上 下
3 / 10

03:仲良くしよう!

しおりを挟む



 朝、メイドが部屋のカーテンを開けに来る。もう一人がお湯の入った洗面器を持って来て、もう一人はタオルを数枚。
 他にベッドサイドから小さなテーブルを出して来る人がいて、洗面器がそっと置かれる。更に私の首元に大きめのタオルを巻く人がいる。
 これだけで全部で五人よ、五人。

 タオルを持っている人なんて、ただ立ってるだけなんだけど!
 テーブルの人と洗面器の人は、カーテン開けた人と一緒に服を用意してる。
 タオルを巻いた人が前髪を留めてくれて、長い髪を後ろで纏めて持ってる。
 え? 結んでくれれば良いんだけど?

「持ってるの大変でしょう? 結んでくれれば良いよ」
 笑顔で優しく言ったのに、髪を持ってた人は顔面蒼白になっちゃった。
 これは、昨日までの悪役令嬢わたしの影響かなぁ。

「申し訳ございません! 何か不手際がございましたでしょうか? もしや引っ張ってしまいましたか?!」
 髪から手を離したメイドは、すっごい驚くほど深く頭を下げた。
「え? 違う違う! 大変そうだから、無理しなくて良いよって意味だったんだけど……」
 急いでフォローしたんだけど、洋服の準備をしていたメイドに連れられて、部屋を出て行ってしまった。

 何となく部屋の雰囲気がピリピリしてるんだけど、これも今までの悪役令嬢の弊害だよねぇ。
 もっとメイドの人達と仲良くなりたいのになぁ。
 微妙な空気の中、記憶の中にあるようにお湯で顔を洗った。



 身支度を整えて、朝食を食べに食堂へ行く。
 何で三人家族なのに、こんな十人以上座れるテーブルが必要なのかな。
 椅子も使用人が引いたり押したりするのに合わせて座んなきゃいけないの。めんどくさい。

 テーブルマナーは記憶と身体に染み付いた慣れ? のお陰で問題は無かった。
 でも、食べた気しない。
 ウインナーなんて、フォークに刺して齧りつけば良いじゃん。
 小さく一口大に切ってモソモソ食べて美味しい?

 でもさすがに解る。
 ここでそれをやったら、怒られちゃうって。
 さっき、食堂に入った時に普通に挨拶したら、父親はジロリと睨んでくるし、母親は視線さえ向けてこないで溜め息吐いたんだよ。何それ。
 こんな環境じゃ、悪役令嬢が育つはずだわ。


「ドロテア。しばらく朝のメイドは四人で我慢しなさい」
 もうすぐ食事が終わるって頃、父親が話し掛けてきた。
 意味が解らなくて無言でいたら、また母親が溜め息を吐く。今度は口も開いた。
「何が気に入らなかったのか知らないけど、我儘も大概にしなさい」
 相変わらず視線は合わない。

 ってか、何を言ってるの?
 私は髪を持つだけのメイドなんて贅沢だし、相手が可哀想だからやらなくて大丈夫だよって言ってあげたんじゃん。
 なんで我儘になるの?


 意味わかんないし、ムカつきながら部屋へ戻った。
 部屋では四人のメイドが待っていた。
 顔に薄化粧をされ、髪をハーフアップに結われ、高そうな髪飾りをされる。
 しかもバレッタじゃなくて、自分では取れなさそうなヤツ。

 無言で作業されて、居心地が悪い。
 鏡の中でも、誰とも目が合わないし、何これ。
「ねぇ、朝のあの人はどうしたの?」
 途中退席したメイドの事を聞くと、全員の視線が更に下がった。
「二度とお嬢様の目を汚す事は無いので、ご安心ください」
 え? だから、何それ。
 意味わかんない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】貴方が嫌い過ぎて、嘘をつきました。ごめんなさい

仲村 嘉高
恋愛
侯爵家の長女だからと結ばれた、第二王子との婚約。 侯爵家の後継者である長男からは「自分の為に役に立て」と、第二王子のフォローをして絶対に逆らうなと言われた。 嫌なのに、嫌いなのに、第二王子には「アイツは俺の事が好きだから」とか勘違いされるし 実の妹には「1年早く生まれただけなのに、王子様の婚約者なんてズルイ!」と言われる。 それならば、私よりも妹の方が婚約者に相応しいと周りに思われれば良いのね! 画策した婚約破棄でも、ざまぁっていうのかな? そんなお話。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

【完結】貴族の矜持

仲村 嘉高
恋愛
「貴族がそんなに偉いんですか!?」 元平民の男爵令嬢が言った。 「えぇ、偉いですわよ」 公爵令嬢が答える。 「そんなところが嫌なんだ!いつでも上から物を言う!地位しか誇るものが無いからだ!」 公爵令嬢の婚約者の侯爵家三男が言う。 「わかりました。では、その地位がどういうものか身をもって知るが良いですわ」 そんなお話。 HOTで最高5位まで行きました。 初めての経験で、テンション上がりまくりました(*≧∀≦*) ありがとうございます!

【完結】愛してなどおりませんが

仲村 嘉高
恋愛
生まれた瞬間から、王妃になる事が決まっていたアメリア。 物心がついた頃には、王妃になる為の教育が始まった。 父親も母親も娘ではなく、王妃になる者として接してくる。 実兄だけは妹として可愛がってくれたが、それも皆に隠れてコッソリとだった。 そんなある日、両親が事故で亡くなった同い年の従妹ミアが引き取られた。 「可愛い娘が欲しかったの」 父親も母親も、従妹をただただ可愛いがった。 婚約者である王太子も、婚約者のアメリアよりミアとの時間を持ち始め……? ※HOT最高3位!ありがとうございます! ※『廃嫡王子』と設定が似てますが、別のお話です ※またやっちまった、断罪別ルート。(17話から)  どうしても決められなかった!!  結果は同じです。 (他サイトで公開していたものを、こちらでも公開しました)

【完結】いいえ。チートなのは旦那様です

仲村 嘉高
恋愛
伯爵家の嫡男の婚約者だったが、相手の不貞により婚約破棄になった伯爵令嬢のタイテーニア。 自分家は貧乏伯爵家で、婚約者の伯爵家に助けられていた……と、思ったら実は騙されていたらしい! ひょんな事から出会った公爵家の嫡男と、あれよあれよと言う間に結婚し、今までの搾取された物を取り返す!! という事が、本人の知らない所で色々進んでいくお話(笑) ※HOT最高◎位!ありがとうございます!(何位だったか曖昧でw)

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

処理中です...