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邪魔者
04:異常な関係
しおりを挟む学園に通い始めて一月後。
フローラにも友人と呼べる関係の人間が出来た。
アストリ・モーリアック。侯爵家の令嬢であり、上に兄が二人いる。そのせいか、どちらかというとハッキリとした性格で、正義感が強いように感じる。
レティシア・バルバストルは伯爵令嬢であり、弟が一人いる。おっとりとしているように見えるが、中身は三人の中で誰よりも貴族らしい性格をしていた。
約束をしているわけではないが、大抵三人は馬車の到着時間がほぼ同じだった。
「おはようございます、フローラ様」
モルガンとシルヴィの後ろ姿を眺めて溜め息を吐いたフローラへ、声を掛ける者がいた。
フローラが振り返ると、笑顔のレティシアと、モルガンとシルヴィを睨み付けているアストリが居た。
「恥知らずな」
アストリの口からポツリと零された言葉は、視線の先の二人に向けられたものである。
仲良くなった三人は、まず自分達の婚約者が誰であるかを報告し合ったのだ。
派閥の関係もあるが、もし婚約者がまだいないようならば、学園内で探す場合に自分の婚約者がその対象にならないように、との当然の配慮だった。
先日、フローラが告げた婚約者の名前に、レティシアもアストリも驚きで目を見開いた。
入学してまだ間がない1年生にも知れ渡っている、学園内で1番有名な恋人同士である2年生。その片割れがフローラの婚約者だと言うのだから当然だろう。
正式な婚約であれば、他家の者でも簡単に照会する事が可能である。
モーリアック侯爵家とバルバストル伯爵家は、ファビウス伯爵家とエマール伯爵家の婚約照会を行い、フローラの言っていた事が嘘でも妄想でもなく、真実だと知ったのは昨日の事だった。
「父にも長兄にも確認したのだが、たとえ相手が姉であっても、あの行動は不貞に当たるそうだよ」
アストリがフローラへと静かに告げる。視線はまだ、腕を組み恋人として振る舞う二人を見ている。
「家族全員が昔から容認してたら感覚がおかしくなりますわよねぇ。でも、あれを私の婚約者がしましたら、即婚約破棄しますわね。相手有責で」
キッパリと言い切ったレティシアの婚約者は、侯爵家の嫡男である。
侯爵令嬢であるアストリと、侯爵家へ嫁ぐレティシアに言われ、さすがに自分の置かれている状況がおかしいのだとフローラも自覚した。
漠然とおかしいのでは? と、思ってはいた。しかし婚約者だと知った時には既に、モルガンとシルヴィは今の状態だったし、フローラは別邸で一人暮らししていたので家族に確認のしようも無かったのだ。
「とにかく、何かあった時の為に、公の場できちんと婚約者を注意しておいた方が良いようだよ」
アストリが助言をする。
「後々、相手が開き直って婚約者公認だった、などと言い出したら困りますものねぇ」
レティシアもアストリに同意した。
昼休憩になり、フローラ達三人は食堂へと向かった。
昔は家からシェフを連れてくる非常識な高位貴族や、お金が無いからと昼を抜く下位貴族もいた。
それを憂いた当時の学園長が時の宰相を説得し、学園で提供される昼食は全て無料となった。当然有料のデザートや、メインディッシュの交換などの選択肢は有るが。
とにかく、生徒は全て学園内の食堂で昼食を取るのだ。
席に明確な決まりは無いが、何となく貴族階級や学年で分かれている。
基本が貴族の子女なのだから、食堂内は落ち着いた雰囲気だった。
しかし、どこにでも例外がいるようで……。
「うふふ。モルガンってば、ちゃんと食べてよ」
「君に見惚れちゃったんだよ、シルヴィ」
恋人同士のように「あ~ん」と食べさせあいをしている、フローラの婚約者モルガンと、フローラの姉のシルヴィが食堂の真ん中辺りの席にいた。
隅の方でひっそりと、では無く、堂々と真ん中で注目を浴びながらの、食べさせあいである。
人目も憚らず、まるで物語の中の恋人達のような行動をする二人へ、スッと影がさした。
天井からの明かりを遮って二人の居るテーブルの前に立ったのは、フローラである。
何も表情無く、静かに二人を見下ろす。
「何?」
先に不機嫌な声を発したのは、シルヴィだった。
「せっかくの食事が不味くなる。あっち行けよ」
シルヴィと同じように不機嫌な声で、フローラを追い払う言葉を口にしたのは、声以上に不機嫌な顔をしたモルガンだ。
周りはその異様な雰囲気に、手を止め、話を止め、視線を、耳を、向ける。
仲の良い婚約者同士の所へ、空気の読めない新入生が近付いた……?
横恋慕している女生徒か?
何も知らない周りの傍観者は、心の中ではワクワクと、見た目には心配そうに見守っていた。
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