28 / 31
それぞれの未来
27:お披露目(暗) ※センシティブな内容を含みます
しおりを挟む「お前の嫁ぎ先が決まった」
養父であり伯父であるカイユテ男爵がシルヴィへそう告げたのは、あの不法侵入と不当占拠事件を起こしてから、しばらく経ってからだった。
屋敷内に監禁され、モルガンとの結婚も無くなり、穀潰しの役立たずだとなじられた。今、屋敷内に置いてやっているのは、養子解消の申請がまだ受理されないからだ、と男爵には言われていた。
平民になったら、外へ出て思う存分罪を償え。そう言われて、食事もまともに出されず、風呂にはあれから一度も入っていない。
大きな盥にお湯が張られ、体を拭いて頭を洗うのがせいぜいだった。
シルヴィは久しぶりに、他人の手により丁寧に洗われ、ゆっくりと湯に浸かった。
当たり前だった生活が戻って来た。
結婚相手は誰だろう?
体や髪を磨かれたという事は、それなりの地位の相手だろう。
そう心を踊らせながら、メイドに施される施術に身を任せる。
その後、着せられた服は、完全な夜着だった。
体の線がハッキリと判る意匠な上に、薄らと肌の色が透けて見える。
完全なレースでは無いところに、相手の趣味が透けて見えた。
「ねぇ、さすがにまだこの衣装は早いんじゃないの?」
シルヴィが鏡の前で文句を言う。
それはそうだろう。
通常どんなに早くても、まずは相手と顔合わせをして、結婚式をし、それから初夜になる。
ここはまだカイユテ男爵家の屋敷の中だ。
「私共は、旦那様に言われた通りにしているだけですので」
支度が終わると、メイドは軽く会釈をして部屋を出て行ってしまった。
ノックの音と共に扉が開かれる。
返事も待たずに開けた相手は、カイユテ男爵その人である。後ろには、見た事の無い衣装を身に着けた男性が三人。
「あぁ、我が主が気に入りそうですね」
「おや? 情報では姦通済との事でしたが、まだでしたか。僥倖、僥倖」
「このままで大丈夫なので、行きましょうか」
上から下まで値踏みするようにシルヴィを見てから、男三人は満足そうに頷く。
何が何だか解らないシルヴィは、防衛本能で胸元を腕で隠し、相手に背中を向ける。
その背中に、カイユテ男爵が声を掛ける。
「この婚姻は王命である。最期くらい国の、そして私の役に立て」
「え?」
シルヴィが顔だけを振り返させると、蔑む視線と目が合った……気がした。
目の前が真っ白になったと思ったら、見知らぬ場所に居た。
周りには煌びやかな、しかし見覚えの無い服を着た男性達。
そして視線より高い位置にある椅子に座る威厳のある男と、おそらくその妻。
「我が主、ただいま戻りました」
「僥倖ですぞ! なんと処女です」
「ご命令通り、着の身着のまま連れてまいりました」
シルヴィを連れて来た男達が跪いてしまった為に、一人棒立ちのシルヴィは全身を人目に晒す事になる。
厳粛な雰囲気の場に、一人だけ場違いな薄布で破廉恥な姿のシルヴィ。間違い無く浮いている。
しかも全員がシルヴィを見ているのに、誰も彼もが無関心な顔をしていた。
シルヴィの生活は一変した。良い方へ。
嫁いだのは大国の王で、側室といえども何不自由無い暮らしが出来た。
本当に純潔であった事を王が殊の外喜び、正室を放置して毎晩毎夜、シルヴィの元へと通ったからだ。
今までの側室は、三ヶ月で飽きられて捨てられた、と噂で聞いていたシルヴィは、自分は違うと、特別な存在なのだと、そう思っていた。
もしかしたら、正室に取って代われるのでは、とシルヴィは野望を燃やしていた。
それは態度にも顕著に出ていた。
「ねぇ、王様に新しいドレスが欲しいって言っておいてくれた?」
ある日、シルヴィがメイドに問うと、素っ気なく「伝えました」と言われただけだった。
今までと違う態度に少し違和感は感じたものの、すぐにシルヴィは忘れてしまった。
その贅沢な生活も、半年で終わりを告げる。
突然、本当に突然、王の渡りがパタリと止んだのだ。
その理由はすぐに判明した。
「御子の誕生だ!」
「おめでとうございます!」
「これでこの国も安泰だ」
正室が男児を産んだのだ。
そう。シルヴィは妊娠中の正室の身代わりにされただけだった。
この国の男性は魔力が高い代償に、性欲も強い。
妊娠中の妻には耐えられない程に。
今までの側室と違うところは、正室が妊娠中だから仕方なく期間が延びただけだった。
「こちらは、我が主からの下賜の品である! 有難く使うように!」
あの日、シルヴィを連れて来た中の一人が、シルヴィをまた別の場所へと連れて行った。
前回と違い、完全に透けている夜着を着せられており、周りの視線がシルヴィに絡みつく。
「無駄に贅沢をしていたのだから、ここで役立ちなさい」
男はシルヴィを突き飛ばした。
「妊娠には気を付けなさい。実験に使われますよ」
ニヤリと笑った男の顔に、シルヴィの背筋が寒くなった。
愛する正室以外の子供は要らない、しかし正室だけでは性欲が発散しきれない。
その為に他国から、処刑される身元の確かな女性を買っていた。
今までは使い捨てなので、王も避妊しなかったのだろう。
妊娠したら、ここへ下賜されるのだ。
シルヴィの場合は、ただ単に飽きられただけだった。
自国の魔法の発展の為ならば、何でもやる者達の集団。
妊娠したら、おそらく腑分けされる。
しかし、妊娠するまで男達はシルヴィで欲望を発散する。
どちらにしても地獄だった。
シルヴィは、また間違えたのだ。
355
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる