上 下
14 / 34

思春期と欲

しおりを挟む


 中等学校入学式当日の顔合わせの話は、思いも寄らない方向へと向かっていた。
 思春期の少年の、婚約者へは聞かせたくない話である。

「フラート子爵令息は真面目そうな好青年に見えるけど、とても経験豊富でね。未亡人との閨の話なども詳しく話してくれたんだ」
 顔を真っ赤にして話すアレクサンデルは、まさに思春期の少年だった。

「そ、それでね。聞いた話から色々想像しちゃうし、セシィに囲まれてるのが恥ずかしくなっちゃって、部屋から大きなセシィの絵とかを片付けるようにお願いしたんだ」
 そこまで話して、アレクサンデルは視線をセシリアに合わせる。

「でも! 小さな絵は残すようにお願いしたし、僕が片付けるようにお願いしたのは絵だけだ。セシィから貰った手紙や贈り物はなぜ無くなってるのか判らない」
 必死に訴えるアレクサンデルの様子に、嘘は無いようだった。


「片付けたメイドに確認してみましょう」
 話を聞き終わったロドルフは、そう言って立ち上がった。
「よろしくお願いします! ロドルフ先生」
 ソファに座ったまま言うアレクサンデルへ、ロドルフが笑顔を向ける。

「何をしているのですか? 貴方も帰るのですよ」
 有無を言わせない笑顔に、アレクサンデルは急いで席を立つ。
「また明日ね! おやすみ、セシィ」
 小さく手を振って別れの挨拶をするアレクサンデルは、間違い無くセシリアの愛していた人だった。



 何も解決していないし、何も状況は変わっていないのに、アレクサンデルの心は軽くなっていた。
 それはロドルフという心強い仲間が出来たお陰かもしれないし、セシリアへの隠し事が1つ減ったからかもしれない。

 ヴォルテルス公爵邸からの通路を、ロドルフの後に続いて歩いていたアレクサンデルは、綺麗に整えられ纏められた髪を見つめた。前は肩までだった髪は、左側に纏めて結んである。
 見上げていたはずだった視線は、今では僅かに下にあった。

「3年って、長いよね」
 ポツリとこぼれた言葉は、自分の足音に消されてしまうほど小さなものだった。


「入学式翌日の行動と、荷物の件は調べておきます」
 図書室へ帰って来てすぐに、ロドルフはアレクサンデルへ声を掛けた。
「何日か掛かりますので、お二人の時間を大切にしてください」
 それは、セシリアとアレクサンデルの夜の逢瀬を見逃してくれる、と暗に言っている。

「それから、もしも変な痛みや痒みがあったら、夜中だろうが侍医の所へ行ってください」
 今度の言葉は意味が解らず首を傾げると、ロドルフの手がアレクサンデルの大切な部分を服の上からポンポンと叩いた。
「何が仕込まれているか判らない所へ突っ込んでるんです。昼間の貴方には言うだけ無駄ですからね」
 アレクサンデルの顔が青褪めた。

「僕があの猿と、その、やってるって事だよね」
「ええ。今は猿と言うよりも娼婦ですけどね」
 ロドルフの嫌悪の滲んだ言い方に、アレクサンデルはセシリアに見せられた今のスヒッペル伯爵令嬢を思い出していた。


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・・

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...