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「素敵なドレスですわね。そちらはどこの?」
「これはマリリナ様のドレスにレースを足してお直ししましたのよ」
「まあ!素敵なドレス!」
「はい。アンシェリー様が寄付なさった青いドレスを襟元だけ作り変えましたの」
「こんな機会がなければ、一生着られないようなドレスです!」
「来年もやっていただけるのかしら。私、今回2枚のドレスで悩んでしまって……あちらのドレスも着たかったです」


 王太子の開会の挨拶が終わった後、皆様自由に歓談を楽しんでおります。
 あちこちでドレスの話で盛り上がっているようですわね。
 お直ししたドレスは、ほとんどの方が引き取りを希望されました。
 私もフェリシア様のドレスを少しだけお直しして着ておりますが、記念に取っておこうと思っております。
 左の肩から胸に大きな花と小さな花の飾りがあり、今までの私のドレスにはないデザインです。

 一応フロアでダンスも出来ますが、誰も踊っておりません。
 先程王太子とフローラが踊ったきりです。
「よろしければ一曲いかがですか?」
 フロアを見ていたから踊りたいのかと誤解されたのでしょうか?
 タイラーにダンスを申し込まれました。
 正式なパーティーではパートナーと踊ってからでないと他の方とは踊れませんが……。
 タイラーのパートナーへと視線をやると、お二人で手を繋いでフロアへと歩いていました。
「このような場でなければ、二人で踊れませんからね。私が邪魔者なのですよ」
 とても良い笑顔で言われました。

 私とタイラーが踊り出すのとほぼ同時に、マリリナ様とフェリシア様も踊り出しました。
 カレーリナとネイサンも私達に気付いて、フロアに出て来ましたね。
 サンドラもガチガチに緊張しながらエスコートされてフロアへ歩いて来ましたわ。大丈夫かしら?

 あぁ、フロアに出て来て踊る方が増えてきました。
 やはりパーティーの醍醐味は華やかなダンスですわよね。
 生徒会内でパートナーの交換をして踊っていると、予想外の出来事が起こりました。
 お皿の割れる音と、甲高い怒鳴り声です。
 なぜ短いパーティーの間だけで良いのに、大人しくしていられないのでしょうか?
 私達は顔を見合わせて、騒ぎの方へと向かいます。
 マリリナ様とフェリシア様には、なるべく離れた所へ移動していただきました。


「何があったのですか?」
 騒ぎの中心へ行くと、思ったよりも大惨事でした。
 伯爵家令嬢が床にうずくまり、そのドレスの前面は何か食べ物の汁で汚れています。
 そしてその前に落ちている割れた皿。
 令嬢の向かいには、肩で息をしているフローラが怒りの形相で立っていました。
 犯人と被害者は聞くまでもないですわね。
 ただ、どうしてこのような事になったのか聞かなくてはいけません。

 そして、蹲る令嬢をそのままにもしておけません。
 予備のドレスを控室に用意しておいて良かったですわ。
 お直ししなくても着られるドレスもあるでしょうし、伯爵家令嬢ならば寄付したご自分のドレスもあるかもしれません。


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