17 / 34
封印魔法
しおりを挟むどうしたのだろう。
いつものようにアレクサンデルが夜に目覚めると、ベッドではなく机に座ってうたた寝していたようだった。
勉強でもしていたのかと机の上を見ると、教科書ではなく、魔法についての本だった。
開いていたページは、封印魔法についてだった。
「封印魔法?」
思わずといった風に、アレクサンデルが眉間に皺を寄せて呟く。当然だろう。
禁忌や違法では無いが、その辺で簡単に掛けて貰えるものでは無い。
それに、やはり副作用的な物があるようで、未来永劫封印……とはいかないようだ。
「何かを封印するつもりなのか?」
すぐに思い付くのは、強力な魔物だ。倒す事が出来ない程の強い魔物は、封印されるのが一般的だ。
次に、犯罪者の能力。
相手を洗脳してしまうような凶悪な、しかし処刑するほどでも無い犯罪者の能力を封印する事がある。
しかし、まだ王太子でしかない僕に、それを決める権限は無い。たとえ3年経っていても、まだ学生の自分にそれ程の重責を負わせるとは思えない。
『封印した弊害で、記憶障害が起きる事がある』
ふと目に入った、本に書いてある文章。なぜか、その一文に目を奪われた。
記憶障害。
まさに今の僕ではないか。
封印された僕が、アレクサンデルだとすると、今、昼間にアレクサンデルとして暮らしているのは誰だ?
トントントン。
寝ていたら気が付かない位の、微かなノック音が部屋に響いた。
今の時間に部屋に訪ねて来る人物の心当たりは、一人しか居ない。
「ロドルフ先生……!」
アレクサンデルは扉へと急いだ。
「先生……」
扉を開けたアレクサンデルは、どこか安心したようにロドルフを迎えた。
「あぁ、良かった。もし昼間の方だったらこれを……アレク?」
言い訳用に持っていた書類を見ていた視線を前に向け、ロドルフは言葉を止めた。
アレクサンデルの顔色が、夜だからという事を抜いても余りにも白く見えたから。
部屋の中へロドルフを招き入れたアレクサンデルは、そのまま机の前まで誘導した。そこには、開いたままになっている本がある。
「僕は、封印されたのでしょうか」
アレクサンデルの視線が床へと下がる。
「私の調べた結果は、いま話しますか? ヴォルテルス公爵令嬢と一緒に聞きますか?」
ロドルフの問いに一瞬考えた後、アレクサンデルは小声で「セシィと」と答えた。
二人は部屋を出て、秘密の通路へと向かう。アレクサンデルの足取りは、いつもと違い、重い。
言いようのない不安に、押し潰されそうだった。
誰が自分を封印しようとしたのか。いや、封印したのか。
自分では無いから、あの純潔の話を知らなかった?
昼間の自分は誰なのか。
それよりも、夜にしか出られない本当の自分は、昼間にも出られるようになるのか。
このままでは、セシリアと婚姻するのは、昼間のアレクサンデルである。
結婚式も、婚姻誓約書への署名も、そして初夜も、全てが昼間のアレクサンデルに奪われてしまう。
他の何よりも、王太子としての地位や、両親と過ごす時間よりも、セシリアとの時間を奪われるのが、アレクサンデルは我慢出来なかった。
4
お気に入りに追加
346
あなたにおすすめの小説
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
いつまでも甘くないから
朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。
結婚を前提として紹介であることは明白だった。
しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。
この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。
目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・・
【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には
月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。
令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。
愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ――――
婚約は解消となった。
物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。
視点は、成金の商人視点。
設定はふわっと。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
やられっぱなし令嬢は、婚約者に捨てられにいきます!!
三上 悠希
恋愛
「お前との婚約を破棄させていただく!!そして私は、聖女マリアンヌとの婚約をここに宣言する!!」
イルローゼは、そんな言葉は耳に入らなかった。なぜなら、謎の記憶によって好みのタイプが変わったからである。
そして返事は決まっている。
「はい!喜んで!!」
そして私は、別の人と人生を共にさせていただきます!
設定緩め。
誤字脱字あり。
脳死で書いているので矛盾あり。
それが許せる方のみ、お読みください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる