上 下
16 / 34

日記

しおりを挟む



 自室に戻ったアレクサンデルは、ベッドに座って窓からの差し込む月の光を見ていた。
 なぜ、3年もの間の記憶が無いのか。
 なぜ、昼間の自分は婚約者セレシアを冷遇するのか。
 なぜ、昼間の自分は、猿だと言って馬鹿にしていた相手に欲情するのか。
 なぜ、なぜ、なぜ。

 ロドルフが調べてくれると言っていたので、頼る事にした。
 それは仕方が無い。
 なぜなら、アレクサンデルは昼間はであり、調べる事が出来ないのだから。

「いや、出来る事を探そう」
 まずは自由に動き回れる部屋の中だ。
 ベッドから立ち上がったアレクサンデルは、部屋にある机へと向かった。


 上から順に引き出しを開ける。
 見覚えの有るものも、無いものも、綺麗に整理整頓されて入っている。
 そういうところは、自分では無いが自分がやったのだと納得する。根本は変わっていない。
 それならば、なぜ。

 1番下の引き出しを開け、ふと思い出して上の段の板に触れた。
 1番下の引き出しは大きく深く、目一杯物を入れる事が無いので、上の板に薄い本が入る程度の袋を貼り付けた、簡易な隠し場所を作ったのだ。

「メイドが片付けたのならば、ここの日記はまだあるはず」
 触れると、確かに硬い感触がした。
 誰にも読まれたくない、恥ずかしいセレシアへの愛が詰まった日記。
 アレクサンデルの記憶では、中等学校入学式で見掛けた愛しい婚約者への愛と、フラート子爵令息に聞いた閨の話により妄想した願望を書いたのが最後だった。



「……あれ?」
 周りに誰も居ない事を確認して開いた日記には、記憶よりも1日多く日記が書かれていた。
 日付は、入学式の翌日。記憶を無くした当日である。

『一晩考えたけど、フラート卿の提案を受け入れようと思う。』
 そう書き出してあるので、当日の朝に書かれたものだろう。
『セシィと抱き合う夢を見た。』
 間違い無く自分の字なのに、アレクサンデルの記憶には全然無い内容だ。

『このままでは、僕はセシィの純潔を結婚前に無理矢理奪ってしまうかもしれない。そうしたら、僕に非があってもセシィは正妃になれなくなってしまう。』

 婚姻時に純潔でないと王太子の妃にはなれない。勿論、正妃だけでなく、側妃としても同じ条件だ。しかし、純潔云々の件は女性側には知らされない。
 それは、託卵や体から籠絡しようとする者への対策だった。知ってしまえば、やり口が巧妙になってふせにくくなってしまうからだ。


「ははは。そうだった。それなら猿は僕の妻にはなれない」
 だから、ロドルフがスヒッペル伯爵令嬢の件を、あまり重要視していないのだと気が付く。
 それにしても、とアレクサンデルは首を傾げた。

 まだ側近候補なので、学生の三人は知らない。
 しかし、王太子は知っているはずだ。
 勿論、セシリアの父であるヴォルテルス公爵も知っているが、まさかスヒッペル伯爵令嬢と既に関係を持っているとは思っていないだろう。

「昼間の様子を聞く限り、王太子は猿との関係を隠していない。なぜ、そんな自分の評判を落とす事をしてるんだろう?」
 スヒッペル伯爵令嬢は、正妃にも側妃にもなれない。妾がせいぜいだ。

 純潔の件を忘れてる?
 それとも、他に理由があるのだろうか。
 アレクサンデルには判らなかった。


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・・

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

やられっぱなし令嬢は、婚約者に捨てられにいきます!!

三上 悠希
恋愛
「お前との婚約を破棄させていただく!!そして私は、聖女マリアンヌとの婚約をここに宣言する!!」 イルローゼは、そんな言葉は耳に入らなかった。なぜなら、謎の記憶によって好みのタイプが変わったからである。 そして返事は決まっている。 「はい!喜んで!!」 そして私は、別の人と人生を共にさせていただきます! 設定緩め。 誤字脱字あり。 脳死で書いているので矛盾あり。 それが許せる方のみ、お読みください!

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

処理中です...