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乙女ゲーム本編突入です。
第16話:入学式は特別席で
しおりを挟む前方へバランスを崩したチョコアを騎士団長子息がガシッと受け止めた。
ビゼタールの手は、何と彼女の頭を掴んでいる。えぇ~せめて女性扱いしてやれよ。
それ一歩間違えばアイアンクローだからね。
まぁ、それが有るからバカ殿下にチョコアは激突しなかったんだけどさ。
「まだひと月ほどしか礼儀を習っておりません。私の教育不足で申し訳ございません」
ビゼタールの手がチョコアの頭をグイッと押して無理矢理上向かせ、体勢を整えさせる。怖っ。
騎士団長子息も思わず手を引いちゃってるじゃん。
支えがなくなってふらつきながらも、チョコアは真っ直ぐに立つ。体幹強いな。
うぉ、なんだバカ殿下のあの笑顔。
自分より出来ない人間を見て、優越感に浸ってるな、絶対に。
「まだ1ヶ月じゃ礼儀も覚えられなくて当然だ。困った事があったら相談してくれ。
私はマカルディー・フォン・ティシエール。この国の第一王子だ」
私とサラは、何言ってるんだバカ殿下は……と思っていたが、そうではない人もいるみたい。
チョコアは真っ赤になっている。
恥ずかしさかと思いきや、あの目は恋する乙女の目だ。
教えてやりたい。ソイツに相談しても何も解決しませんよ、と。
バカ殿下は何を満足げにニヤケてるんだ?
うぉ、目が合った。
ビゼタールに何やら耳打ちしている。
嫌な予感しかしないんですけど……。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、本当に馬鹿だったんだな。
何とバカ殿下は、公爵家の席に平民であるチョコアを座らせやがった。
その隣のサラの席には、騎士団長子息を。彼などは騎士爵なので、下位貴族なのに。従う方もどうかと思うけどね。仮にも貴族が。
さすがに宰相の息子であるカシューナッツは、何か言われる前にコッソリ自席に座っていたよ。
高位貴族の席に座っているのが宰相にばれたら、後が怖いだろうしね。
しかし、私がこの『豆』の、この世界での名前を知るのはいつになるのだろう?
ふと気が付いた。第二王子の席が用意されていない。
数少ない私のゲーム記憶でも、第二王子の席はなかった。ゲームには登場すらしていなかった。
不思議に思って考え込んでいると、ビゼタールが傍に寄って来る。
「フォンティーヌ様、サラシーア様、イライジャ殿下と同じ御席で入学式でも宜しいでしょうか?」
おぉう。第二王子、別に席があるんだ。
むしろ、そこに私達行って良いわけ?
正直、第一王子よりも第二王子の方が高位だよね。正妃様が産んでるし。
悩みつつ視線を泳がせると、その第二王子と目が合った。
白い歯が光りそうな爽やかな笑顔で小さく手招きされてしまった。
笑顔と会釈を返し、ビゼタールについて歩き出す。
口元は動かさず、斜め前にいるビゼタールを小声で呼んだ。
「さっき、バカ殿下は何て言ってたのかしら?」
チラリと私に視線を寄越してから、同じように口を動かさずに返してくる。
「適当にあいつ等の席を用意しろ。ここは相応しい人間が座る……と」
ほほぅ、あの席には私達よりもあの二人が相応しいと。
確かに?公爵家の席としてではなく、第一王子の隣としてなら、あの方々の方が相応しいかも知れませんわね。
頭の中身が同レベルだからな!
それにしても、私達の席が用意されるの早くないですかね?しかも元の席よりも待遇が良い第二王子の隣ですよ!
私の心の声が聞こえたかのように、疑問に対する答えが聞こえてくる。
「それを聞いていたイライジャ殿下が御席を御用意されました」
え、怖ぁ……聞いていたって、盗聴だよね?
マウント?イニシアチブ?それの取り合い凄いわぁ。
プラチナブロンドにラズベリーの瞳のイライジャ殿下が眩しい笑顔で私達を迎えてくれる。
隣の空いている席はおそらく正妃様が座るんだよね?
その奥は、考えたくないけど陛下かなぁ?
隣に来たサラを見ると……うわ、イライジャ殿下に負けないくらいの満面の笑み。
なんだろう、2人とも見惚れるくらいの素敵な笑顔なのに、背中がゾクゾクします。
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