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封印魔法

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 どうしたのだろう。
 いつものようにアレクサンデルが夜に目覚めると、ベッドではなく机に座ってうたた寝していたようだった。
 勉強でもしていたのかと机の上を見ると、教科書ではなく、魔法についての本だった。

 開いていたページは、封印魔法についてだった。
「封印魔法?」
 思わずといった風に、アレクサンデルが眉間に皺を寄せて呟く。当然だろう。
 禁忌や違法では無いが、その辺で簡単に掛けて貰えるものでは無い。
 それに、やはり副作用的な物があるようで、未来永劫封印……とはいかないようだ。

「何かを封印するつもりなのか?」
 すぐに思い付くのは、強力な魔物だ。倒す事が出来ない程の強い魔物は、封印されるのが一般的だ。
 次に、犯罪者の能力。
 相手を洗脳してしまうような凶悪な、しかし処刑するほどでも無い犯罪者の能力を封印する事がある。

 しかし、まだ王太子でしかない僕に、それを決める権限は無い。たとえ3年経っていても、まだ学生の自分にそれ程の重責を負わせるとは思えない。


『封印した弊害で、記憶障害が起きる事がある』
 ふと目に入った、本に書いてある文章。なぜか、その一文に目を奪われた。
 記憶障害。
 まさに今の僕ではないか。

 封印された僕が、アレクサンデルだとすると、今、昼間にアレクサンデルとして暮らしているのは誰だ?



 トントントン。
 寝ていたら気が付かない位の、微かなノック音が部屋に響いた。
 今の時間に部屋に訪ねて来る人物の心当たりは、一人しか居ない。
「ロドルフ先生……!」
 アレクサンデルは扉へと急いだ。

「先生……」
 扉を開けたアレクサンデルは、どこか安心したようにロドルフを迎えた。
「あぁ、良かった。もし昼間の方だったらこれを……アレク?」
 言い訳用に持っていた書類を見ていた視線を前に向け、ロドルフは言葉を止めた。
 アレクサンデルの顔色が、夜だからという事を抜いても余りにも白く見えたから。


 部屋の中へロドルフを招き入れたアレクサンデルは、そのまま机の前まで誘導した。そこには、開いたままになっている本がある。
「僕は、封印されたのでしょうか」
 アレクサンデルの視線が床へと下がる。

「私の調べた結果は、いま話しますか? ヴォルテルス公爵令嬢と一緒に聞きますか?」
 ロドルフの問いに一瞬考えた後、アレクサンデルは小声で「セシィと」と答えた。

 二人は部屋を出て、秘密の通路へと向かう。アレクサンデルの足取りは、いつもと違い、重い。
 言いようのない不安に、押し潰されそうだった。
 誰が自分を封印しようとしたのか。いや、封印したのか。
 自分では無いから、あの純潔の話を知らなかった?

 昼間の自分は誰なのか。


 それよりも、夜にしか出られない本当の自分は、昼間にも出られるようになるのか。
 このままでは、セシリアと婚姻するのは、昼間のアレクサンデルである。
 結婚式も、婚姻誓約書への署名も、そして初夜も、全てが昼間のアレクサンデルに奪われてしまう。

 他の何よりも、王太子としての地位や、両親と過ごす時間よりも、セシリアとの時間を奪われるのが、アレクサンデルは我慢出来なかった。


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