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13:勘違いの理由

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 結局リリーは、メイドが持って来たシーツにグルグル巻きにされて退場した。
 まだパーティーが始まってもいないのに、大騒ぎである。
「私、心配だから付き添ってきます」
 ローズがリリーについて行こうとしたけれど、両親に止められてしまった。

「気持ちは解るけど、今日はフェデリーコとの婚約を王家に報告しなきゃいけないのよ。抜ける事は出来ないわ」
 母親に諭されて、ローズは「はい」と小さく頷いた。


 その後、ローズとフェデリーコは恙無つつがなく王家へと挨拶を済ませ、他の貴族家への挨拶回りも済ませた。
 その時にアンソニーの実家であるホッパード家にも挨拶をした。
 侯爵夫妻と長男夫婦、誰もアンソニーの存在を気にしていなかったのがとても印象に残った。

 業務提携をしている家との婚約を勝手に破棄宣言して家に迷惑を掛け、将来は平民になる事が決まっているアンソニーは、もう家に居場所が無いのだろうと予想出来た。

「そういえば、アンソニーはどこへ行ったのかしら?」
 リリーへ上着を貸す事を拒否した後、アンソニーの姿は会場から消えていた。
「リリーに付いて行ったって事は……無いだろうな」
 フェデリーコが長身を利用して会場内を見回したが、アンソニーを見つける事は出来なかった。



 王宮の使用人から、本人の希望でリリーは帰宅したと告げられる。
 勿論勝手に帰したわけではなく、当主であるアムネシア伯爵の許可を取ってからの送迎であった。

「家に帰ったのなら、使用人も居るし安心ね」
 ローズがホッとした顔をした。
 一人になって暴れようが、正気に戻って反省しようが、今後の自分を思って嘆き泣き叫ぼうが、迷惑を受けるのは伯爵家内だけで済む。
 使用人達には、臨時ボーナスが出されるだろう。

 安心したからか、急に疲れを感じたローズは、フェデリーコに中座する事を告げる。
 大抵のパーティー会場で女性陣には、化粧直し用の控室が用意してある。
 メイン会場にあるよりも更に食べやすい一口サイズの軽食と、ノンアルコール飲料も用意されている。

 要は、男性陣の視線から逃れて、女性陣が気を抜いてくつろぐ場所である。

「座ってゆっくりと温かい紅茶が飲みたいわ」
 疲れた声でこっそり呟きながら、ローズは控室へと向かった。



 あとひとつ角を曲がれば控室という所で、急にローズの腕が引かれた。
「何するの!?」
 驚いて腕を振り払おうとして、掴んだ相手を見た。
「アンソニー……様」
 婚約者ではなくなっているので名前呼びはしない方が良いのだが、咄嗟の事で辛うじて様を付けた。

「ローズ、やり直そう。お前は俺が好きだろう?今まで10年以上婚約者だったのだから」
 未だにローズの腕を離そうとしないアンソニーは、不快感を露わにしているローズに構わず話し続ける。

「お前みたいな醜女ブスでも、あの娼婦よりはマシだ。お前も子爵夫人より、伯爵夫人のが良いだろう?」
 アンソニーの言葉に、ローズは眉間に深い皺を寄せた。
 淑女にあるまじき表情だが、今回は仕方あるまい。

「誰と結婚しようが、私は伯爵夫人ですが」
 ローズの結婚相手が伯爵家へ婿入りするのだから当然だ。

「お前は馬鹿なのか?俺は伯爵と養子縁組の書面を交わしているんだぞ」
 ローズは、リリーとアンソニーの勘違いの理由がやっと理解出来た。
 アンソニーが言っているのは、『ローズと結婚した場合は婿養子に入る』という誓約書の事だった。



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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

後数話ですが、今日から1日1話更新になります。
あと少し、お付き合いください。
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