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乙女ゲーム本編突入です。

第29話:羽虫

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 伯爵家を出されて、子爵家に戻ったカーシューだが、王子のとりまきはクビにならなかったようだ。
 まぁ、幼馴染みだから、その辺は立場関係ないのかな。
 第二王子のライジ殿下ならバッサリいきそうだけどね。あの人はホント人の上に立つ性格だよ。
 いや、そもそもあんな馬鹿カーシューを近くに置かないか。宰相の実子でもなく、すげ替えの効く馬鹿なんて、きっと利用価値無い。
 ライジ殿下は、惚れ惚れするほど打算で動く人だからな。

 伯爵家には、他の分家からが来たよ。
 なんと、既に特級にいた人でした。しかもライジ殿下のとりまき。
 えぇっと、これって偶然!?
 違うよね……多分。
 ミリフィールは、「イケメン度が上がった!」と喜んでいた。
 うん。それは認める。


 いつものように食堂の貴族スペース<伯爵家以上の人がいないと入れないスペース>で4人で昼食を摂っていると、手元が急に暗くなった。
 何事かと自分の横を見ると、なぜかチョコアが一人で立っていた。

「何で婚約破棄したんですか!?」

 えぇぇぇええぇええ!?
 何でお前がそんな事言ってくるんだよ。
 そもそもお前が原因だろうが。

「カシィ様の何が気に食わなかったの?
 私に優しいところ?単なる嫉妬じゃない!」

 お前、愛称呼びするなって言われてなかったか?
 しかしヒロインってこんな好戦的な性格なんだっけ?
 それに平民にしても馬鹿すぎない?嫉妬で婚約破棄なんて、貴族がするかよ。マジで馬鹿。
 いろんな疑問符が頭に浮かぶが、敢えて口には出さない。
 この場合の正しい対処は、彼女はいないものとする事。
 すぐに警備員が来て、彼女を排斥するはずだから。

 しかし来たのは、警備員ではなく、バカ殿下達だった。
 ミリフィールの視線が怖い。
 射殺しそうな目でカーシューを睨んでいる。
「チョコア嬢、ビシスコーディ嬢は何も間違っていない。
 さぁ、行きますよ」
 冷静な声でカーシューが誤爆娘チョコアを諭す。
 これが本来の彼なのかもしれない。

 バカ殿下に振り回されず、ヒロインチョコアに惑わされなければ、ミリフィールの伴侶になり、良い宰相になれたかもしれないのに。
 馬鹿だなぁ。マジで。
 私との初対面の時に、ちゃんと自己紹介しておくだけでも、何か違ったかもしれないのに。
 バカ殿下に何か言われてたんだろうけどさ。
 しつこいようだが、馬鹿だな。


「おい、お前」
 バカ殿下が今までチョコアがいた所に立つ。そう、私の横だ。
 お前なんて名前の者はいないので、誰も返事をしない。
 更に大声を出そうと空気をヒュッと吸い込む音がしたが、その声を発する事はなかった。
 第一王子の言葉を遮る事のできる数少ない立場の人間がいるのだよ、この学園には。

「フィオ、サラ、何かあったのかい?」
 はい!ここで第二王子のライジ殿下の登場です。
「いえ、ライジ殿下。何やら勘違いした羽虫が紛れ込んだようですわ」
 サラの席の隣に立つライジ殿下に微笑んで見せる。
「はむ……!?」
 私としてはチョコアの事を言ったつもりだったんだけど、隣に立っている人は自分の事だと思ったようです。
 敢えて否定はしないでおこう。

「羽虫がいるような所では食も進まないだろう?私の部屋に来るかい?」
 暗に王族特別室に呼ばれましたよ。てか、部屋なんだね。
 視界の隅でミリフィールとジェラールが小さく首を横に振るのが見える。
 気を付けて!この王子様、目敏めざといわよ。

「お前だけの部屋じゃないだろう!」
 お、バカ殿下も気付いたね。
 でもそんなバカ殿下の台詞は、華麗に無視された。
 無視じゃないか。ライジ殿下の綺麗な赤い瞳がさげすみの視線をチラリと向ける。
 それだけで、バカ殿下は黙った。


「食事途中で立つのはマナーに反するか。
 それなら、私達もここで一緒に食べても良いかな?」
 それなりの大きさのテーブルに4人で座ってるから座れない事はないだろうけど……。
 それだと最初の趣旨からはズレるんだけど、そこは気にしないのね、ライジ殿下。


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