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真実はひとつ

13:回り始める

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 新しいファビウス伯爵家当主となったフローラが最初にする事は、タウンハウス本邸に巣食っている他人を追い出す事だった。
 今まではフローラの後見人であり伯爵代行だった為に、ファビウス伯爵邸に住む事を許されていただけである、他人。
 ダヴィド、サロメ、シルヴィの三人である。

「代行としては何も仕事をしていなかったので、その分の金は返してもらいましょう」
 ランド・スチュワードのスチュアートが帳簿を凄い速さでめくっていく。
 余談だが、スチュアートは本名ではなく、代々ファビウス伯爵家のランド・スチュワードが名乗る呼び名なのだという。
 本名はクロヴィスと言うらしい。

「後見人報酬だけだと、まず本邸の調度品を変更した金は出ませんね。いや、代行報酬を入れても足りないな。なぜこんな事をしたのだか……戻す代金も当然請求しましょう。それから宝飾やドレスは、今ある分を売れば、超過分は賄えるから、まぁこれは良いとして……」
 言うのと同じ速度で、紙に金額と使用用途を書き出していく。

「本邸の使用人の給金もフローラ様には関係無い金ですから、請求対象ですね」
 フローラが別邸に移ってからの金額が書き出されていく。
 その横に『紹介状無し』と書かれているのは、今居る本邸使用人達の招待状を書かないという意味だろう。

 そこでふとスチュアートの顔が上がる。
「フローラ様。本邸使用人で、誰かフローラ様へきちんとした対応をした者はおりますか?」
 問われて、フローラは過去を思い出す。
「誰もおりませんね」
 用事があって本邸へ行っても、誰もまともな対応をした者はいなかった。
 それこそ執事でさえも。



 楽しそうに帳簿から金額を書き出していくスチュアートを横目に、フローラは書類を処理していく。
 本邸からの退去命令、正当な報酬以上に使われた金銭の返金要求、本邸使用人への使用人部屋退去命令。

 そしてエマール伯爵家への、婚約破棄による慰謝料請求。
 一方的に公の場での破棄宣言。
 長年にわたる不貞行為。
 そして婚約期間に行われたフローラに対する不当な扱い。
 それらに対する精神的苦痛への慰謝料も上乗せされる。


「これらは本当は、フローラ様が成人したら行われるはずでした」
 ローズがハーブティーをフローラの執務机に置く。
 書類作業が一段落して、大きく息を吐き出したのを見て、休憩するようにとの気遣いだろう。

「成人すれば後見人は要りませんし、領地管理はランド・スチュワードで問題無いですから」
 今までもそうですからね、とローズは口の端を持ち上げる。
「むしろ毎年領地に来て、領民と交流し、港や街、それ以外も視察していたフローラ様の方がよっぽど当主としての仕事をしていました」
 フローラを褒め称えるローズの言葉に、フローラは含羞はにかんだ。



 フローラは、実母がなくなった3歳の時から既にファビウス伯爵だった。
 その後見人がダヴィドである。
 そしてあまりに幼い為に、伯爵代行もダヴィドが兼ねていた。
 しかし分別が付く年齢になれば、本来は代行は要らない。決済印さえ押せれば、後は侍従に現場を任せられる。

 現に今のダヴィドがその状態であり、ファビウス領にもう十年は来ていない。
 それを報酬欲しさに、ダヴィドはずっと続けていた。


 フローラに真実を告げず、親子だと嘘をいていた。
 そして、フローラを当主から外しシルヴィを当主に指名して……?

「あの、シルヴィを当主にする事って出来ませんよね?」
 フローラがスチュアートへと質問する。
「もう一度一から当主教育をやり直しますか?」
 ヒヤリとした空気がスチュアートから流れる。

「ち、違うわ。あの日、やっと一人娘のシルヴィを当主に指名出来る、みたいな事を言っていたのよ、ダヴィドが」
 父でも継父でもなく、ファビウス伯爵でもない、ただの平民であるダヴィドに付ける敬称は無い。


「そういえばエマール伯爵家が了承したから、シルヴィを当主に指名出来る、と馬鹿な事を言ってましたわね」
 あの場に一緒に居たローズがフローラを援護する。
 無論、ダヴィドにそのような権利は無い。

「当主に指名? まさか自分が伯爵当主だと思っている……?」
「え? でもどうしてそこにエマール伯爵家が出てくるのでしょう?」
「次期当主の条件がモルガンとの婚姻だと勘違いしてる……とか?」

 フローラとローズは、お互いにそんなまさかと思いながらも、自分の考えを口にする。
 そして恐ろしい事に、それが正しいような気がしてきていた。

 しかし婿養子が爵位を継げないのは、何年も前に法律が変わっており、既にフローラの母の初婚の時には施行されていた。
 だからフローラの父ではなく、母が伯爵だったのだ。
 その母が再婚したから、ダヴィドは伯爵家に住めたのだ。


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