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10:抗議と謝罪
しおりを挟む一方的に怒鳴り散らして、リディオは去って行った。
残されたジュリアは、理不尽な事を言う婚約者の背中を、ただ茫然と見送っていた。
「あの方、大丈夫でしょうか?」
呟きながら掴まれた腕に触れたジュリアは、痛みに顔を歪めた。
思った以上に強い力で掴まれたようである。
ジュリアは保健室へ行き、その場で正式に医師に治療を受け、診断書の作成をお願いした。
クッキリと痕が残るほどの力で掴まれたのである。
商人として、いや貴族として、当たり前の行動だった。
その日の夜には、アンドレオッティ子爵家として、正式にサンテデスキ伯爵家に抗議文を送った。
さすがに「貧乏人」と詰られた事は明記しなかったが、意味の解らない叱責を受けた事、腕に痕が残るほど強く掴まれた事を書いた物だ。
しかし暖簾に腕押し。
定型文の謝罪と、『リディオは女性に慣れていないから力加減を間違えただけ。婚約者と交流したかったのだろう。注意しておく』という何ともお粗末な返事が来ただけだった。
「婚約して半年でコレか」
カルミネは、伯爵家から届いた謝罪文を手に憤っていた。
誠意の無い謝罪は、完全にアンドレオッティ家を嘗めていた。
婚約した事で、もう親戚になったつもりなのだろう。
元々が友人で距離感が普通より近かったのだが、さすがに今回は大切な娘を傷付けられたのだ。
黙って見過ごすつもりは無かった。
「サンテデスキ伯爵家から、そうとは気付かれぬように手を引いていけ」
カルミネは、室内で忙しく働いている部下達に指示を出した。
「学園内にいるアンドレオッティ家に属する者達に、馬鹿息子をジュリアに近付け無いようにするようにお願いしておくように」
ジュリアの知らないところで、事は動き出したようである。
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