上 下
39 / 43

39:自縄自縛

しおりを挟む



「フェデリーカ嬢!大丈夫か!?」
 石畳に座り込んでいたフェデリーカを立たせたジェネジオは、そのままふわりとフェデリーカを抱きしめた。
「油断した……すまない。怪我を増やしてしまった」
 耳元で優しく囁かれ、フェデリーカは今更ながらの痛みと恐怖で体が震えてくる。
「何が……?」
 フェデリーカの問いに、ジェネジオが首を振る。

「実は、私も解っていない。公爵家うちの騎士達が近付いて来るのが見えたので、押し付けてしまった」
 フェデリーカを抱きしめる腕に力が入る。
「ただ、女はタヴェルナ侯爵令嬢だった」
 ジェネジオが告げた名に、フェデリーカの体が震える。
「こちらに居たのは、カルカテルラ子爵令嬢でした」
 フェデリーカも見た事実を伝える。

「あのクズの愛人か」
 忌々いまいましげにジェネジオが呟く。
 まだスティーグの起こした事件の影響は消えていないようだった。



 伯爵家ではなく、ダヴォーリオ公爵家に二人揃って帰って来た。
 予定よりも早く、しかもフェデリーカと一緒に帰宅した兄をからかおうと顔を出したイレーニアは、二人の表情を見て笑顔を引っ込めた。

「何かあったの?」
 応接室に入った途端に席にも着かず聞いてきたイレーニアをフェデリーカの横へ座らせ、ジェネジオは起こった事を簡単に説明する。
 そして「父上に報告してくる」と、フェデリーカをイレーニアへと預けて、部屋を出て行った。

「フェディ、怖かったわね」
 イレーニアがフェデリーカを抱きしめる。
「加害者だけど被害者だからと、罰を軽くしたのが間違いだったのよ」
 自分以上にいきどおっているイレーニアを見て、フェデリーカはフフッと笑う。
 やっと現実に戻って来たのを実感したのだった。


 フェデリーカがイレーニアと話をして心を落ち着かせていた頃。
 ジェネジオは、執務室で父親相手に興奮していた。
「なぜあんな女を見逃してやったんですか!そのせいでフェデリーカ嬢が危険な目にあったんですよ!」
 父親の襟首を掴みかねない勢いに、室内に居た家令が側に寄って来る。
 いつでも止められる位置だ。

「タヴェルナ侯爵家は、建国当初からある貴族家だ。おいそれと潰せない。王家からも、頭の挿げ替えで許すように打診されたのだよ。だが今回の醜聞で、分家から養子を迎えるのに誰も首を縦に振らなかった」
 ダヴォーリオ公爵がにこやかに息子に説明する。
「あの娘は許された訳では無い。後継が決まるまで、処分保留になっていただけだよ」
 ここで一度大きく息を吸い、笑顔を消した。

「我が公爵家を蔑ろにした者達を、この私が見逃す訳が無いだろう?」
 何度も令嬢の行動に抗議の手紙を送っていたが、ことごとく無視されていた。
 実はかなり腹にえかねていたようだ。

「今回の件で、さすがに侯爵家自体が無くなるだろうね。令嬢だけの問題で済ますには、悪質過ぎる」
 伯爵令嬢を誘拐し凌辱するように、それなりの組織に依頼している。
 無論、協力者のカーラと実家であるカルカテルラ子爵家も、お咎め無しの訳が無い。

「カルカテルラ子爵家も、慰謝料を払うだけで済んで良かったと、心を入れ替えれば良かったものを」
 カルカテルラ子爵家は、ベッラノーヴァ侯爵家との婚約破棄の一因として、ティツィアーノ伯爵家から慰謝料を請求されていた。
 その額はカルカテルラ子爵家が簡単に払える額ではなく、おそらく今代こんだいだけでなく、次代までの借金となるだろう。


 フェデリーカを襲わせた目的は、タヴェルナ侯爵令嬢セレーナとダヴォーリオ公爵家三男であるジェネジオを結婚させ縁を結ぶ事だろう。
 そして完全な傷物のカーラを、ジェネジオの第二夫人にでも宛てがうつもりだったのだろう。

 フェデリーカが居なくなれば、セレーナがジェネジオに選ばれるという考え自体が理解出来ないが、そこは爵位至上主義のタヴェルナ侯爵家らしいと言えば、らしいのかもしれない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊王を宿す令嬢が、婚約破棄される時

田尾風香
恋愛
全六話。 ***注意*** こんなタイトルですが、婚約破棄は五話、ざまぁは最終話の六話です。それを前提の上でお読み下さい。 暗い色をした目を持つマイヤは、両親から疎まれていた。それでも、優しい祖父母と領民の元で幸せに暮らしていた幼少期。しかし、十三歳になり両親に引き取られて第三王子の婚約者となってから、その幸せは失われた。そして、マイヤの中の何かが脈動を始めた。 タイトルがネタバレになっています。 週一回、木曜日に更新します。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

とある公爵の独白

吏人
恋愛
とある国のとある公爵の独白 息抜きに書いた作品です! 完結済みなのでどんどん更新していきます! 恋愛にしてありますが…恋愛要素全くありませんごめんなさい

婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~

たんぽぽ
恋愛
両家の話し合いは円満に終わり、酒を交わし互いの家の繁栄を祈ろうとしていた矢先の出来事。 酒を運んできたメイドを見て小さく息を飲んだのは、たった今婚約が決まった男。 不運なことに、婚約者が一目惚れする瞬間を見てしまったカーテルチアはある日、幼馴染に「わたくし、立派な悪役になります」と宣言した。     

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

泥を啜って咲く花の如く

ひづき
恋愛
王命にて妻を迎えることになった辺境伯、ライナス・ブライドラー。 強面の彼の元に嫁いできたのは釣書の人物ではなく、その異母姉のヨハンナだった。 どこか心の壊れているヨハンナ。 そんなヨハンナを利用しようとする者たちは次々にライナスの前に現れて自滅していく。 ライナスにできるのは、ほんの少しの復讐だけ。 ※恋愛要素は薄い ※R15は保険(残酷な表現を含むため)

溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~

弓はあと
恋愛
「センティア、君との婚約は破棄させてもらう。病弱な妹を苛めるような酷い女とは結婚できない」 ……病弱な妹? はて……誰の事でしょう?? 今目の前で私に婚約破棄を告げたジラーニ様は、男ふたり兄弟の次男ですし。 私に妹は、元気な義妹がひとりしかいないけれど。 そう、貴方の腕に胸を押しつけるようにして腕を絡ませているアムエッタ、ただひとりです。 ※現実世界とは違う異世界のお話です。 ※全体的に浮気がテーマの話なので、念のためR15にしています。詳細な性描写はありません。 ※設定ゆるめ、ご都合主義です。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

処理中です...