上 下
27 / 113
乙女ゲーム本編突入です。

第27話:勝てると思うなよ

しおりを挟む
 


「い、いたのか、ミリフィール」
 カーシューが焦った様子で婚約者の名前を呼ぶ。
 モコモコ過ぎて、誰だかわかっていなかったようだ。
「ワタクシ、貴方に呼び捨てにする許可を出した覚えはありませんが?」
 口元は笑いの形だが、目がマジだ。
 視線で人が殺せそうだよ、殺人光線見えそうだよ。

「婚約者を再選定する必要がありそうですわね」
 ミリフィールの大して大きくない声が、食堂内に響き渡る。
 耳が痛くなるような静寂ってこういう事!?

 この世界、女性からの婚約破棄はあまりないが、自分よりも身分の低い婚約者が平民の女性としていたら、充分に破棄理由になるだろう。
 しかも、昼時ほどではないにしろ、私達と同じように馬車待ちの生徒が多くいる食堂で、婚約者でもない女生徒を呼び捨てで呼んだら、もう言い逃れのしようはないだろう。ギルティ有罪

「あ、あのミリ…」
「迎えの馬車が来たようですわ。それでは皆様ご機嫌よう。
 カーシュー様、この件は当家から正式にブラウウェル家にご連絡いたしますわ」
 婚約者の言い訳を許さず、ミリフィールは颯爽と……とはいかず、モコモコで動きにくそうに帰って行った。


「あの、カシィ様?あの人は何を怒っているんですか?」
 うおぉ!空気読め、チョコア!
 婚約破棄されそうな男をなに愛称で呼んじゃってんの?
 ほらほら、カーシューが絶望的な表情で貴女を見てますよ。いや、何だコイツみたいな表情かな?
 貴族の娘なら、自分にも悪い噂が立つ恐れがあるから絶対にしない行動ですもんね。

「あ、あの、フォンティーヌ様……」
 カーシューが話し掛けてくるが、私達はまだ名乗りあった事はない。知り合いですらないのだ。
 、そこの貴族ルールは学園内だろうと譲るつもりはない。
 ここでの人間関係は、そのまま卒業後に社会での人間関係になると思っているから。脳みそお花畑の貴方達とは違うんだよ。

 私が無反応だとわかり、今度はサラに声を掛けるが、勿論サラも無反応。
 最後にジェラールを見る。
 ジェラールからは、声を掛けるな!のオーラが既に出ている。
 一応の階級は同じ伯爵家だが、ジェラールの家は辺境伯に近い伯爵家。
 同じように見えて、微妙に立場が違う。
 親同士なら宰相と準辺境伯で、また違うんだろうけどね。
 なのでカーシューからジェラールに声を掛ける事はルール違反。
 見かねたバカ殿下が仲を取り持とうと動く前に、事態を悪化させる出来事が起きた。

「話し掛けられてるのに無視するなんて酷い!」

 ヒロインチョコアである。
 あぁ、これでカーシューの婚約破棄は確定したな。
 原因となった平民女がカーシューの為に公爵家令嬢に楯突いたんだから、もう弁解の余地もない。

「チョコア様。見知らぬ方から話し掛けられても、私達には応える義務は無いのです」
 一応、私はチョコアと名乗り合っているので知り合いではある。会話くらいはいたしましょう。
「顔も名前も知っているんだから、見知らぬ人じゃないじゃん!」
 おい、チョコア。
 お前は私に敬語を使え。
「では、マカ殿下は国民のほぼ全員と知り合いですわね」
 バカ殿下を見る。
「一方的に知っている状況でも、知り合いとなるようですわよ、マカ殿下」


 一瞬言葉に詰まったバカ殿下だが、フンっとこちらを小馬鹿にしたような表情になる。
「学園では生徒全員平等なんだ。だから、お前達も俺に挨拶をしないんだろう?」
 お?鬼の首を取ったような顔ですね。
 でも残念。
「マカ殿下。私達がマカ殿下を他の生徒と同じように扱うのは、それが殿だからです」
 おぉ?顔がピクリとしましたね?
「私達が貴族のルールを遵守じゅんしゅするのは、私達の自由では?
 それを殿下が王族としての権力を行使して、止めろと言うのですか?
 平等な立場のはずの殿下が?」
 口で女に勝てると思うなよ。
 特にアンタは馬鹿なんだから。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮
恋愛
 世界で唯一魔法が使える国エルフィールドは他国の侵略により滅ぼされた。魔法使いをこの世から消そうと残党狩りを行った結果、国のほとんどが命を落としてしまう。  そんな中生き残ってしまった王女ロゼルヴィア。  数年の葛藤を経てシュイナ・アトリスタとして第二の人生を送ることを決意する。  平穏な日々に慣れていく中、自分以外にも生き残りがいることを知る。だが、どうやらもう一人の生き残りである女性は、元婚約者の新たな恋路を邪魔しているようで───。  これは、お世話になった上に恩がある元婚約者の幸せを叶えるために、シュイナが魔法を駆使して尽力する話。  本編完結。番外編更新中。 ※溺愛までがかなり長いです。 ※誤字脱字のご指摘や感想をよろしければお願いします。  

処理中です...