに居るのは、私の娘では無い!別人だ!」
 エステルという味方が来たからだろう。
 馬鹿みたいに声を張り上げて、私を指差している。
 本物かどうかは問題では無い。
 伯爵が公爵夫人を指差している不敬に気が付いているのだろうか。



「面白そうな話をしているね」
 涼やかな声が会場に響きました。
 世俗に疎い私でも、さすがに知っています。
 この国の王太子殿下です。
 皆がザッと一斉に頭を下げました。
 夜会なので、簡易な会釈です。
 私も頭を深く下げようとして……オーギュ様が腰に腕を回しているので、上手く挨拶出来ません!!
 しかもお義母様も私の手を握ったままです。

 焦って周りを見回すと、オーギュ様もお義母様もお義父様も、ブルーキンク辺境伯も、頭を下げていませんでした。
 な、なぜ!?
「私達ラスペード公爵家とブルーキンク辺境伯家は、国王陛下と王妃陛下以外には、頭を下げる必要は無いのですよ」
 お義母様が優しく教えてくださいます。

「それが建国時からの約束だからな!」
 ハッハッハッと笑っていますけど、そろそろ本当におじさまを解放してあげてください、お義父様。
 おじさまが頭だけを下げた変な格好になっています。


「それで、ラスペード公爵夫人が詐称さしょうしているのだと言っていたね?ピラートル伯爵令嬢」
 王太子殿下がエステルへ声を掛けます。
「まぁ、そのような他人行儀の呼び方などなさらないでくださいまし」
 エステルが顔を上げて笑ってますけど、顔を上げる許可は出ていませんよね?

「私は、公爵夫人でブルーキンク辺境伯令嬢だったナターシャ嬢の話をしているのだが?」
 王太子殿下から、ピリッとした空気が漏れ出ました。
 これが王族の覇気という物なのでしょうか。
 さすがのエステルも、唇をギュッと噛みます。

「そこの者が我がむすめナターシャを、成りすましだと言うのですよ」
 ブルーキンク辺境伯が王太子に報告します。
 初対面なのですが、養父なのですよね。
 変な感じです。

「嘘ではありません!私の可哀想な妹は、ブルーキンク辺境伯家へ養子に行きました。公爵家へ嫁ぐ為です!でも、私の妹はそこに居る公爵夫人とは似ても似つかない醜い女なのです!」
 エステルが周りの人達に「ねえ?」と同意を求めると、頭を下げたままで取り巻きが頷きました。

「きちんとナターシャの戸籍も調べました。可哀想に、ピラートル伯爵家から籍を抜かれて、ブルーキンク辺境伯の養子となり、その日のうちにラスペード公爵と結婚していたのです」
 エステルが瞳をうるませて、王太子殿下を見上げて訴えている。
 可哀想も何も、絶縁の為の勘当届に署名したのはピラートル伯爵だ。



────────────────
↑の続き
呼び捨てにしたのが35話なので、皆様忘れてますよね、と(笑)
本当はそれを見て養父が声を掛けてきた設定だったのですが、間に色々詰め込みすぎました。

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