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リシェ・スヒッペル伯爵令嬢

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 リシェには不思議な力が備わっていた。
 その事に気が付いたのは、体が女性らしく変化した時――初めて月のものがきた後である。
 それまでは男同士のような付き合いだった従兄弟いとこが、リシェが触れた途端に態度を変えた。

 久しぶりに会った挨拶をして、いつものように「遊ぼうぜ!」とリシェの手を引いて庭へと歩き出そうとして……リシェがその手を握り返すといきなり立ち止まり、リシェを振り返った。
 そして、初めてリシェを女性として扱ったのだ。

 段差では手を差し伸べ、強引に腕を引いて走ることなどしない。
「リシェは可愛いな」
 そう言って頬を染めた従兄弟は、完全に雄の顔をしていた。


 それからリシェは、色々とをした。
 父や兄にも触れてみたが、何も変化は無かった。母や乳母も普段と変わらない。
 どうやら身内や女性には効かないのだと判明した。

 使用人を相手に、こっそりと色々試して判った事。
 肌に直接触れなければ効果が無い。その触れている時間によって、効果が変わる。
 軽く触れる程度だと好意は寄せられるが、すぐに冷めてしまう。
 時間が長くなると、それに比例して我が儘を聞いてもらえるようになる。
 手で触れるより、唇で触れる方が効果が高い。しかし、相手から触れられても、効果は無い。

 そして、本当に心から愛する相手がいる人には効果が無い、という事も判った。


 リシェの初恋は、少し年上の再従兄弟はとこだった。
 本家筋の嫡男で、年に数回ある集まりで顔を合わせる程度の関係だった。
 その再従兄弟に好かれたくて肌に触れてもまったく効果が無く、誕生日の祝いと称して頬にくちづけた事すらあった。

 結婚したいとすら思っていた相手だったが、その誕生日のパーティーで、再従兄弟は婚約を発表した。
 長年付き合っていた幼馴染の令嬢で、貴族には珍しい恋愛が伴った婚約だった。



 失恋したリシェは、ある決心をした。
 絶対にあんな再従兄弟よりも格好良くて身分も上の男と結婚してやる、と。
 そして中等学校に入学し、その相手を探している時に、ある変化が訪れた。

 リシェの体が急激に成長したのである。
 特に胸が、ほかの女生徒とは比べ物にならない位に成長した。
 それによって、男子生徒達の視線も対応も格段に良くなった。
 リシェが触れなくても、リシェを女性として扱い、好意を隠しもせずに寄って来るのだ。

 そうなると欲が出てくるのが人間というものである。
 上へ、上へ、もっと上へ。
 伯爵子息、伯爵家嫡男、侯爵子息、公爵子息。
 その頃には、頬にくちづけるよりも、直接唇にくちづけた方が効果が高いのも知っていた。

 皮膚の柔らかい部分……粘膜での接触が良いのだろう、と確信していた。
 それならば狙うべきは、幼い頃に自分を「猿」と馬鹿にした男、王太子に純潔を捧げれば間違い無く虜に出来ると思った。

 幼い頃は仲の良かった婚約者とも、中等学校に入学してからはすっかり疎遠になっていると聞く。
 中等学校の3年間でしっかりと観察して判った。婚約者に愛など無いと、義務による婚約だと。


 そして高等学校の入学式。
 リシェ・スヒッペル伯爵令嬢は行動に出た。
 王太子にわざとぶつかり、その手に触れた。
 足を捻ったふりをして、そのまま保健室へと誘導する。
 そこで、強引にくちづけた。

 初めは軽く唇に触れ、そして抵抗されないのを見て、舌を絡める深いものへと変える。
 思惑通りに、王太子はリシェの言う事を拒否しなくなっていった。


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