9 / 22
婚約破棄
08:お話し合い……決着
しおりを挟む大きく息を吐き出した私の事を、婚約者だけでなく皆が注目してます。
さすがに多少は愛情が有るのだと、皆誤解していたようです。
私の両親さえも。
なぜなら、私は努力をしていましたから。
彼との婚姻は、貴族としての義務だと思っておりました。
結婚生活をより良くしようと、関係改善に努めました。
激しく燃える恋愛感情ではなくても、お互いを親愛し、認めあえる夫婦になろうと思っていました。
聖女としての教育と活動の為に、普通の婚約者のような交流が出来なかったので、婚約者には我慢をさせているだろうと、私も大分我慢をしてきました。
しかし、堪忍袋の緒は、限度を過ぎれば切れるのです。
突然、思い出したあの事。
婚約者に「俺の子を産めるのか?」と聞かれた時に、私は無理かもしれないと答えました。
その時の彼の反応は、「貴族として役立たずだな」と嘲笑う言葉を吐き捨てる事でした。
あまりにも残酷な態度に、私自身、記憶を封印していたようです。
まだ閨事の事も知らなかった子供の頃の話ですから、当然ですね。
「私は婚約が決まる前の幼い頃、両親との時間が減るのを悲しんでいました。教会に定期的に通わなければいけない事が決まっていたからです」
聖女と判明してすぐの頃だったでしょうか。
「そこでシルニオ侯爵令息に、殿下と結婚したら家族と会えなくなる、と言われたのです」
「そんな事ない!」
私の言葉を聞いて、なぜか殿下が立ち上がり、叫びました。
「はい。今なら判っておりますが、当時の私はそれを信じて大泣きしたのです」
それはもう、興奮して息も上手く吸えないほどの大泣きでした。
「その為、貴方の言葉など、聞こえていなかったのです」
婚約者の顔を見て、しっかりと視線を合わせます。
「貴方との結婚を拒否しなかったのではなく、ただ単に聞こえていなかっただけです」
長年言えなかった秘密を、やっと私は話す事が出来ました。
「私との婚約を拒否した理由が、アイツの嘘だったなんて……」
殿下が音を立てて椅子へと座りました。
完璧な礼儀作法を身に付けている殿下にしては、とても珍しい行動です。
「う、嘘を言うな!」
こちらは予想通りの反応ですね、婚約者様。
「信じようと、信じまいと、貴方の自由です。もう婚約は破棄されるのですから」
そう。もう婚約破棄は決定なので、今更婚約理由などどうでも良いのです。
ただ、私が婚約者を好きだという誤解だけは否定したかったのです。
「子供の頃、茶会で必ず声を掛けてきてたじゃないか。俺が近付くなって言っても」
「婚約者の義務ですから」
「俺が連絡しなくても、俺が参加する茶会には出て来ただろ」
「貴族として必要な事でしたから」
「俺の子供が産めないかもって、悲しんでただろ!?」
「貴方の子供など産みたくない、とは思ってました」
何を驚いた顔をしているのですか。
私の方こそ驚きましたわ。子供が産めないかもと悲しんでいる、と思っていた相手に向かって「役立たず」と言っていたのですか。
「婚約を継続する理由が無くなったな、シルニオ侯爵」
陛下の静かな声が室内に響きます。
その台詞の意味が解らずに私達ラウタサロ家の面々は、陛下へと顔を向けます。
「シルニオ侯爵側は、痴話喧嘩の一環での婚約破棄発言を、タピオラ侯爵が大騒ぎしただけで、令嬢は息子を愛しているから継続を望んでいるはずだ、と訴えていたのだよ」
陛下が説明してくれました。
驚愕です。婚約者は、どれだけ自分に都合の良い説明をしたのでしょうか。
食堂での一方的な宣言を、痴話喧嘩ですか。
「単なる痴話喧嘩になるはずだったんだ」
ボソリと呟いた婚約者の声は、私だけでなく私の両親、そして彼の両親にもしっかりと聞こえたようです。
「馬鹿なのか?」
そう囁き合ったのは、うちの両親です。
「何だそれは……」
目を大きく開け、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして呟いたのは、シルニオ侯爵です。
夫人は「メルちゃん?」と私に縋るような視線を向けてきましたが、無言を返しました。それが拒絶であると理解したようで、すぐに俯いていました。
その後、婚約を破棄する書類に双方署名をして、婚約破棄は成立しました。
当然、公の場で宣言した相手側の有責です。
元婚約者の中の彼を愛している私は、あの場で泣いて縋って「婚約破棄なんて嫌!」と、彼への愛を叫ぶはずだったようです。
そして元婚約者は、滅多に人前に出ない自分に従順な婚約者との関係を、周りに自慢したかったのだとか。
意味が解りません。
───────────────
今更ですが、名前がいつもと違う表記になっております。
主人公:メルヴィ(名)・ラウタサロ(家名)・タピオラ(爵位)
元婚約者:アルマス(名)・サンニッカ(家名)・シルニオ(爵位)
場面に合わせ、爵位で呼んだり、家名で呼んだりしてます。
なれないので、私も間違えて書いていて、こっそり直してたりします(笑)
151
お気に入りに追加
1,234
あなたにおすすめの小説
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
旦那様、それを「愛してる」とは言いません!! 〜とある侯爵家のご夫婦が、離縁に至るまで〜
当麻月菜
恋愛
「なぜだ……どうしてなんだミレニア……こんなにも愛してるというのに……」
一方的な書置きと離縁状を突き付けられた侯爵家当主ヘンリーは失意のドン底にいた。
彼は妻を心から愛していた。何不自由させることなく、最大限の愛を注いでいた。だから離縁される理由など、皆目見当がつかなかった。
───しかしそれは夫側の言い分で、妻の立場からすると少々違うようでした。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」
まほりろ
恋愛
【完結しました】
アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。
だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。
気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。
「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」
アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。
敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。
アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。
前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。
☆
※ざまぁ有り(死ネタ有り)
※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。
※ヒロインのパパは味方です。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。
※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。
2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!
両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした
朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。
わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる