【完結】悪役令嬢に転生したようです。アレして良いですか?【再録】

仲村 嘉高

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乙女ゲーム本編突入です。

第46話:二つの噂

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 王族特別室。
 前は第二王子の専用室のようになっていたが、最近では第一王子であるマカルディーの方が利用頻度が高い。
 デビュタントでチョコアをエスコートした事により、学園内で好奇の視線にさらされる事が多くなったせいである。
 あの公爵家のフォンティーヌ嬢より、平民のチョコアを選んだ愚かな王子だと。

「最近、変な噂が流れているね」
 カーシューの静かな声が室内に響いた。
「え?愚かな王じっ痛って!」
 アーモディがマカルディーの噂の事を言おうとしたので、カーシューはその後頭部を叩く。
「そっちじゃない」
 あくまでも静かなカーシューの声。
「あぁ、フォンティーヌ嬢の話か」
 後頭部を撫でながら、アーモディが言い直す。
 学園内に広がる噂が二つあり、一つは前出の愚かな王子の話。
 もう一つは、第一王子の婚約者であるフォンティーヌが良からぬ画策をしているという物だった。

「あの女なら何をしても俺は驚かないがな」
 マカルディーがそんな言葉を吐き出す。
 その言葉が負け惜しみである事は、幼馴染の2人にはバレていたが。
 マカルディーは、デビュタントでフォンティーヌと踊れなかった事をまだ根に持っているのだ。
『あの女は、婚約者のクセに俺と踊らなかったんだ!』
 パーティー後に幼馴染2人に、そんな愚痴を撒き散らしていた。
 『イライジャとは踊っていた』『イライジャのとりまきと踊っていた』『俺とは話もしなかった』など、パーティーの間中チョコアを腕にくっつけていたのだから当たり前だろ?とはたから見たら解る事も、マカルディーには解らないらしい。


「皆、少し休憩したら?」
 場に似合わない明るい声でそう言うのは、手に籠を持ったチョコアだ。
 籠の中身は、チョコア手作りのパイである。
 相変わらず寮の食堂で手作りしているようだ。
「チョコア嬢は本当に呑気だな」
 籠をチラリと一瞥いちべつして、カーシューが呆れたように言う。
「その噂を盾に、女狐に狙われているんだぞ」
 冷めた視線をチョコアに向けた。

「教科書を捨てられたり、制服を破られたりしたのだろう?」
 アーモディが眉間に皺を寄せながら問いかける。
 制服事件の後、更に洗い替えの分も破られ、チョコアの制服は全部新品へと交換された。
 まだ犯人は判明していない。
 教科書事件は、授業が始まった時にチョコアが「教科書が盗まれた」と騒ぎ、その日の夜に寮内のゴミ箱から見つかったのだった。
 こちらも犯人は誰だかわかっていない。

「カシィ様もアーモ様も、そんな事言わないで。
 フォンティーヌ様が犯人と決まったわけじゃないもの」
 にこやかに笑うチョコア。
「何度言ったら解っていただけますかね。
 私の事は二度と愛称で呼ばないでください」
 カーシューが冷たく言い放つ。
「えぇ?でも、一度友達になったのに、また他人行儀に戻るのは難しいんですよぉ」
 甘えた声を出すチョコアを、カーシューはただ冷たく見つめた。


 噂を書き出したメモを、ペンの先でトントンと叩く。
「本当にがいれば、の話だがな」
 小さなカーシューの呟きは、チョコア本人には聞こえなかったようだった。
 持ってきた籠からパイを取り出し、貪り喰っている。
 前に勧められたのを優しいアーモディが食べた。そしてその日の夜には医者の世話になったらしい。
 王族であるマカルディーは勿論口にしなかったが、カーシューも好みではない食べ物だった為断ったので事無きを得ていた。
 それ以来、チョコアの手作りの物を誰も手に取らない。
 だが、チョコアは作り続けていた。
 3人の為に作っているのだから……そんな言葉で学園から材料費を搾取していた。
 実は、その事実を3人は知らない。


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