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可愛いを独り占めするのは、心苦しく思います……ので
第389話:感性と自由と理由
しおりを挟む店舗の転移陣の実装実験のはずだったのに、なぜかまだ店舗内に一歩も足を踏み入れていない。
なぜか不動産屋さんも何も言わないで、紫蘭と俺のやり取りを興味津々で見ているし。
紫蘭が洋服のポケットから火蜥蜴の卵を取り出す。
体が大きいと、ポケットに卵を入れて持ち歩けるのか。羨ましい。
紫蘭が赤い炎の柄がある卵を見つめる。
「名前……名前付けたら良いの?じゃあ火蜥蜴!」
そのままかよ!
紫蘭が首を傾げる。何も起こらないようだ。
そりゃあそうだよな。
俺も「今日からお前の名前は『人間』だ」と言われても、絶対に嫌だ。
「多分、名前が気に入らないのだと思う」
多分じゃなくて、絶対だけど大人だからオブラートに包む。
「ん~?そうなの?それなら、サラはどうかしら?」
あ、紫蘭とは感性が一緒のようだ。
そして卵は変化無し。
「じゃあ私の誕生石のアメジスト」
うぅん無反応。
なかなかに頑固というか、こだわりが強い個体なのかな?
「じゃあ誕生日石のルチルクォーツからルチル!」
ヤケクソ気味に紫蘭が叫んだ瞬間、膝から頽れた。
よく見る光景ですね。はい。
「後は溶岩の中にでも、突っ込んどけば良いんじゃない~?」
オーベの雑なアドバイスだけど、嘘では無い。
だけど溶岩ってその辺にあるものでは無いよな?
<その前にまだ魔力が足りてないけどな!>
俺の左手辺りから声がした。
「起きてたのか、ムンド」
<今、起きた!>
そうか。相変わらず自由だな。
他の獣魔達は、転移扉の実験の為に全員クランのペットのお家で待機中だ。
勿論何かあった時の為に、ジルドとユズコの二人が一緒に待機している
転移扉の設置をしている時に、不動産屋の一人が「不具合が出たら徹夜か」と呟いていたのが、妙に印象に残った。
カラフル兎は小さいけど、さすがに何百匹も移動出来るように登録されると魔法陣に負荷が掛かるそうだ。
その上、更にガルムやリルだからなぁ。
「えぇと、さすがに中に入りましょうか」
周りに野次馬が増えてきたので、不動産屋さんが皆に声を掛ける。
カランコロンとドアベルが鳴るのを期待していたのに、何も音がしなかった。
しかも扉が二重で、まるで研究室とかに入る時のようだ。
「なるべく現実のペットカフェの雰囲気に近付けたんだ!ここでのお客様が現実のカフェに迷惑掛けたら嫌だからね!」
えぇと名前は……種族が灰色熊なのは覚えているのに、名前が出てこない。
灰色熊らしい名前だったはず!
「ハイネは、体育会系だから、そういうの気にするよね!」
そうそう!ハイネだ!ありがとう、紫蘭!
そして二人揃うと、どちらもテンション高めでうるさ…ゲフンゲフン。
外側の扉は自分で開ける開戸だが、内側の扉は、センサーに反応する自動ドアだった。
世界観は!?良いの?初めて見たよ。
内側は中に居るペットや従魔の安全が確保されないと開かない仕組みなので、むしろ自動ドアじゃないと駄目なのだそうだ。
現実のペットカフェとはペットの大きさも数も違うので、そこだけは違うらしい。
確かに現実では、ペットの安全を確かめてドアと連動させる技術は無いだろうな。
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