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妹と私
第2話:階段落ちって痛いよね
しおりを挟む頭が痛い。
違う。背中が痛い。
ん?肩?
もう、どこが痛いのかよく判らないくらい痛い。
あぁそりゃそうか。
私、駅の階段転げ落ちたんだっけ。
一睡もしないで職場に行こうとして、会社の最寄り駅の階段でめまいを起こして落ちたんだ。
いつもは歩きやすい靴なのに、若い社員と取引先に行かなきゃいけないとかで7センチのヒールなんて履いてたから、うっかり階段を踏み外してスッテンコロリ。
通勤ラッシュにはまだ早い時刻。
後ろに誰もいなくて良かったのか悪かったのか。
私は見事に階段を転がり落ちた。
妹は?ちゃんと私は一人で落ちた?
落ちる私に手を差し伸べる妹の姿……それが私の、最後の記憶。
でも良かった。
ちょっと死んじゃうかなぁ、なんて思ってたんだよね。
痛いってことは、生きてるってことだもの。
でも身体動かないし、目も開かないし、かなりヤバくない?
階段落ちしてからどれくらい経っているんだろう。
会社、クビにならない程度だったら良いなぁ。
労災下りるかなぁ。
とりあえず、スマホ探さなきゃ。
死ぬ気で右手を持ち上げる。
痛い。でもなぜか、あまり感覚が無い。そんな矛盾。
薄い膜が一枚あるような、そんな不確かな感覚だった。
********
「お疲れ様でした」
聞き慣れない声に目を開ける。
ん?変わった看護師さんだな。第一声がそれか?
「看護師ではありません」
あ、そりゃ失礼。ドクターか。
「ドクターでもありません」
確かに、白い服だけど、ちょっと病院には相応しくないかな。
露出が多い。男性患者には受けが良いだろうが、年配や女性には不評だろう。
「病院から離れましょうか……」
そう言われて初めて、周りを見回す。
何もない?白い空間。
何処だここ。
「黄泉の国の入口とでも言いましょうか……
魂の来る場所です」
あ~私、死んだのか~
結構な高さの階段落ちしたもんなぁ。
妹は無事だったんだろうか。
「大丈夫ですよ。貴女に腕を払われたので、一緒には落ちませんでした」
良かった。
「すごくショックな顔はしてましたが……」
だよね。多分、逆の立場だったら、一生立ち直れない。
でも、私の死は乗り越えて、幸せになって欲しい。
あ~でもあの子の性格からいって、『私がお姉ちゃんにゲームなんてさせたから寝不足で階段から落ちた』とか、ずっと気にしそう。
自己責任なのに。
私があの子の足枷になるなんて、嫌だなぁ。
「そんな貴女に朗報です」
朗報?
「貴女の願いを一つだけ叶えましょう」
それ、無償じゃないですよね?絶対。
「別の世界に転生していただくだけです」
だけ?だけって言った?
まぁ、良いけどさ。
じゃぁ、妹の記憶から私を消してくれるかな。
「記憶だけを消すのは難しいですね。貴女の存在自体を消すならできますが」
マジで?
そうしたら、私の卒業式に向かっていて事故にあった両親も死ななくなる?
ん?誰かと話してるの?それ、何語よ。
「大丈夫みたいです」
確定じゃないのかよ。みたいって何?
人ごとかよ。
「すみません。実は私、貴女が転生する世界の方の神でして……元の世界の神が落とした何かが貴女にぶつかり、階段落ちしたらしいです」
は?
「ごめんなさいって言ってます」
こら待て、おい。元の世界の神。目の前に来て謝れや。
寝不足によるめまいかと思いきや、違うのかよ。
ちょっと、ここ来て正座しなさい。
「ごめんなさい、行けません…だそうです。その代わり、貴女の宝物だけは持っていけるようにします、との事です」
わかりましたよ。その代わり、妹だけは絶対に幸せにして下さいね。
あの子、ぼんやりして見えて、実は凄い苦労人なんです。
大学1年生の時に両親が事故死して、学費はほぼ自分で稼いだんですよ。
やり直せるなら両親と共に幸せに暮らして欲しい。
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