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乙女ゲーム本編突入です。
第78話:黒い笑顔
しおりを挟むチーズハンバーグが勝った。
え?何にかって?
チョコアにだよ。
池ポチャしたらしいチョコアを見に行くつもりだったらしいライジ殿下に、チーズハンバーグを食べた後では駄目かと訴えたのだ。
一瞬ポカンとしたが、すぐに復活して従者に二言三言告げてから「そうだな」と、食事を再開したのだよ。
まだ熱々の湯気をあげているチーズをたっぷり絡めて、ハンバーグを一口。
はぁ、美味しい。
ライジ殿下から一口貰った油淋鶏もパクリ。
これも美味しい。
食事の美味しい世界で良かった。
「人が池に落ちたってのに、何、呑気に食事なんてしてんのよ!」
私の幸せを打ち壊す声が食堂に響いた。
は?アンタが池に落ちようが私には関係なくね?
無視して食事を続ける。
「池に人が落ちたのに心配もせず食事をしているなんて、俺の婚約者はなんて冷酷なんだ!」
更に不快な声が聞こえてきた。
無視して良いかな?
どうしようか迷って横にいるライジ殿下をチラリと見上げると、ニヤリと笑う黒い笑顔と目が合った。
「フィオ、それ頂戴?」
腹黒殿下がパカリと口を開ける。
私の持つフォークには、ポテトフライが刺さっている。
これは、あ~んをしろと言う事か。
この状況で!?とは思うが、逆らうのは得策ではあるまい。あの笑顔を見た後では特に。
自分で食べるつもりだったから溶け出したチーズとハンバーグソースがたっぷり絡めてあるポテトフライを、ライジ殿下の口に運んだ。
「フィオ」
名前を呼ばれて振り向く。
目の前にはタルタルソースがたっぷりとかけられたエビフライ。
はい?
ライジ殿下の「お前が釣れてどうするよ」と言う呆れた声が聞こえたが、その意味を追求する余裕は勿論ない。
リュオは私の目をジッと見て、引く気がないのか更にエビフライを私の口元に持ってくる。
食べれば良いんでしょう?食べれば!
意を決して、口を開けた。
「まだそんな所にいるのか」
ライジ殿下の声に食堂の入り口を見ると、毛布に包まれている全身ずぶ濡れのチョコアと、それを支えながら立つバカ殿下がいた。
バカ殿下の表情は怒りを表している。
「お前のせいでチョコアが池に落ちたのに、何の罪悪感もないのか!」
顔を真っ赤にして怒鳴っているが、意味わからん。
食堂で食事していた私が、どうやったらチョコアを池に落とせるのよ。
「申し訳ありませんが、マカルディー殿下のおっしゃっている意味がわからないのですが」
頬に手を当てながら首を傾げて見せる。
「池の上にお前の扇子の羽があったから、優しいチョコアが拾ってやろうとして池に落ちたんだ!」
馬鹿か。馬鹿なのか。いや、馬鹿だったな。
濡れ衣どころか、単なる言いがかりじゃねえか!
しかも取れた扇子の羽なんて要らねえわ!
バカ殿下の後ろにいた豆ズの2人も、何言ってんだお前みたいな表情でバカ殿下を見てるよ。
「そんな事より、さすがに彼女をどうにかしてあげた方が良いんじゃないか?
寒さで真っ青になっているよ」
ライジ殿下が優しい言葉を掛ける。
マジか!この腹黒が天敵を思いやる言葉を!?
でも確かに、珍しく静かだと思ったら、顔色は真っ青だし体はガタガタと震えている。
「寮の王室用の部屋なら、確か大きな浴室があったはずだな。
サライ、先に行って準備を。
マカルディー、彼女を連れて行ってやると良い。
そこの2人は、付いて行っても中には入れないから、残って昼食を食べるように。午後も授業はあるのだからな」
ツラツラと言葉を紡ぐライジ殿下。
まるで用意されていたように。
でも、今回の池ポチャは無関係なんだよね?さっきサラに言ってたし。
しかし、全然関係ないけど、あの従者さんの名前はサライさんなんだね。
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