【完結】悲劇の令嬢は、巻き戻って悪役令嬢へと変化する

46.クズ視点 ※残酷な表現があります

　


※ヤコブソン視点

　水しか来なくなった。
　それなのに、風呂は普通に入れるのか。
　髪も体も自分で洗う事になれた。
　髪が長くて邪魔だが、切る事はできない。
　剣もハサミも、ナイフも、刃物は何もないからだ。

　水が飲みたい。風呂上がりなのに、水がない。
　フローラが水を飲んでいた。
「よこせ」
「嫌よ！これは私の分だもの！」
「それは国の金、ひいては俺の金だ！だから俺の水だ！」
　フローラの頬を叩くと、叩き返してきた。
　なんて女だ！

　誰のせいでこんな所に住んでいると思ってんだ！
　俺は、アンシェリーと結婚して、王太子として贅沢に暮らすはずだったんだ！


　お前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいでお前のせいで！！



　フローラがぐったりして動かなくなった。
　水袋を拾って、飲み干した。
　そうだ。
　この女がいなくなれば、俺はアンシェリーと結婚して、王になれるはずだ。
　フローラをシーツに包んで、フローラの部屋のベッドに置いた。
　何日かしたら、通いのメイドが発見するだろう。
　喧嘩して、何日も姿を見ていないと言えばいい。
　その頃には、傷もわからなくなっているはずだからな。



※フローラ視点

　シーツに包まれたまま、どこかに運ばれた。
　寝てても痛いのに、ソファに座らされてるみたい。
　目の前にいるのは、ヤコブ？いつ髪切ったの？
　子供、大きくなってる。
　よく見えないけど、そっか～お母さんが恋しくて迎えに来たんだね。
　産んどいて良かったよ。
　名前、何になったんだろ？まぁ別にいいけど。

　早く連れ出して。
　お母さんにまた贅沢させて。
　産んであげたんだから、それくらいしてくれるでしょ？


　何か飲まされた。
　薬かな？


　苦しい！息が、息が吸えない！
　体が痛いのに、それよりも苦しくて、じっとしていられない！！
　喉が焼ける。
　痛い！苦しい！

　目の前に、血を吐き涙や鼻水を流すヤコブがいた。
　見慣れたヤコブ。

　ソファには、まだあ・の・人・が座っている。
　子供はどこに行ったの？
　私を助けに来たんでしょ？

　ヤコブが動かなくなった。
　私の体も動かない。
　床に敷いてあったカーペットに包まれて、運ばれる。
　どこに運ばれるんだろう。
　ガタガタと運ばれ、「せーの」という掛け声と共に、どこかに投げ入れられた。

　カーペットが広がり、外が見えた。
　体は動かないから、目だけを動かす。
　そこは、深い穴だった。
　周りには腐った死体。
　ヤコブも目だけがギョロギョロしてる。
　生きてたんだ。

　私はあなたに殴られたから何も臭わないけど、あなたは違うのかしら？
　ふふふ。滑稽ね。

　私達、頂点を取るはずが、底辺に落ちたのね。
　この穴は、身元不明の死体が放り込まれる穴よ。
　処刑された死体も、ここに放り込まれると、側妃教育で習ったもの。
　初めて教育された事が役に立ったわ。