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乙女ゲーム本編突入です。

第68話:当たって欲しくなかった

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 3年生になって、魔法授業は完全に属性ごと分かれて行われています。
 皆、基礎は出来ているので、実践授業だからでしょう。私のように多種属性持ちは、授業を渡り歩くのです。

「先生、これから水に行ってもよろしいでしょうか?」
 風属性授業の本日のテーマは、鋭く回転する竜巻を複数個作り、飛ばして敵を抉るエゲツない魔法。
 それをものの10分も掛からず出来てしまった。
 多分、前世のアニメでを見た事があったので、イメージしやすかったからだろう。
 妹が好きだったアニメ。
 遊びに来た妹と、よく一緒に見たなぁ。

 最近思い出す事なかったのに、久しぶりに妹の事を思い出した。
 ちょっとセンチメンタル。

「大丈夫ですよ。今日は中庭で授業している予定です」
 緑の髪が美しい風属性授業受持ちの教師に許可を貰い、水属性授業へと移動する。
風属性授業は、裏庭と呼ばれる土の堅められた殺風景な場所で行われていた。周りに物があると、全部巻き上げちゃうからね。

 中庭に向かって歩いていると、怒鳴り声が……
 うわぁ、当たって欲しくなかったけど、予想通りの人だった。

「早く誰かやりなさいよ!」
 何を?とそっと覗き見ると、チョコアがクラスメイトに両手を差し出している。
 懐かしい。
 手を繋いで、魔力を流し合うやつだ。
 魔力操作の基本だよね。

「何度もご説明しているように、ワタクシ達は去年の授業で、その段階は終えているのです。
 今まではチョコア様にお付き合いしてやっておりましたが、全然上達なさいませんし、自分達の授業を優先させていただきますわ」
 うん。正論。
 それに、魔力循環はやろうと思えば1人でも出来る。

「うるさいわね。私がやれって言ってるのよ。
 マカ様に言うわよ?あんた達に虐められてるって」
 おい。聞き捨てならない台詞が聞こえたぞ。そもそも何様だよ。
「この前、仲間外れは止めろって言われたばかりよね?」
 チョコアが意地悪く笑う。
 女生徒達は、渋々チョコアに近付いて行った。

「必要ありません」
 チョコアの手を掴もうとしていた女生徒の手にそっと触れ、止める。
「先生の指示は何と?」
 なるべく優しく問う。
「私達には、自分の属性の初期魔法を掌サイズで発動できるようにするように、です」
 なるほど。この子達は制御が苦手なのね。

「チョコア様には、体内の魔力を循環させるように仰ってました」
 マジか。コイツチョコア、何で1年の時にうちのクラス特級に所属できたんだろう。
「わかりました。今後、マカルディー殿下が何か言ってきても、やらなくて良いと言っていたと、そうおっしゃってください」
 馬鹿チョコアに付き合って訓練しても、この子達の為にはならない。むしろ逆効果だわ。

「あんた、何勝手に決めてんのよ!」
 勘違い女チョコア、益々酷くなってるな。
 下の学年だからか、生徒達はバカ殿下への敬意がまだあるのだろう。
 だからチョコアへの態度も、私達の学年みたいに完全放置にはできないのかもしれない。

「チョコア様、貴女こそワタクシへの態度を改めるように、マカルディー殿下に言われておりましたよね?」
 園遊会の時に、ハッキリと。
「今日の事は、学園と殿下に報告させていただきます」
 ライジ殿下の方だけどね。


「この学園にも、退学という制度がある事を覚えていてくださいね」
 女生徒達を連れて、歩き出す。
 このまま彼女達を置いていくと、八つ当たりされかねないからね。

「私はこれから特級の水属性の授業へ行くのですが、宜しかったら見学なさいます?」
 私の台詞に、女生徒達の目がキラキラと輝いた。
 他のクラス、ましてや上の学年の授業を見学する機会なんて、滅多にないからだろう。
 貴族令嬢らしからぬ勢いで頷く女生徒達と一緒に、中庭に向かった。


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