私の未来を知るあなた

仲村 嘉高

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05:あの時に起きていた事

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 王太子アルマス・ヤルヴィサロは、戸惑っていた。
 婚約者の今までと違う態度に。
 人一倍努力家で、自分の言う事に全て従う、とても扱いやすく利用しやすい婚約者マルガレータ・リエッキネン。
 アルマスが苦手な外国語は、マルガレータが積極的に勉強していた。
 それとなくそう誘導したのは、他ならぬアルマスだ。

 王太子妃教育は、一度受けたら他家には嫁げない。何があっても、王家から逃げられなくなるのだ。
 いや、一つだけ逃げる方法があった。
 天国へ行く事である。

 その最終手段をマルガレータが選ぶとは思えず、王太子妃教育さえ始まってしまえば、自分は何をしても侯爵家側から婚約解消は出来ない……はずだった。


 学園入学直前に王太子妃教育を始めさせれば、マルガレータには自由時間が殆ど無くなる。
 学園内でアルマスが他の女生徒と何をしても、多少は責められるかもしれないが、婚約解消が出来ないのだから、マルガレータは泣き寝入りするしか無い。

 それなのに、それなのに。
 なぜか。
 学園入学直前に、王太子妃教育は卒業後に始めると言い出したのだ。


「いきなりなんなのだ、あの女は」
 アルマスは学園に向かう馬車の中でいきどおっていた。
 王太子妃教育はしないと言い出し、入学式には一人で先に行ってしまったマルガレータ。
 別に一緒に行きたかったわけでは無いが、自分よりも他の事を優先された事実が気に食わないのだ。

 イライラしていても、時間は過ぎて行く。馬車は無事に学園へと到着していた。
 馭者が扉を開けたので、馬車を降りる。
 アルマスの目の前には、媚びを売る瞳を隠そうともしない女生徒達。
 そうだ。これが俺の周りにいるべき女の姿だ。
 口の端をニヤリと持ち上げ、アルマスは一歩踏み出した。



「初めまして! 王太子殿下ぁ。私、ウーシパイッカ伯爵家のサンナと言いますぅ」
 両脇を締めて胸を強調したサンナは、そのままスカートを摘みカーテシーをする。
 その時に思いっ切り息を吸い込み、胸を張った。
 バツンッと凄い音がして、サンナのボタンが弾け飛んだ。

 有り得ない勢いで飛んだボタンは、馬車に当たり硬い音を立てて地面に落ちる。
 サンナは狙い通りに弾けたボタンと、ブラウスから半ば零れ落ちた胸に釘付けのアルマスの視線に、満足気な笑みを浮かべた。

「あぁ! 申し訳ありませぇん! 急に大きくなってしまって、制服の直しが間に合わなかったのですぅ」
 そう言いながら、慌ててブラウスの胸元を両手で掴んで合わせる。
「あ、あぁ……」
 適当に返事をするアルマスの視線は、相も変わらずブラウスの間から見えている肌色である。

「確か、留めるピンを持ち歩いていたはず……」
 サンナはジャケットのポケットを探る。
 片手を離してしまった上に腕を動かすので、片方の乳は今にも飛び出しそうである。
 アルマスが期待を込めて見つめていると、サンナは「あった!」とピンを取り出した。


「あのぉ、申し訳ありませんが、布地が届かないので手伝っていただけますか?」
 サンナが上目遣いでアルマスを見る。
 通常ならば王太子に手伝わせるなど、有り得ない程の不敬行為である。
 しかし、何か言おうとした従者を手で制し、アルマスは優しく応える。
「何をすれば良いのかな?」

「私の両胸を手で寄せて欲しいのです」
 サンナの後ろに居る女生徒達が、ザワリと揺れた。
 不敬の前に破廉恥で、貴族の令嬢ならば同性の友人にも頼まないだろう。
 さすがにアルマスも躊躇する。
 それに気付かないわけは無いのに、サンナはアルマスの両手を持ち、自分の胸の両側へ導いた。

「ここを持って」
 柔らかいサンナ胸は、アルマスの手でも掴めないほど大きい。
「こう、押して」
 サンナの手に押され、アルマスの手が胸をグイッと押す。
 ブラウスの中で、小山のように肌色が盛り上がる。

「そのまま持っててくださいね!」
 アルマスに胸を持たせたまま自分の手を外したサンナは、ボタンのあった位置を大きめのピンで停めた。
 アルマスの喉が上下に大きく動くのを見て、サンナは心の中で「掛かった!」と叫んでいた。


 その後「まだ肌が見えるので恥ずかしい」との理由で、サンナはアルマスの腕に掴まって歩いた。
 他の女生徒は当然反対したし、文句も言ったが、アルマスは「困っている人は助けないと」と周りを無理矢理黙らせた。

 ティニヤ曰く『前は鼻の下が伸びきって、だらしない顔をしていた』らしいが、今回も同じ顔をしていた事だろう。


────────────────
牛娘の名前ですが、この話を書く時に「欧羅巴人名録」の適当に命名で出てきた名前です。
空気読んだのか!?と、驚きました。
ウーシパイッカって(笑)

因みにティニヤはメロン、サンナはスイカップです
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