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さぁ、アレの本番です。
第88話:お祝い
しおりを挟むスローだが明るい曲が会場内に流れている。
王太子の命令とはいえ、1人の貴族が会場の真ん中で跪いているのに、完無視して明るい曲を演奏し始めるって……。
四つん這いのマカルディーと立ち尽くすチョコアを器用に避けながら、皆がダンスを始める。
本来なら王家の人間がファーストダンスを踊ってから本格的なダンスになるのだが、今日は陛下がダンスを始めてOKと手で指示を出したのです。
それで躊躇なくパーティーが始まるって……ねぇ。
どれだけ皆に嫌われてるんでしょうね、バカ殿下。
あ、違ったマカルディー様。
見えなかったフリして、誰か手でも踏んでくれないかな。
「ギャッ!」
「あら、ごめんなさいませ。見えませんでしたわ」
実行した猛者がいた。
ジェラールとビゼタールだ。
「ぶ、無礼でしょう!同じ伯爵家なのだから、もっときちんと謝罪を……」
あら、落ちこぼれってば休学中に貴族関係の勉強してたのね?
王太子妃、延いては王妃になるつもりだったようだけど、それにしては勉強不足ね。
「誰が同じ伯爵家ですか。無礼な!
プリシング家は筆頭伯爵家ですよ。
私に家督が譲られる際には、辺境伯の地位を賜る事も決定しているのです」
え?そうなの?それは知らなかったわ。
おめでとう!ジェラール!
「うっ!」
またしてもマカルディーの声が聞こえた。
今度は呻くような声。
「そんな所で何をしているのです。
邪魔ですわよ。さっさと退きなさい」
今度はミリフィールとルーベンですね。
私は見た。
ダンスに託けて、靴の踵で脇腹に後ろ蹴りを入れていたのを。
「何ですか?筆頭侯爵家の私に文句でも?」
ミリフィール!見事な悪役令嬢っぷりです!
多少勉強したのが仇になったのか、チョコアは何も言えずに立ち竦んでいます。
しかし惨めですね、ヒロイン様。
王太子の子供だと思ったからか、お腹が目立つドレスです。
胸元はV字に開き、胸の下にはリボンでの切替えがしてあり、そこから下がギャザーになって広がるデザインです。
しかし、妊婦になってもジェラールより乳が小さいって……プッ。
前世だったら、「太り過ぎですよ!」と産婦人科医に怒られるレベルの増加率なのに。
え?乳のサイズ順?
サラ>ミリフィール>ジェラール>私……皆がデカイんだよ!
良いの、私は美乳なのよ。
ジェラールのが更に美乳だけどね。フン。
ざまぁみろ、と壁際まで移動してマカルディーを観察していたら、誰かが近付いて来るのが見えた。
背の高い2人が並んでると格好良いな~なんて眺めていると、それが知った顔だと気付く。
竜人のシュヴァルツェと、謎多きリュオだ。
シュヴァルツェは竜人国の正装だろう騎士服で魅力5割増だ。
リュオの正装は……紋付羽織袴!?
「フォンティーヌ嬢、お疲れ様」
シュヴァルツェの言葉に笑顔を返す。
とても卒業式での挨拶とは思えない声掛けだが、今の私にはピッタリの挨拶だわ。
「おめでとう……って言って良いのか?」
「勿論!卒業も婚約破棄も目出度い事よ!」
リュオの台詞に、間髪入れずに答える。
だって嬉しいもの。
「それなら、安心した」
そう言って袂から箱を取り出し、渡して来る。
見覚えのあるこの箱は……紅白饅頭だぁ~!!
日本人のお祝いと言えば、これだよね。
「本当ならダンスに誘うところなのだが、自国の正装はコレだからな」
リュオが袖口を掴み、両腕を広げる。
まるで奴凧だ。
「日本には社交ダンスの習慣ないですからね~」
つい、ポロリと出てしまった。
紅白饅頭に羽織袴で、油断してしまったのだ。
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