12 / 113
乙女ゲームに転生したようです。
第12話:卒業したようですね(中等科)
しおりを挟む空は素晴らしく晴れ渡り、雲は白く輝き、太陽はサンサンと降り注ぐ。
夏ですね。
私は木陰で本を読みながら、遠くに輝く海を見つめています。
14歳になり、自分で言うのもアレですが、かなりな美人に育っております。
水色の髪と白い肌のお蔭で儚さが加算されており、『甘王公式本』の悪役令嬢に比べて大分上品に仕上がっております。
残念な事に、中身は相変わらずガサツですが。
王妃教育のお陰で、外面はかなり良くなりました……。
「僕のお姫様、ご機嫌はいかがかな?」
24歳になった兄のアイザックは、輪を掛けたシスコンに成り下がりました。
それには立派な理由があります。
「あら、違うわよ。私達のお姫様でしょう?」
理由が一緒にいらっしゃいました。
2年前に恋愛結婚した兄嫁です。
政界のパワーバランスなんのその、公爵家から公爵家へ嫁に来た『女帝』です。
勿論、本当に女帝なわけではなく、女帝と陰で呼ばれているだけですが……。
この兄嫁が、兄にも負けず劣らずのシスコンです。
成長期の義妹の誕生日に、ドレスを50着プレゼントしようとしたお馬鹿さんです。
全部着終わる前に成長しちゃうわ!
まだデビュタントもしていない令嬢は、そんなにドレスを着る機会なんてないから。
例え第一王子の婚約者だとしてもね。
「お兄様、お義姉様、ありがとうございます」
読んでいた本を閉じて、笑顔を返す。
一応私はここへ『療養』に来ていたりする。
兄夫妻は、忙しい両親に代わって保護者として一緒に来ていた。
「今頃は中等科の卒業プロムナードですわね」
義姉が私に向かって微笑む。天使の様な笑顔だが、腹の中はきっと真っ黒だろう。
「第一王子は誰とダンスを踊るのかな?」
兄が微笑む。こちらは腹黒さが全く隠されていない笑顔。
中等科の卒業プロムナードは、社交界デビューの練習の場なので全員エスコートする相手がいるし、ダンスも踊る。
婚約者がいれば婚約者と、いなければ学園内だけの相手を探す。
正式な社交界ではないので、相手がいない人は身内がエスコート……とはならない。
あくまでも学園内のイベントなのだ。
婚約者が学園外の人物の場合、相手の了承があれば学園内だけのエスコートもありである。了承しない人は、自分が参加するという事。
私?私は、体調不良を理由に『学園内で相手を見つけてね』とバカ殿下には連絡を入れた。
個人的にではない。正式に公爵家としてね。
だって、初等科の卒業プロムナードは本当に酷かった。
一緒に入場するだけなのに、殺意を抱いたよ。マジで。
『マカルディー・フォン・ティシエール殿下。
フォンティーヌ・エルクエール嬢』
名前を呼ばれ、扉が開かれる。
本来、男性が左手を差し出し、女性が右手を添えたら一緒に歩き出す。室内へ入ったら正式な挨拶をしてから、男性の左腕にそっと女性が腕を組むのが手順である。
これは社交界へのデビュタント時の正式な規則。『これから宜しくお願いします』的な挨拶である。
前世の社交界ルールは知らないが、この国ではデビュタント時だけはこの方法を取る。
なのにバカ殿下は、扉が開いた途端私の存在を無視しずかずかと歩きだし、正式な挨拶もせずに両腕を腰に当てて踏ん反り返ったよ。所謂仁王立ちってヤツ?
扉を入った所でカーテシーをしていた私の立場は?
バカ殿下、私の2メートル位前にいたよ。
「初等科ですからな」
扉の近くにいたどこぞの貴族様がハハハと乾いた笑いで場を和まそうと頑張ってた。
しかし、他の初等科卒業生でも、皆、多少間違えながらもちゃんとした手順で入場してましたよ。
私は会場内にいなかったので知りませんでしたが、父がちゃんと見てました。
あぁ、唯一バカ殿下に近い無作法をしたのが一人だけいたって言ってたな。
予想通りの人物でした。えぇ、アーモンドクラフティですよ。
騎士爵だったらしいです。え?名前が違う?すまん。忘れた。
私達が入場した途端、広い会場内で、しかも真夏なのに、なぜかダイヤモンドダストが見えましたとも。
その瞬間、私が2年後の同じ時期に体調不良になる『予定』も決まりました。
49
お気に入りに追加
1,917
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。
久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」
煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。
その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。
だったら良いでしょう。
私が綺麗に断罪して魅せますわ!
令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる