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真実はひとつ

12:新しい関係

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 領地にいる間に、フローラは14歳の誕生日を迎えた。
 いつものように、盛大では無いが使用人達が用意してくれる心のこもった誕生日パーティーで、心から祝われる。
 大きなケーキはフローラの好きなフルーツがたくさん載せてあり、生クリームもたっぷりと使われている。

 贈り物も、絹のハンカチに刺繍がしてあるものや、海外の珍しい置物、最近流通し始めた海外産の万年筆など、フローラが喜びそうなものばかりだ。
 ランド・スチュワードが分厚い、最新の貴族名鑑を渡してきた時は、さすがのフローラも笑顔が引き攣っていた。

「冗談ですよ」
 そう言って、水晶の文鎮ぺーバーウェイトを渡してきたが、貴族名鑑はそのままフローラの手に残った。
 嫌いなものを食べたような顔をフローラがした時、執事が来客を告げた。


「フローラ様、お誕生日おめでとうございます」
 そう言ってパーティー会場である晩餐室へ入って来たのは、アストリとレティシアだった。

 その後ろには、一際大きな影。
 更にその後ろに、見た事の無い壮年の男性が居る。
 ダヴィドより少し年上のその男性は、フローラとよく似た銀髪をしていた。
 それよりも、タウンハウス本邸に飾られていた祖父に似ている、とフローラは目を見張った。

「初めまして、フローラ嬢。私は貴女の母君の従兄弟に当たる」
 ダヴィドよりも遥かに近しい親戚である。
 もし彼が父だと名乗っていたら、フローラは素直に信じていたかもしれない。
「それから、今日からは私が後見人だからね」
 にこやかに差し出された手を見つめ、フローラは固まっていた。


 意味が解らない。
 後見人はタウンハウスで好き勝手しているあの男では無いのか?
「ファビウス伯爵……いや、もう代行を外されてるし、単なる平民だから名前呼びで良いか。ダヴィドは、サロメと教会できちんと結婚しているのに、その手続きを王宮へ届けていなかったのだよ」
 それは、犯罪ではないのか? とフローラは顔色を悪くする。

「ただ単に知らないだけかもしれないけどね。彼は子爵家四男だったから、間違いなく当主教育など受けていないだろうし、前回の婚姻手続きは君の母親がやっただろうからね」
 どこかへ婿入りするならば、その家の当主が手続きをするし、普通に結婚していたら実家の当主が貴族籍から抜いて平民にするだけだった。


 婿入り先の当主が亡くなってしまった為に、おかしな事になってしまったのである。
 それでも、フローラが成人するまで再婚しなければ、問題は無かったのだが……。


 母の従兄弟が言うには、本来彼がフローラの正当な後見人だった。
 フローラの母親は体が丈夫では無かった為に、まだ存命中にフローラの後見人候補が決められていたらしい。
 フローラの実父が亡くなって、まだフローラが生まれたばかりの頃である。

 しかし、傍系で未婚の男子がいるからと、ダヴィドの父親が再婚を頼み込んできたのだ。
 その時既に結婚して子供もいた従兄弟より、フローラの母と結婚出来る方が側で見守れるから、と押し切られたそうだ。

 サロメとシルヴィの存在は、当たり前だが隠されていた。
 結婚しても平民に落ちるだけだという事は、さすがに理解していたようだ。
 家で穀潰しになっていた四男を利用出来る最初で最後の好機に、子爵当主も頑張った。


 そして、フローラを可愛がる事、当主教育をきちんとする事を条件に、ダヴィドはフローラの母と結婚した。
 それでも不安だった母は、亡くなる前にエマール伯爵家のモルガンをフローラの婚約者に決めたのだろう。

 そこまでは先見の明があったのだが、モルガンの性格を見誤っていたようだ。
 この場合は、エマール伯爵夫妻の性格かもしれないが……。
 フローラの両親と仲が良かったエマール伯爵夫妻。だがしかし、三男の婿入り先が早々に決まった事で、気を抜いてしまったのかもしれない。

 モルガンの教育が甘くなっていた。
 そうでなければ、公の場で伯爵家当主のフローラとの婚約破棄をして、平民のシルヴィを婚約者だと宣言する息子には育っていない。



「特務機関は、貴族の不正を調べる部署だ。そして特務部隊は、犯罪者を捕縛する。貴族の私兵を相手にする事も多いから、皆、私のような感じなのだ」
 今まで黙って見守っていたアルベールが、フローラの前にひざまずく。
 前にも同じ事があった、と既にフローラの頬は赤い。

「フローラ・ファビウス伯爵令嬢。いや、代行が居なくなったのだから、貴女が伯爵本人だな。とにかく……フローラ、私と結婚してください。何があっても私が護る」

 アルベールは、今回は手を握らずに、フローラの前へと差し出した。
 その手に、フローラはそっと触れる。
 既に「私が護る」を有言実行しているアルベールを、信用出来ないわけがない。

「よろしくお願いします」
 花がほころぶように笑い、明かりを受けた涙が宝石のようにキラキラと輝いた。


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