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しおりを挟む侯爵家の応接室で紅茶をいただいております。
まだ令嬢は髪を結ったりしており、お会い出来ていません。
挨拶に来ると言うのを、時間がないのだから全て準備が終わってからで良いと伝えたのです。
しかし、これほど時間に余裕があったのですね。
ちょっと早く屋敷を出過ぎたかもしれません。
そのお陰で侯爵令嬢を救えたので、良かったと言えば良かったのですが。
侯爵令嬢の準備が整い、部屋へと入って来ました。
制服も違和感が無いですね。
私を見てお礼の言葉よりも先に涙が溢れてきた令嬢に、努めて優しく見えるよう笑顔を作り、顔を向けました。
「泣いては駄目ですわよ。せっかく準備したのに、やり直さなくてはならなくなります。遅刻したくはないでしょう?」
責める口調にならないように気遣いながら、令嬢を窘めます。
付いていた侍女が「失礼します」と声を掛け、彼女の目の端からハンカチで涙を吸い取りました。
「間に合わなければ、私は恥ずかしくて学園へ通えませんでした」
馬車の中で侯爵令嬢がポツリと呟きます。
そうですね。
現に前回は、王都から遥か離れた所にある親戚の所で療養する事を理由に、一度も登校せずに退学していました。
彼女の名前はサンドラ。侯爵家の長女です。
兄が二人いるので、学園を退学して僻地に篭っても問題の無い令嬢です。
それにしても今更ですが、一度王太子より後に公の場に行っただけで、随分と重い罰でしたわよね。結果的に、入学式で騒ぎを起こす事になったからなのでしょうか。
「馬車にまで乗せていただいて、申し訳ありません」
色々考えていたせいで反応が遅れてしまいました。
サンドラが恐縮してしまってます。
「大丈夫ですわ。それに、お友達と一緒に登校するのが夢でしたの」
サンドラには申し訳ないのですが、こちらも彼女を利用させてもらう事にしました。
私が家を早く出た理由は、友人であるサンドラを迎えに行く為だったとしたのです。
爵位の違う者達が行動する時、基本的に高い爵位の者に合わせるのです。
爵位が離れていれば、まず下の者が上の者の家に訪れるのですが、学園に近い侯爵家に私が迎えに行っても問題はないでしょう。
あの王太子へ、なぜ朝早く家を出たのか説明する内容を考える手間が省けました。
それに、私の行動を証明してくれる証人がもう一人増えました。
主従関係になるカレーリナよりも、更に強固な証人となるでしょう。
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