46 / 113
乙女ゲーム本編突入です。
第46話:二つの噂
しおりを挟む王族特別室。
前は第二王子の専用室のようになっていたが、最近では第一王子であるマカルディーの方が利用頻度が高い。
デビュタントでチョコアをエスコートした事により、学園内で好奇の視線にさらされる事が多くなったせいである。
あの公爵家のフォンティーヌ嬢より、平民のチョコアを選んだ愚かな王子だと。
「最近、変な噂が流れているね」
カーシューの静かな声が室内に響いた。
「え?愚かな王じっ痛って!」
アーモディがマカルディーの噂の事を言おうとしたので、カーシューはその後頭部を叩く。
「そっちじゃない」
あくまでも静かなカーシューの声。
「あぁ、フォンティーヌ嬢の話か」
後頭部を撫でながら、アーモディが言い直す。
学園内に広がる噂が二つあり、一つは前出の愚かな王子の話。
もう一つは、第一王子の婚約者であるフォンティーヌが良からぬ画策をしているという物だった。
「あの女なら何をしても俺は驚かないがな」
マカルディーがそんな言葉を吐き出す。
その言葉が負け惜しみである事は、幼馴染の2人にはバレていたが。
マカルディーは、デビュタントでフォンティーヌと踊れなかった事をまだ根に持っているのだ。
『あの女は、婚約者のクセに俺と踊らなかったんだ!』
パーティー後に幼馴染2人に、そんな愚痴を撒き散らしていた。
『イライジャとは踊っていた』『イライジャのとりまきと踊っていた』『俺とは話もしなかった』など、パーティーの間中チョコアを腕にくっつけていたのだから当たり前だろ?と傍から見たら解る事も、マカルディーには解らないらしい。
「皆、少し休憩したら?」
場に似合わない明るい声でそう言うのは、手に籠を持ったチョコアだ。
籠の中身は、チョコア手作りのパイである。
相変わらず寮の食堂で手作りしているようだ。
「チョコア嬢は本当に呑気だな」
籠をチラリと一瞥して、カーシューが呆れたように言う。
「その噂を盾に、どこかの女狐に狙われているんだぞ」
冷めた視線をチョコアに向けた。
「教科書を捨てられたり、制服を破られたりしたのだろう?」
アーモディが眉間に皺を寄せながら問いかける。
あの制服事件の後、更に洗い替えの分も破られ、チョコアの制服は全部新品へと交換された。
まだ犯人は判明していない。
教科書事件は、授業が始まった時にチョコアが「教科書が盗まれた」と騒ぎ、その日の夜に寮内のゴミ箱から見つかったのだった。
こちらも犯人は誰だかわかっていない。
「カシィ様もアーモ様も、そんな事言わないで。
まだフォンティーヌ様が犯人と決まったわけじゃないもの」
にこやかに笑うチョコア。
「何度言ったら解っていただけますかね。
私の事は二度と愛称で呼ばないでください」
カーシューが冷たく言い放つ。
「えぇ?でも、一度友達になったのに、また他人行儀に戻るのは難しいんですよぉ」
甘えた声を出すチョコアを、カーシューはただ冷たく見つめた。
噂を書き出したメモを、ペンの先でトントンと叩く。
「本当に犯人がいれば、の話だがな」
小さなカーシューの呟きは、チョコア本人には聞こえなかったようだった。
持ってきた籠からパイを取り出し、貪り喰っている。
前に勧められたのを優しいアーモディが食べた。そしてその日の夜には医者の世話になったらしい。
王族であるマカルディーは勿論口にしなかったが、カーシューも好みではない食べ物だった為断ったので事無きを得ていた。
それ以来、チョコアの手作りの物を誰も手に取らない。
だが、チョコアは作り続けていた。
3人の為に作っているのだから……そんな言葉で学園から材料費を搾取していた。
実は、その事実を3人は知らない。
47
お気に入りに追加
1,933
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね
との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。
「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」
「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」
悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。
(それって、一個人の問題どころか⋯⋯)
「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!?
「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」
呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり?
頑張ります。
「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」
ーーーーーー
タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
ご一読いただければ嬉しいです。
R15は念の為・・
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる