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王立魔法学園~甘いは誰のため~(ざまぁはないよ!)

乙女ゲーム:甘くない令嬢

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 入学式から3ヶ月が過ぎていた。
 新緑の季節が終わり、夏が近い事を風が告げる。
 直射日光を浴びれば汗ばむほどの暑さだが、木陰ではカラリとした風が肌に気持ち良い。


 ショコラは、大きな木の根元へ座り、木に寄りかかりながら持参したパイを食べていた。

 王国から補助が出ているとはいえ、他の生徒のように自由にできるお金が、どこかから勝手に湧き出てくるわけではない。
 食事代は掛からないが、さすがに毎日のおやつ代までは出ない。
 サロンと呼ばれる場所に行けば色々なおかしが食べ放題だが、貴族の令嬢に混じりそこへ行き、扇で口元を隠しながら会話をし、クッキー1枚を何口にも分けて食べる事はしたくなかった。

「マカディ様、わたし、自分でお菓子を作りたいです。
 寮の厨房を貸していただけるように、お願いしていただけませんか?」

 ショコラのお願いに、マカディーアは「自分で作るのか?」と驚きながらも、寮へと話を通してくれた。
 それからはほぼ毎日、自分でお菓子を作り、学園へ持参している。
 サロンで出されるような高級菓子とは違って素朴な味のお菓子は、マカディーアも気に入ったようで、作る度にお裾分けするととても喜ばれた。

 パイを食べ終わると、タイミングを見計らうようにショコラの前に人影が立つ。
 逆光で顔は見えないが、ショコラにはそれが誰だかすぐに判った。
 入学式の日に自分に声を掛けて来た貴族。
 シフォンティーヌ・エクレール公爵令嬢。
 後で知った事だが、彼女はマカディーアの婚約者だ。

「ショコラ様、またそのような所にお座りになって、育ちが知れますよ」
 いつものように扇で口元を隠し、シフォンティーヌはショコラに声を掛けてくる。
「このような場所で、しかも手掴みで物を食べるなど令嬢のする事ではありませんわ」
 シフォンティーヌといつも行動を共にしている女が更にショコラを貶める。
 前に挨拶をされた時には、侯爵家だと名乗っていた。
 更に他の令嬢がショコラの膝の上にヒラリとハンカチを落とす。
「まぁ、そのような所で手を拭くなどはしたない。これでもお使いなさい」
 その目に、自分より下の者へと施しをしてやったという色が、ショコラにはハッキリと見えた。


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