私の未来を知るあなた

仲村 嘉高

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13:無調法

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父親の名前をアンテロからエーリクに変更しました。王太子のアルマスと紛らわしいからです。(実際に何ヶ所か間違ってました)すみません
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「ねぇティニヤ。隣国の王子が留学してくる時に、アールト殿下も一緒に帰って来るの?」
 夜。ベッドに入って後は寝るだけ、となった時。
 ふとした疑問がマルガレータの頭に浮かび、そのまま口に出していた。

『いいえ。私の時には帰って来ませんでしたね』
 今回は王太子の置かれた立場が変わっているので、もしかしたら帰って来るかもしれないという事だろう。
 リエッキネン侯爵家の後ろ盾が無くなった王太子の立場は、マルガレータが思っているよりもあやういのかもしれない。



 朝。まだマルガレータが朝食を食べている時に、困惑した表情の執事が食堂へと入って来た。
 そのただならぬ雰囲気に先に反応したのは、リエッキネン侯爵家当主のエーリクだった。
「どうした?」
 口元をナプキンで拭きながら、静かに問い掛ける。

「それが、王太子殿下がお嬢様を迎えに来たとおっしゃっておりまして……」
 語尾を濁す言い方は、侯爵家の執事としては大変珍しい事である。

 おそらく王太子は「もう出発した」と言われないように、有り得ない程早い時間に来たのだろう。
 それはそれで、とても無作法な事なのだが、王太子だという甘えと傲慢のせいで気付いていないようだ。

 その前に、婚約者でも無い女性と密室になる馬車に乗るなど常識が無さ過ぎるが。

「いつも通り、うちの馬車で行くわ」
 マルガレータは食事の手を止めず、そして急ぐ様子も無い。
 これが先触れのある普通の面会ならばまた違うのだが、その場合は逆に食事中という事は無いだろう。
 とにかく、王太子は完全に招かれざる客だった。


 王太子には先に行くように執事から伝えてもらい、マルガレータは制服へと着替える為に自室へ向かった。
 高位貴族は一日に何回も着替えてなんぼ、なところがある。
 朝起きてすぐに制服には着替えない。

『まだ待っておりますわよ、あのボンクラ』
 様子を見て来たのだろう。ティニヤが大袈裟に肩をすくめて見せる。
 その様子がおかしくてマルガレータは笑いそうになるが、メイドに着替えを手伝ってもらっている為、グッと堪える。
「お嬢様? どうかされましたか?」
 案の定、メイドに怪訝な顔をされてしまったが、マルガレータは苦笑して誤魔化した。

「あ! 下の、あの方の事ですか?」
 メイドは都合良く勘違いしたようで、マルガレータを気遣う表情に変わる。
「お嬢様が婚約者だった時には寄り付きもしなかったくせに、今更ですよね!」
 屋敷の使用人から見ても、やはり王太子は最低の婚約者だったようである。

 マルガレータが王子妃教育で王城へ行っていたのもあるのだが、王太子はリエッキネン侯爵邸には寄り付かなかった。
 今ならば、おかしな事だとマルガレータも気付いている。
 しかし婚約者時代は、それが普通だと思っていた。思い込まされていた。


「遅いぞ! マルガレータ!」
 馬車に乗る為にマルガレータが屋敷を出ると、目の前には王族の馬車の前で腕を組んで仁王立ちをしている王太子が居た。
 いつもならばマルガレータ用の送迎馬車が停まっている場所である。
 その為、マルガレータの馬車は少し離れた所に停まっていた。

 小さく舌打ちして、マルガレータは自分の馬車へと向かう。
 自分の存在を無視して歩き出したマルガレータに、王太子は驚き、そして次に怒りだした。
「おいマルガレータ! 何を無視していやがる!」
 顔を真っ赤にして向かって来る王太子を、マルガレータは冷めた視線で一瞥した。


「私はもう婚約者では無い、と知っておりますよね? まだ国王陛下からお聞きになっておりませんか?」
 名前呼びを直すように、リエッキネン侯爵家から王家へ正式に苦情を送っている。
 もしまだ聞いていないならば、もう一度送る、と暗にマルガレータは言っていた。

 怒りで顔を赤くしたまま、王太子はギリリと奥歯を噛み締める。
「リエッキネン侯爵令嬢、学園まで送ってやるから乗れ」
 呼び名を直しても、反省の色は一切無いようである。

「婚約者でも無い男性の馬車には乗れませんわ。失礼いたします」
 淑女の笑顔でそう言うと、マルガレータは歩き出した。
「だから! 婚約者に戻してやると言っているんだ!」
 マルガレータの背中に向かい、王太子が叫んだ。

 クルリと振り返ったマルガレータは、この上なく美しい、極上の笑顔を浮かべている。
 その笑顔を見て、やはり婚約者に戻りたかったのか! と思った王太子は、満足そうな、相手を蔑むような皮肉な笑顔になる。

 しかし、聞こえてきた言葉は、王太子が望んだものとは違った。
「ご期待に沿えず大変申し訳ございませんが、ご要望にお応えいたしかねます」
 おかしな言い回しな事にも気付かず、王太子は信じられないとでもいうように、ただ呆然と立ち竦んでいた。


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