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35:結婚の条件
しおりを挟む「新しい婚約者はどうするつもりなのかしら?」
ある日突然、イレーニアがフェデリーカに問い掛けた。
「そうですね。嫡男なのに今、婚約者が居ないような人はご遠慮願いたいので、騎士になる予定の次男や三男の方になるかと」
フェデリーカの兄オズヴァルドは、既に騎士団から内定を貰っている、優秀な騎士候補である。
その印象が強いのだろう。
「あら、当主を支える為に爵位を持つ次男の方や、文官になる方は除外されてしまうの?」
イレーニアが更に聞いてくる。
「爵位を持つ予定の方は、次男でも競争率が高いので私程度ではとても」
フェデリーカはコロコロと笑う。
「それに私はリアと同じ野生児だったので、文官の旦那様やその周りの方とは……その、多分、合わないと言うか、浮いてしまうかと」
歯切れ悪くゴニョゴニョと言い訳するフェデリーカの腕を、ロザリアが指でツンツンと突く。
「誰が野生児よ、誰が」
「リアだけとは言ってないわよ。私も木登りしたし、虫も鷲掴みしていたもの」
ロザリアがフェデリーカの言葉を聞いて笑う。
「フェディはアゲハ蝶の幼虫が好きで、よく捕まえては1本の木に集めて観察していたわよね!」
「リアはトカゲを捕まえて、可愛がっていたわよね」
「連れて帰ろうとしたら、毎回ディーに「可哀想だから放してあげなさい」って言われてたわ」
ディーとは、ロザリアの婚約者の愛称である。
「あら、でもディーノ様も文官では無いけど文系だわ。年が離れれば良いのかしら?」
フェデリーカが良い事に気が付いた、と言うように手を打ち鳴らす。
「確かにディーは文系ね。5才も離れちゃうと、ある程度の我儘は許容範囲みたい」
ロザリアがフェデリーカの意見に同意した。
「今はさすがに木登りなさいませんよね?」
イレーニアの問いに、フェデリーカだけでなく、ロザリアもサッと顔を背ける。
「まぁ……」
それだけで察したのだろう。
イレーニアが呆れた声を出す。
「フェディの家の領地に、今の私達にも登れる木があるのがいけないのよ」
「確かに低い位置にしっかりと太い枝があって、横に大きく広がっていて、良い枝振りなのよね」
例えそのような木が在ったとしても、普通の令嬢は木登りなどしないという前提が二人には無いようだ。
「でもフェディがお嫁に行ったら、もう木登りも出来ないわね。良いストレス解消なのに」
ロザリアがポツリと呟く。
「そうね。でも木登りを許してくれる方を選べば、里帰りの時に出来るわよ。リアは時期を合わせて遊びに来れば良いわ」
フェデリーカがおかしな提案をする。
「いえ、普通は婚約者や妻に木登りを許さないわよ」
イレーニアの否定の言葉は、二人には届かないようだ。
キャイキャイと「そうね!ディーは許してくれるから、きっと他にも居るわね!」「第1条件それにしようかしら」などと盛り上がっている。
「木登りか……危険が無ければ、いや、自分が居る時なら良いか?」
横でブツブツと何やら検討し始めた兄を見て、目の前ではしゃぐ友人二人を見て、イレーニアはこっそりと溜め息を吐き出した。
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