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のんびりと家庭菜園を楽しむはずだったのだが、アレ?おかしいな
166:ラブソング
しおりを挟む「魔物野菜畑も見ておきますか?」
普通の家庭菜園より先に始めてた魔物野菜畑。
興味はある。あるのだが、見に行ったら負けな気がするのはなぜだろう。
「魔物玉葱が歌い出したそうです」
「行く!」
あ、好奇心は猫を殺すんだっけ?
でも歌う玉葱など、現実では絶対に見られないからな。
段々と魔物野菜畑に近付いて行くと、雑音が聞こえてきた。
そう、雑音。
それか、雑踏の中の意味をなさない音。
玉葱一つ一つが好き勝手に歌っている結果なのだろう。
もっと、二足歩行の黒ネズミが象徴の会社のアニメみたいなのを想像していたよ。
「あれ?ヴィン、いらっしゃ~い」
いち早く気付いたオーベに手を振られる。
両手には小ぶりな玉葱。近付くと、とても小声で歌っているのがわかる。
「何してるのですか?」
俺の後ろを歩いているレイが、ちょっと呆れを含んだ声で聞く。
「まだ小さいから、引っ張り出さないと何を歌ってるのか聴こえないんだよね~」
そう言いながら、玉葱を俺の耳元に寄せる。
都会に行った恋人にハンカチを贈って欲しいとねだる曲を歌っている。
古っ!!俺の祖父母世代より前の曲では!?
昭和の曲とかって番組で聞いた記憶がある。
「こっちは、ちょっと激しい曲なんだよ~」
もう1個の玉葱を、ずいっと顔の前に差し出される。
今度は俺から耳を寄せると、曲調も歌詞も過激な歌。
いや、英語だからちゃんとした意味はわからないけど、間違いなく今『BiTch(ビッチ)』って聞こえた。
でも『loveletter(ラブレター)』とも聞こえたから、一応ラブソングなのだろう。
まだ小さい玉葱をオーベは畑に置く。
埋め戻さないのか?と思っていたら、玉葱が自分からモゾモゾと土に埋もれていった。
手も足も無いのに!?
「面白いよね~。歌よりもこっちが楽しい~」
オーベが新たな玉葱を摘んで引っ張り出す。
本物のように、根は張ってないようだ。
ブランドの香水がどうのって歌っている。
ラブソングなのか?これ。
レイも一緒になって曲を聴いているので、男三人が仲良く顔を寄せている図って、傍から見たら間抜けだろうな。
<これは食べても良いのかな?>
畑から引っ張り出したのだろう玉葱の頭の先を、器用に咥えたリルが聞いてくる。
犬って玉葱駄目じゃないのか?いや、猫か?
魔物だから別?その前に野菜も魔物だった。
「とりあえず、ペッしなさい」
リルが口を開けると、玉葱は畑に落ちて転がり、適当な場所で潜り始めた。
今の玉葱は、聞いたことない曲を歌っていた。
砂も地球の欠片がどうとか聞こえた。
ログアウトしたら、ちょっと検索してみよう。
「リル、持ち主に許可なく畑の物を取っては駄目だ。ここでは、オーベかジルドに聞いてからにしなさい」
玉葱はまた勝手に埋まるから良いが、他の野菜を遊び半分に引き抜かれたら困る。
<すまなかった>
シュンとするリルが可愛い。しかも今は、ヨミと同じミニサイズ。
抱きしめてグリグリしたいが、今は躾中だから駄目だ。
甘やかして馬鹿犬を製造しちゃう世のバ飼い主の気持ちが少し解った。
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