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32:密室での裁判

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 第三王子が証拠として提出した魔導具により映し出された映像に、被告側は何も言えなかった。
 捏造だ、罠だ、作り物だ、そう言いたいのは山々だったが、この映像を流される前に、魔導具の性能実験が行われていた。
 被告側の目の前で魔導具を起動させ、今の状況を録画され、直ぐに再生されたのだ。
 魔導具の性能を疑う余地は無かった。

「凄いですよね。無理矢理犯しておいて、それを盾に結婚を迫るって」
 第三王子の台詞に、スティーグ達は下を向いたままだ。
「しかも相手の情夫を勝手に決めて、何様ですかねぇ。自分の種じゃない子が出来る可能性があるのにそんな契約をするって事は、最初から相手の産む子を後継にする気は無いって事だねぇ?」
 スティーグは膝の上で拳を握り込む。

 フェデリーカとの婚約が破棄されてから、ベッラノーヴァ侯爵家の財政が苦しいのをスティーグは知ったのだ。
 まだ家が潰れる程では無い。
 しかし自分が継ぐ頃には贅沢は一切出来なくなるだろう。
 このままでは。

 フェデリーカの実家のティツィアーノ伯爵家との業務提携が出来れば、その限りでは無い。
 業務提携での恩恵が大きいのは、侯爵家の方だと知ったのだ。
 しょうがないから、ヨリを戻してやろう。
 そう思って、寛大にものに……。

 たかが伯爵家のくせに断りやがって、生意気な女だ。それならば実力行使されてもしょうがないだろう?
 侯爵夫人になれるのだから、多少の事は我慢するべきなのだ。
 フェデリーカが悪い。
 スティーグの拳が白くなるほど、握りしめられていた。



 部屋の中に、再び木槌ガベルの音が響く。
「ベッラノーヴァ侯爵家、タヴォラッツィ伯爵家は廃家とする。フローリオ子爵家とスペルティ男爵家は爵位を返上するように。ベルトリーノ男爵家は2階級降格」
 犯した犯罪の割には罪が重いと、親達は一斉に立ち上がり猛抗議した。

「処刑される方が良いかね?」
 裁判長の言葉に、全員が口を噤んだ。
 タヴォラッツィ伯爵家は、あの侯爵令嬢を犯そうとした男の家だった。
 爵位返上の2家は、情夫契約をした生徒の家。
 ベルトリーノ男爵家は、見張り役だった。
 全員格上の家の令嬢を傷物にしようとしたのだ。
 重い罰が課せられて当然である。

 ベッラノーヴァ侯爵家は、全てを扇動せんどうした罪である。
 爵位が高ければ下の者に何をしても良い、という風潮を改める為の見せしめの意味もあり、かなり重い罰になった。


「本人達には、その罪の重さにより年数が変わるが、強制労働所行きが決定している」
 裁判長の言葉に、もう親達は何の反応も示さなかった。
 本人達は、絶望した顔を裁判長に向けている。
 スティーグだけは、まだ下を向いていた。

「あんな女のせいで。あの女が大人しくヨリを戻せば……」
 ブツブツと呟いていたが、皆が自分の事に手一杯で、誰も気にしなかった。


 強制労働施設へ移送される前に、スティーグは収容施設から脱走した。
 今までどんなに屈強な男が脱走しようとしても、どんな策士が計画を練っても、誰も脱走出来なかった施設からの脱走。
 その意味をスティーグが知る事は無いだろう。


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