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ヒロインside
第93話:断罪後
しおりを挟む頭が真っ白になるって、本当にあるんだ。
マカ様が王子様じゃないんだって。
それに、何となくは気付いてたんだ。
マカ様は、別に私を好きじゃないんでしょ?
でも、私もマカ様が好きだったわけじゃないから全然良いんだけどさ。
綺麗な服とか買えて、誰も私に逆らわない立場、そんなものが嬉しかっただけ。
何もしなくても、なんでも出て来る環境。
「凄い」と褒めれば、それだけで「チョコアは素直だね」と言ってチヤホヤされた。
呆っとして過去を思い出してたら、いつの間にか音楽が流れている!?
何で私達を無視して、楽しそうにダンスなんてしてんのよ!
マカ様が手を踏まれた。
フィオとかいう女といつも一緒にいる伯爵家の女だ。
文句を言ったら、逆に怒られた。
え?伯爵家の中でも順番があるわけ?
今度は侯爵家の女!?
あの女、そんな偉い立場だったの?
まだ這いつくばってるマカ様を、カシィとアーモが立たせて連れて行った。
2人とも私を見もしない。
なんで無視すんのよ。
大体、カシィが婚約破棄されたのだって、自分に魅力がないからでしょ?
私、関係ないじゃん。
マカ様だって、婚約破棄されたのは魅力がないからじゃん。
そうだよ。
私、悪くなくない?
学園に行ったのだって、魔力が高いから学園で学ぶようにって強制されたんだよ。
学費は出すって言うから、一切お金かかんないと思ってたのに、日用品は自腹っておかしくない?
制服だって汚れても新しいのすぐにくれないしさ。
他の寮生は洗濯とか自分でやらないのに、私だけ自分でやれとかさ。
じじょがやってるって何よ、ソレ。
じゃあそのじじょに私の身の回りの世話もやらせなさいよ。
あぁ、思い出したらムカムカしてきた。
実家に帰って、両親にお腹の子は王子様の子じゃないって言ったら「じゃあ働け」と言われた。
下町では、妊婦だからとのんびりはしていられない。
お腹が大きくなってもできる事をした。
両親は何も言わず、何も聞いてこなかった。
寒い夜。女の子を産んだ。
「自分で育てるか?」と聞かれたので「無理」と即答した。
マカ様の実家に引き取られた。
「会いたければ、連絡を入れれば会える」と言われたが、別に興味ない。
学園も手続きすれば復学できるらしいが正直興味ない。
魔力が高いって言われても、雷じゃなんの役にも立たないって事だけは勉強してわかったよ。
数年後、大きな商店の三男の後妻に収まった。
私は22歳だったが、相手は56歳だ。
私の仕事は、家事でも育児でも、後継を産むことでも、夜伽でもなかった。
新しく開発された大型の魔道具に魔力を注ぐだけ。
主人には妾がおり、30歳と38歳の2人とも、美人でスタイルが良い。
いつも綺麗な服を着て、店で貴族など客の相手をしている。
お店は長男が経営しているらしく、その家族が仕切っている。
次男は才覚があり、自分で事業を起こして独立したそうだ。
兄弟仲はとても良く、手を取り合って店を盛り立てている……らしい。
私は独り、敷地内に建てられた別家で暮らしている。掃除や洗濯は、私の仕事中に使用人が済ませてくれる。
そして、日々の生活には困らない程度のお金を貰っている。
いや、実家にいるよりは余程贅沢な暮らしが出来ている。
綺麗な服を買えるし、美味しい物も食べに行ける。
年に2回は、宝石を買う位の贅沢はできる。
最初の2年位は楽しかった。
だが最近は外に食べに行くのが面倒になり、使用人に食事を届けさせている。
一度、一緒に食べて良いか聞いたら「奥様が使用人部屋で食事などありえません」と断られた。
もう何年、いや10年以上?誰かと食事を共にしていない。
仕事も独りで黙々と魔力充電をするだけで、会話どころか挨拶もしない。
マカ様の実家に「娘に会いたい」と連絡したら、遠くの領地に嫁に行ったと言われた。
そして娘からの伝言が『二度と連絡して来ないで』だった。
綺麗な服や宝石を買って、美味しい食事をして、身の回りの事を他の人がしてくれる。
私が望んだ生活を今しているはずなのに、なぜかとても辛くなるのはなぜだろう。
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