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新たな婚約
17:婚約者として
しおりを挟む勢いで了承の返事をしてしまいましたが、軽い気持ちでは有りませんでした。
それだけは断言できます。
寝不足になるほど、ずっと殿下の事を考えていたのですから。
それもあり、顔を見て「お受けいたします」と言ってしまったのです。
もしも殿下が婚約者だったら、聖女としての活動も、もっと辛くなかった気がします。
私を責めたりせず、聖女だとは知らなくても労わってくださったでしょう。
休みの日も、会う事で癒され、翌日の活力になったかもしれません。
偶にしか顔を合わせられなくても、それを負担に感じ、お茶会に行きたくないなどと思わなかったでしょう。
そう考えると、本当に元婚約者と過ごした時間は無駄だったようです。
私と王太子殿下の婚約が決まり、レベッカ様は婚約者候補という役から解放されました。
今度の長期休暇の時に、聖騎士であり恋人のエサイアス・トミ・ヒューティア様のご家族が挨拶に来るそうです。
レベッカ様が嫁ぐ側ですが、公爵家なので相手側が来るのでしょう。
そして今日は、私とエドヴァルド様の婚約報告と、レベッカ様と恋人のエサイアス様との顔合わせというか、お祝いというか、いわゆるデート、というものでしょうか。
四人で街に遊びに来ています。
まずは個室のある料理店での昼食です。
「それにしても、随分と甘い刑罰でしたわね」
注文を済ませた途端、レベッカ様が殿下……エドヴァルド様へと詰め寄ります。
レベッカ様が言っているのは、私の元婚約者の家への処罰の事でしょう。
「あぁ、あれは……後ろに隣国の王族が居たからね。例の王女の兄が厄介払いをしたくて、元シルニオ侯爵へ何とか私と婚姻が出来ないか、と相談があったのだよ」
それこそ婚姻さえすれば、側妃を何人娶ろうが、王女を離宮へ閉じ込めようが、何でも良かったらしい、とエドヴァルド様が説明してくれました。
実の兄にそこまで疎まれるとは、どれほど乱れた生活だったのでしょうか。
「あまり重い罰にすると、隣国の関与まで公にしなければいけなくなるので、罪を軽くする代わりに、サンニッカ家に泥を被って貰った」
まぁ、そうでなければ一家断絶になるかもしれないほどの罪ですからね。
「外交官としては、それなりに優秀だったのだけどね……」
エドヴァルド様が遠い目をされています。
残念ながら「それなりに」だったので、これ以上罪を軽くする事も出来なかったのでしょう。
腐っても幼馴染です。思うところがあるのかもしれません。
シルニオ侯爵が外交官として飛び回っていたので、家の事や子育ては夫人が取り仕切っていたのです。そのせいで元婚約者があのように育ってしまったのでしょう。
それでも、他の外交官の家全て同じ状況ですし、他の職に就いている家も何かしらの苦労はあるので、同情は出来ません。
夫人は、私の事を「メルちゃん」と呼んでいたので、元婚約者がメルヴィではなくメルディと呼んでいても気付かなかったのでしょう。
そういうところひとつ取っても、夫人もそれなりな方だったのでしょうね。
昼食後はそれぞれ好きに回ろうという事で、お店を出たら二手に分かれました。
私達はお揃いの指輪を探しに宝石店巡りです。
正式な物ではなく、学生時代だけ嵌めるものなので、既製品を買う事にしたのです。
何件か回り、邪魔にならない小ぶりな、それでいて個性的な意匠の指輪を見つけました。
既製品ですが、ペアになった物を一人の職人が全て独りで作成する一点物で、似ていても全部少しずつ違うのだそうです。
確かに掘られている柄が違ったり、宝石の留め方が違ったり、同じ物は見当たりません。
「これ、素敵ですね」
偶然、私とエドヴァルド様の瞳と同じ宝石が嵌め込まれた指輪が有りました。
女性用は金の地金に青と藤色の宝石で、青が少し大きいです。対して男性用は地金が白金で、藤色の宝石が少し大きめで横に青い宝石が……ここまで揃っていて、偶然のわけないですよね?
思わずエドヴァルド様を睨みつけると、悪戯な笑みを返されました。
「地金と宝石の指定はしたけど、意匠とかは全て任せたから」
特注品では無いと言いたいのでしょうか?
「皆様、それくらいは指定されますよ」
普通です、と店員の方が援護します。
色味もですが、意匠も、普段着けていても邪魔にならないけれど、少し面白くて私好みです。
そういう意匠が得意の方が作ったのでしょう。
「…………これが良いです」
悔しいですが、これ以上気に入る物は無いと思いました。
───────────────
次回からは時間が少し戻り、元婚約者視点になります。
胸クソ注意です。
多分、いや、絶対にイライラします(笑)
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