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乙女ゲームに転生したようです。

第3話:転生したようです。

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 抑え気味の光が照らす室内。
 趣味の良い調度品が揃えられた室内は、この家の格式の高さを示している。
 しかしその室内には、言い知れぬ重い空気が充満していた。


「目覚めたか?フォンティーヌ」
 微かに動いた幼子の手を、しっかりと握りしめるこの家の主。
 何日寝ていないのだろうか。
 白い顔にはくまがあり、社交界では女性の視線を集める美貌がやつれ果てていた。
 いつも綺麗に整えられているハニーブロンドの髪は、ボサボサと言って良い状態。
 王族の赤を有する赤紫の瞳は、髪と同じ色の睫毛に縁どられているが、落ち窪んでおり覇気がない。
 エルクエール公爵家当主その人である。

「あなた、まだ意識があるわけじゃないわ。先生が言っていたじゃない。反射で腕や足が動く事があるって」
 後半は涙声になっているこの女性は、エルクエール公爵夫人。
 淡い水色のストレートな髪に、海の藍をたたえる瞳。

 そしてベッドに横たえられているのは、2人の愛娘であるフォンティーヌであった。
 3日前に、王城の階段から落ちて意識不明になった少女は、骨折こそ無いものの強く頭と身体を打ち、このまま目覚めない可能性を医師に告げられていた。
 王宮の治療師を依頼したが、なぜか全員出払っていると言われ、誰も来ない。
 第一王子の婚約者候補に対して随分な対応な気もするが、公爵夫妻にはなんとなく理由が解っていた。



「痛たたた……え?転生って、痛みが前世から持続する物なの?」
 ベッドの中で目覚めたフォンティーヌは、身動みじろぎしながらそう呟く。
 目覚めてすぐの痛みに思わず愚痴ってしまったが、自分以外の人の気配に慌てて口を塞いだ。
 しかし、二つの気配は寝ているようで、フォンティーヌの声には何の反応も返って来なかった。
 ベッドの左右には、驚くほど整った顔立ちの男女がいる。
 自分の口を塞ぐ為に振り払った右手側には、前世のフォンティーヌの妹と同じ位の女性。
 未だに繋がれている左手側には、前世のフォンティーヌと同じ位の男性。

 左手も離し、両手を目の前で閉じたり開いたりしてみる。
 小さい手。子供…幼児と言った方がいい位の小さな手。
 3、4歳くらいだろうか。
 それにしても、身体が痛い。そんな事をフォンティーヌが思った瞬間、前世と、物心ついてから今までの記憶が一気に押し寄せて来た。
 前世では立派な成人女性だったフォンティーヌだが、今はまだ未発達な子供である。
 情報量に脳がついていけず、せっかく戻った意識がまた失われてしまった。



 ********



 再び目覚めると、最初に目覚めた時よりも明るい室内に、起きている男女。
 状況的に、両親だと思われる。
 離したはずの両手は、またしっかりと繋がれていた。

 私と目が合うと、見る見るうちに涙があふれてくる綺麗な瞳。
 男性の方は、綺麗な赤紫。こんな色の葡萄ぶどうあったな。皮ごと食べられるレッドシードレスとかいうの。
 女性の方は、紺色?藍色?透明感のある海外の海の深い所みたいな色。
 とにかく二人とも綺麗な色。
 生まれてからずっと見ていたはずだが、前世の記憶が戻ってから見ると、ちょっと新鮮に感じる。
 そして、異世界なのだと実感する。
 男性の方の濃いめの金色の髪はともかく、女性の方の髪色はコスプレのような水色だったから。

「いつの間にか手が離れていたから、絶対に一度は起きたのだと思ったのよ」
 母が私の右手を自分の頬へと持っていく。
 涙は良いけど、鼻水はつけないでね……何て思っていると、表情でばれたのか母が勢いよく鼻をすする。
 貴族の女性にあるまじき行為ですよ、お母様。

「どこか痛い所はないかい?フォンティーヌ」
 苦笑気味に声を掛けてくる父。
 繋がれた左手は、まだ離されていない。
 しかし父の方は、母に気を取られているうちに涙をぬぐってしまったようだ。
 だが記憶にある瞳よりも少し赤みが強いので、バレバレですよ、お父様。


「身体中が痛いです。これ、訴えて良い案件ですよね?」

 あ、しまった。前世の記憶が戻ったから、子供らしからぬ口調になってしまった。
 しかし両親は、ちょっと驚いた顔をしたけどクスリと笑う。
「相変わらず、大人びた口調ね」
 母よ、私が言うのも何だが、それで済まして良いレベルではないと思う。
「殿下と一緒に書物室にいたんだったかな?今度は何の本を読んだんだい?更に難しい言葉を覚えたね」
 父よ、そこは微笑ましく笑うところでは無いよ。

 まぁ、確かに。記憶が戻る前の私も決して可愛い子供では無かった。
 うん。魂の影響とでも言うのか、妙に悟った子供だったよ。


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