私の未来を知るあなた

仲村 嘉高

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18:孤立無援

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 なぜこうなった。
 食堂で昼食を食べながら、マルガレータは密かに溜め息をく。
 マルガレータの右にはヴァルト、左にはアールトが座っている。
 因みにヴァルトの右にはヨハンナ、アールトの左にはクスタヴィがおり、テーブルは丸いのでヨハンナとクスタヴィが並ぶ事になった。

 改めての自己紹介の時に、ヴァルトは「一応、ヨハンナとは婚約者です」と「一応」を強調して言っていた。
 お互いに好きな相手が出来たら解消する関係だとは言っていたが、その様子にマルガレータは違和感を感じる。

 まさかクスタヴィとヨハンナが恋仲になると知っている? とも思ったが、ティニヤのような存在がそうほいほい存在するはずが無いと、頭を軽く振って否定する。
 王族のクスタヴィがヨハンナにあからさまな好意を見せているのである。婚約解消をにするつもりかもしれない、と。


「どうかした?」
 難しい顔をしながら食事をしていたからだろう。
 ヴァルトがマルガレータへと問い掛けてくる。
「いえ。周りの目が痛いな、と」
 マルガレータは誤魔化し、笑う。半分は本心だ。

 ヨハンナとクスタヴィを話させる事が目的な席なのでしょうがないとはいえ、キラキラ王子とキラキラ公爵令息に挟まれているマルガレータに羨望の眼差しが集まっている。
 王族、公爵家、侯爵家の集まりに、無理矢理割り込む者は普通はいない。
 それでも、見る事は自由なのだ。



 だがしかし。
 空気を読めない者は、やはり信じられない行動をする。
「ねぇ、食堂ここのテーブルって六人掛けでしょ? 私の席をあそこに用意して」

 王族と高位貴族の中でも位の高い公侯爵家のテーブルへ、たかだか伯爵家の令嬢であるサンナが割り込む気満々で近寄って来た。
 しかも、食堂の従業員に席の用意を指示しながら。

 サンナが「あそこ」と指し示した場所は、アールトとクスタヴィの間である。
 今まで王太子と一緒に行動していたから、大抵の我儘は許されてきた。
 そのせいで、自分も王族の仲間だと勘違いしているらしい。


 あれほど強くアールトに否定されたのに、もう既にサンナの頭の中からは抜け落ちたようである。
 それともマルガレータから王太子を奪った事で、自分の方が上だと勘違いしたのか。
 マルガレータが居るのだから、自分も良いだろう、という事なのかもしれない。

 焦った従業員は、急いでその場を離れた。
 椅子を用意しに行ったと思ったのだろう。満足そうな顔をしたサンナがどんどん近付いて来る。
 その後、失礼にならない程度の早足で、食堂の責任者がテーブルに到着した。
 ほぼサンナと同時である。

「お食事中失礼いたします。席を追加するようおっしゃられたと聞きまして」
 責任者は困惑顔である。
 当然だ。他の者が座らないように、態々わざわざヴァルトが一席片付けさせたのだから。


「いや。このままで構わないよ。頭のおかしな令嬢が何か言ってきても、僕の名前で断って良い」
 アールトが責任者に、キッパリと宣言する。
 席が用意されるのを待ってすぐ近くに居たサンナにも、当然その声が届く。

 プルプルと震えていたサンナは、アールトとクスタヴィの傍から大股で移動し、マルガレータの後ろへと立った。
 そして信じられない行動に移る。

「ちょっと! アンタが居るから私の席が無いんでしょう!? どきなさいよ!」
 マルガレータに向かって叫びながら、その座っている椅子を掴んで後ろへ力いっぱい引いたのだ。


 貴族女性は、深く椅子に座る事は無い。
 ドレスは後ろに飾りリボンがある事が多いし、座る面積が広いと姿勢も悪くなりがちになるからだ。
 その為、マルガレータも当然浅く腰掛けていた。
 その椅子を引かれたら……?

 しかし、皆が心配した悲惨な状況にはならなかった。
 横の席のヴァルトが自分の椅子を倒す勢いで立ち上がり、椅子から落ちそうになったマルガレータを支えたのだ。
 見ていた人々がホッと胸を撫で下ろした瞬間、ガタンと倒れる音と、みっともない声が響いた。


 マルガレータの座っている椅子を無理矢理引き抜いたサンナは、無様に床に転がるマルガレータを想像してほくそ笑んだ。
 しかし床に転がったのは、ヴァルトが立ち上がった事により倒れてきた椅子に巻き込まれた自分だった。

「うおわあぁ!」
 淑女とは思えない悲鳴をあげながら、サンナは二脚の椅子と共に床に倒れ込んだ。
 それなのに、それなのに!
 目当ての男達の視線は、ヴァルトに支えられているマルガレータだった。
 皆に大丈夫か? と心配されているマルガレータの後ろで、惨めに転がっているサンナ。

 従業員でさえ、サンナではなくマルガレータの心配をしている。
 マルガレータの無事が判ると、周りからクスクスという笑い声が聞こえてきた。
 やっと周りの関心がサンナに向いたのである。


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