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33:希望と絶望

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「何か、脱走した犯罪者が居たらしいけど、施設の敷地の外を偶然通り掛かった騎士に切られて即終了だって。おマヌケ様よね」
 ロザリアが朝一番で、フェデリーカとイレーニアへと話す。
「その騎士とは、うちの者ですわよ」
 イレーニアの言葉に、ロザリアだけでなくフェデリーカも驚く。

「え?護衛騎士って事?」
 ロザリアの問いに、イレーニアは曖昧に頷く。
「どなたか公爵家の方がその場にいらっしゃったの?」
 フェデリーカが心配そうに聞いてくるのに、イレーニアは笑顔を向ける。
「ジェネジオ兄様ですわ。ウルバーノ様にお願いして、週に1回近衛騎士隊の訓練に参加させていただいてますの」

 近衛騎士の訓練に参加中のジェネジオの護衛騎士に討伐された脱走者。
 運が悪過ぎる。
 余程の罪を犯して、神に見放されたのだろう……フェデリーカはそう結論付けた。


 昼休みになり、いつものようにジェネジオとオズヴァルドが迎えに来る。
 ジェネジオの顔を見た途端、フェデリーカは心配そうに駆け寄る。
「ジェネジオ様、脱走した犯罪者と遭遇したとお聞きしました。お怪我とかこざいませんの?」
 本当に心配そうに問い掛けるフェデリーカを見て、当のジェネジオよりオズヴァルドが頬を緩ませる。

「我が妹は心配性だな。それは俺が相手でも変わらないのかな?」
 どこかからかいを含む声音に、フェデリーカは「当然です!」と即答する。
 しかしその頬は赤い。

「大丈夫ですよ。犯罪者と言っても殺人とかでは無く、結婚詐欺?みたいな犯罪を犯した者ですから」
 ジェネジオがフェデリーカの頭を撫でる。
 オズヴァルドのような乱暴な撫で方では無く、髪を梳くような優しい撫で方に、フェデリーカは耳まで真っ赤に染まった。



 脱走したが、間抜けにもすぐに捕まってしまったスティーグは、予定よりも厳しい強制労働所へ行く事へとなる。
 今は、ジェネジオに切られた傷の治療の為に、収容施設の医務室に居た。

「見事だねぇ。致命傷にならないけど、後々生活に困る所を的確に切ってある」
 治療に当たった医師が、変に感心した言葉を発する。
「え?何ですか、それ」
 助手が問い掛けると、医師は溜め息をく。

「君は医師になりたいのだろう?きちんと人体の構造とその働きを覚えなさい。患者に後遺症が残る時、それを説明出来なければ駄目だろう?」
 医師に叱られ、助手がシュンとなる。
 それを見て、医師は溜め息を吐く。
 今度は呆れでは無く、どことなく優しさを含んでいる。

「ほら、来なさい。説明してやろう」
 治療を受けて全裸のままのスティーグの元に、医師は助手を呼ぶ。
「まず、分かり易いのは足。ここの健を切ってあるから、この男はもう二度と走れない」
「立てないのですか?」
「いや、そこまでじゃ無いのが、凄いんだよ。歩けるだろうけど、走れない。まぁ、二度と脱走出来ないだろうから、看守は大喜びだね」
 どこか楽しそうなのは、気のせいか。

「でも、何かに襲われても逃げられませんよね?」
 助手の問いに、医師は頷く。
「だが強制労働所で何から逃げるのかい?」
 医師が逆に助手に問う。
「えぇと、犯罪者?」
 助手の答えに、医師はハッハッハと豪快に笑う。
「コイツも犯罪者だよ。しかも強姦未遂」
「あぁ!じゃあ自業自得ですね」
 助手も笑顔を見せる。
「ほら、それより次を説明するよ」
「はい!先生!」

 医師と助手の会話を聞きながら、スティーグは青ざめていた。
 何かを言いたくても、もう
 医師が助手に説明するのを、ただ絶望と共に聞いていた。


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