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乙女ゲーム本編突入です。
第53話:邪魔者
しおりを挟む『甘王公式本』の上に置かれている二本の腕。
正確には、本を通過してテーブルに手をついているのだが、丁度本のある所に腕が置かれていた。
サラ、ジェラール、ミリフィール、そして私の視線が腕を辿っていき、上にある顔を確認する。
勿論、予想はしていたが、想像通りの人物に誰ともなくため息を吐く。
「ドレスって、いくらくらいすんの!?」
知らんがな。
ここにいる4人がお財布を持って、お店に買い物に行くとでも思ってるのか?
「知りません」
視線を合わせずに答える。
早くどこかに行けの意思表示だ。
「ちょっと、意地悪しないで教えてよ!」
通じるわけなかった。
空気読まない女だったわ。
「私達は自分でドレスを買う事はございませんの。なので、いくらかと聞かれても、答えようがございません。
どうしても知りたければ、お店に直接お問い合わせになってください」
あくまでもチョコアの方は見ずに答える。
仮に知っていたとして、平民が用意できる程度の金額のドレスを、ここの4人が着ていると思ってるのか?
「何よ、役立たず!」
ありえない暴言を吐いて、チョコアは食堂を出て行った。
食堂の係員も部屋を出て行ったので、殿下達が出て行った後の平民の様子を学園側かライジ殿下に報告に行ったのだろう。
はあぁ~と、皆で肺の中が空っぽになるかというほどの息を吐き出す。
「サプリのあの暴挙は、殿下の影響?」
ジェラールが不快感をあらわに言う。
騎士家系だから、礼節には殊更厳しい。
「そうじゃなきゃ、ただの平民がおかしいでしょう。
あの馬鹿は、人を狂わす天才だわ」
サラちゃん。いつも通りの辛口です。
「そうねぇ。とりまき2人も、馬鹿と一緒じゃなきゃあそこまで勘違いはしなかったでしょうね」
ミリフィール。実感こもり過ぎだ。
「お嬢様、お迎えにあがりました」
相変わらずの良いタイミングで、馭者が迎えに来た。
本当に話のキリが良くなるまで、柱の陰から観察してるんじゃないでしょうね。
うちの無駄にイケメンの馭者は、視線が合うとニコリと笑う。実は兄の後輩で、本来は騎士だそうです。
私の送迎の時間だけ馭者をしているそう。
最近、知りました。
何でだろう?と、思ったら……兄のせいでした。
兄が自分が送迎のをすると言い張ったので、妥協策として、騎士であり信頼の置ける後輩が代わりに行くから勘弁してくれと。
次期公爵家当主に馭者させるわけにはいかないもんね。
そんなわけで、今日の食堂の一件も驚くべき速さで兄夫婦の耳に入るだろう。
平民の「役立たず」発言に対して、どんな対応をするのかちょっと怖い。
まぁ、自業自得なので、庇うつもりは毛頭無いが。
********
私の予想に反して、何事もなく2週間が過ぎた。
前にも増して暴言女がバカ殿下に纏わりついていて、見ていて鬱陶しい。
キャバ嬢みたいにシナを作って腕を組んでるが、それをするならサラくらいのメロンに成長させてからにしなさい。
何を、とは言わないが。
「よ~し、皆揃ってるな~?むしろ邪魔な者は自分のクラスに帰れよ」
ビゼタールが教室に入って来た瞬間にそんな台詞を吐く。
この人、本当に攻略対象なのかしら?
ヒロインの事、嫌いすぎるでしょ。
まぁ、相思相愛の婚約者であるジェラールとは対照的なタイプだもんね。
邪魔者は、ビゼタールをにらみながら、自分のクラスへと戻って行った。
睨む意味もわからんがな。
特級から初級へと移籍になったのは、チョコア自身のせいだ。
魔力量は多いが、それを全然使いこなせていない。
それに、真面目に勉強を頑張れば、いくらでも戻って来られるのに、チョコアはずっと変わらず初級のままだ。
勉強を頑張らずに、他の事に頑張ってるようですものね。
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