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冒険に行……かないので、せめて色々見てみようと思う
第273話:狂乱(俺の中で)
しおりを挟む「魔物が犯人説は無くなりましたね」
レイがニッコリと笑う。
あれ?なぜか常春のはずなのに寒いな。
木で出来た簡素な家。ログハウス風のようなお洒落な物ではなく、納屋を少し良くしたような感じだ。
決して結界で守らなければいけないような家には見えない。
良くて木樵や猟師の休憩小屋だ。
「クランハウスではないね~」
玄関周りを確認していたオーベが言う。
許可された人しか入れない何かがクランハウスにはあるので、そのチェックをしていたようだ。
ようはセキュリティーシステムの事だけど、どこで見分けるのかまでは知らない。
「これって勝手に入ったら」
「犯罪ですね」
ですよね~。
「従魔が勝手に入ったら」
「監督不行き届きですね。ペナルティになる可能性があります」
ですよね~~。
「でも友人の従魔と遊んでいたら、手元が狂う事はあるよ、な!」
最後の「な!」に異様に力が入っていたユズコ。
言葉と共に、その辺に落ちていた枝を小屋に向かって投げたよ。
枝っていうか、それ、RPGで最初の武器になる『ヒノキの棒』レベルだよな!?
何がって?破壊力がだよ!
木が折れる音がしたけど、壊れたのは『ヒノキの棒』ではない。
家の壁だ。
大穴が空いたのに、家の中からは全然反応がない。
誰もいないようだ。
今までも騒いでいたけど、誰も出て来なかったし、予想はしていたけどな。
大穴から家の中を覗き込む。
予想通り誰も居ないし、そもそもテーブルも椅子も無い。
何も無い床の上に転がる『ヒノキの棒』と木片。
『ヒノキの棒』は『ヒノキの棒』のくせに、キラキラと凄く堅そうに輝いている。
これは、オーベの仕業だよな。
木片は、かつては壁だった物だ。
「何も無い……のに、結界で囲み幻覚魔法まで掛ける理由は?」
視線を家の中から、後ろへ並ぶ悪友達へと移す。
三人とも首を傾げている。
コイツ等に判らないものが、俺に判るわけもない。
<主よ、何も無くはないぞ>
ガルムが俺の隣から小屋を覗き込みながら言う。
もう一度小屋の中を見るが、誰も居ない。
何も無い。『ヒノキの棒』と木片以外。
<そぉ~ぉれ~ぇ~>
気の抜けるような掛け声で、テラが小屋に体当たりをかました。
え?壊れない?大丈夫?
ガラスの割れるような音がした。
今度は薄い窓ガラスが割れたような音。
木の小屋なのにガラス?と思ったら、目の前が一変した。
床から壁から、みっしりと半透明な物体。
気持ち悪い!!
密集したフジツボとか蛙の卵とかが苦手なタイプっているだろ?
俺だ!それは俺の事だ!
その俺の目の前に、視界いっぱいに広がる半透明なツブツブツブツブ…………
「ぎぃいやあぁぁぁぉぁ!」
悲鳴をあげた俺は悪くないと思う。
俺の悲鳴に驚いた半透明な物体……直径10センチ位のスライムが穴から飛び出してくるのと、ガルムが俺のパーカーのフードを咥えて後ろに飛び退ったのがほぼ同時だった。
穴から出て来たスライムは、方々へと散って行く。
<待て!オヤツ!>
従魔達がそれを追って、やはり方々へと散って行く。
あの大きさじゃ、テラにはおどり食いは無理じゃないのかな?などと思いながら、平和な景色を眺めていた。
後から、焦点の合ってない目と表情のない顔が怖かったと、オーベに言われた。
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