上 下
16 / 49

15:悪意はどこにでも

しおりを挟む
 


 ジュリアの誕生日の前。
 両親の姿が公的機関にあった。
 婚約の際の契約書と、婚約破棄の手続きの書類を持っていた。
 契約内容を確認し、婚約破棄の書類も不備が無いかをじっくりと見ていた職員は、無表情で顔を上げた。
「問題はございませんので明日には受理され、ご自宅に通知書が届くと思います」
 職員の言葉に、カルミネは頷く。

「普通に通知をお送りして良いですか?」
 職員が、今度はニヤリと黒い笑顔で言ってくる。
 え?とアンドレオッティ子爵夫妻が職員の顔を見ると、職員はそっと自分の名札を指差した。
 そこにあった名前は、アンドレオッティ子爵家と大きな取引をしている家と同じだった。

「相手の家には、郵便事故で3ヶ月程遅れて届いてくれると面白いだろうなぁ」
 カルミネが悪い笑顔で呟くと、職員が頷く。
「他地方行きの箱に紛れて、遅くなる事があるかもしれませんね。本来有ってはならないのですが、人間のやる事ですからねぇ」
 職員は、何かのメモを書類に貼り付けていた。



 サンテデスキ伯爵であるドメニコは、帳簿を見て首を傾げていた。
 リディオとジュリアの婚約により持ち直した筈の経営が、緩やかに下降していたのである。

 婚約の話をして、緩やかに景気が回復した。
 そして半年後に顔合わせをして、リディオはジュリアに、婚約に至った。
 そして更に景気は上昇。
 半年間は、過去最高の儲けを出していた。

 しかし、そこから徐々に陰りを見せてくる。
 今から3ヶ月前。
 確かリディオとジュリアのがその頃だったか?とドメニコは呑気に思い出していた。
 そこで気が付き、本気で調査をして、アンドレオッティ子爵家に謝罪をしていれば、何かが違ったのかもしれない。

 しかし「もしも」と「たられば」は、達成出来なかった時の言葉なのである。

 後悔先に立たず。

 それを、ドメニコを筆頭に、サンテデスキ伯爵家は全員で身を持って知る事になる。


「ねぇ、ドメニコ~、新しいドレスが欲しいの。買っても良いでしょ?」
 愛人のバーバラが、ドメニコの執務室へノックも無しに入って来た。
 偶然ではあったのだが、ドメニコは正妻と愛人が同じ名前だった。
 正妻のバーバラが出産で実家に帰っている間に、愛人のバーバラは正妻に無断で、積極的に社交を行っていた。

 正妻のバーバラは、結婚してすぐに妊娠出産、しかも2年続けて出産していた為にほとんど社交が行えず、誰もが愛人バーバラを正妻だと信じていた。
 長男は正妻バーバラの実家にも行っていたし、次男のリディオ出産後にも帰って来ない母に会いに、今でも伯爵家へ顔を出しに行く。

 次男のリディオは、子供を産みたく無かった愛人バーバラが「自分が育てたい!」と、子育てをした。

 一応ドメニコは、二人に「正妻のバーバラの子だ」と伝えていたが、そこにも落とし穴があった。
 長男は、実家の伯爵家から帰って来ない母が正妻だと理解していたが、リディオは愛人バーバラに溺愛されていた為に、そちらが正妻のバーバラだと誤解していた。



────────────────
 補足(正妻バーバラの動き)
長男妊娠⇒出産間近に実家へ⇒出産後3ヶ月でサンテデスキ伯爵家に戻る⇒次男妊娠⇒半年後、長男を連れて実家へ⇒出産後1年、サンテデスキ家が子供を引き取りに
※次男が成人したので、離婚調停中
子供は、貴族なので嫁ぎ先に取られてしまうものだと、ご理解ください。
(乳母が育児をするのが普通の世界だと)
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

今世は好きにできるんだ

朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。 鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!? やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・ なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!! ルイーズは微笑んだ。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・・

王妃はわたくしですよ

朝山みどり
恋愛
王太子のやらかしで、正妃を人質に出すことになった。正妃に選ばれたジュディは、迎えの馬車に乗って王城に行き、書類にサインした。それが結婚。 隣国からの迎えの馬車に乗って隣国に向かった。迎えに来た宰相は、ジュディに言った。 「王妃殿下、力をつけて仕返ししたらどうですか?我が帝国は寛大ですから機会をたくさんあげますよ」 『わたしを退屈から救ってくれ!楽しませてくれ』宰相の思惑通りに、ジュディは力をつけて行った。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

処理中です...