上 下
27 / 43

27:有象無象

しおりを挟む



 二人が保健室へ到着すると、黒山の人集ひとだかりが出来ていた。
「すみません、通して」
 人垣を掻き分けて前へ出ると、扉の前に一人の男子生徒が倒れていた。
 扉から中を伺うと、呆然と立ち尽くしているフェデリーカが居る。

「フェディ!」
 オズヴァルドが名前を呼ぶと、油の切れた人形のようにぎこちない動きで振り返り、オズヴァルドとロザリアの姿を認めると、ぶわりと涙を溢れさせた。
「オズ兄様!リア!」
 泣き出したフェデリーカに走り寄り、二人でフェデリーカを抱きしめる。

 フェデリーカを抱きしめながら、オズヴァルドは室内を見回した。
 ベッドの脇に二人、ベッドの上に一人、男子生徒が倒れている。
 そしてベッドの上には制服の乱れた女子生徒が一人。

「……何が?」
 思わずオズヴァルドが呟いた時、ベッドを囲うカーテンの陰から人が現れた。
 喉元にナイフを当てられたスティーグと一緒に、にこやかな青年が居る。
「私から説明しましょう」
 青年はスティーグの喉元にナイフを当てたまま、器用にナイフの柄を見せてくる。
 そこには、王家の紋章があった。



 駆け付けた教師達により、スティーグを含む男子生徒達は連行された。
 女子生徒はショックで口もきけなかった為、家族が迎えに来た。
 本当に侯爵令嬢だったようだ。
 駆け付けた保健医が備え付けの膝掛けで体を隠したが、破れた制服を目撃した生徒は多い。
 未遂だろうが、もうまともな結婚は無理だろう。

 青年により校長室へ案内されたフェデリーカ達三人は、彼が第三王子の命により付けられた王家の影だと知った。
「もう一人おりまして、大暴れをしてから教師を呼びに行ったのはそっちなんですよ」
 青年は肩をすくめる。
「大事になってしまって申し訳ない」
 青年が謝るのを、フェデリーカは慌てて止める。

「いえ!私が無事なのは、間違い無くお二人のお陰です。ありがとうございました。あのお姉さんにもお礼を言っておいてください」
 どうやら大暴れをしたのは、女性だったようだ。



 その後、女子生徒はジェネジオと結婚したいが為に、スティーグに協力したと白状した。
 元々、侯爵家であるスティーグの求愛を拒み続けるフェデリーカに、反感を持っていたらしい。
 爵位史上主義の、古い考えの家柄だったようだ。
 今回の件では、かなり重い処罰が下されるだろう。少なくとも侯爵からの降格はまぬがれまい。

 伯爵令嬢に対しての、計画的な強姦未遂事件である。
 理由も身勝手極まりなく、隷属目的だったので、全員一切同情の余地無しとされた。


 ベッド側に居た二人は、子爵家と男爵家の次男で、卒業後はベッラノーヴァ侯爵家で働く名目で、フェデリーカの情夫となる契約をスティーグと交わしていた。
 フェデリーカを突き飛ばした男子生徒は、最初から侯爵令嬢目当ての伯爵家三男で、スティーグの友人だ。

 扉の外に居たのは、単に金を貰っただけの関係だったが、中で行われる事を知っていたので、罪の重さは変わらないだろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊王を宿す令嬢が、婚約破棄される時

田尾風香
恋愛
全六話。 ***注意*** こんなタイトルですが、婚約破棄は五話、ざまぁは最終話の六話です。それを前提の上でお読み下さい。 暗い色をした目を持つマイヤは、両親から疎まれていた。それでも、優しい祖父母と領民の元で幸せに暮らしていた幼少期。しかし、十三歳になり両親に引き取られて第三王子の婚約者となってから、その幸せは失われた。そして、マイヤの中の何かが脈動を始めた。 タイトルがネタバレになっています。 週一回、木曜日に更新します。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

とある公爵の独白

吏人
恋愛
とある国のとある公爵の独白 息抜きに書いた作品です! 完結済みなのでどんどん更新していきます! 恋愛にしてありますが…恋愛要素全くありませんごめんなさい

婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~

たんぽぽ
恋愛
両家の話し合いは円満に終わり、酒を交わし互いの家の繁栄を祈ろうとしていた矢先の出来事。 酒を運んできたメイドを見て小さく息を飲んだのは、たった今婚約が決まった男。 不運なことに、婚約者が一目惚れする瞬間を見てしまったカーテルチアはある日、幼馴染に「わたくし、立派な悪役になります」と宣言した。     

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

泥を啜って咲く花の如く

ひづき
恋愛
王命にて妻を迎えることになった辺境伯、ライナス・ブライドラー。 強面の彼の元に嫁いできたのは釣書の人物ではなく、その異母姉のヨハンナだった。 どこか心の壊れているヨハンナ。 そんなヨハンナを利用しようとする者たちは次々にライナスの前に現れて自滅していく。 ライナスにできるのは、ほんの少しの復讐だけ。 ※恋愛要素は薄い ※R15は保険(残酷な表現を含むため)

溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~

弓はあと
恋愛
「センティア、君との婚約は破棄させてもらう。病弱な妹を苛めるような酷い女とは結婚できない」 ……病弱な妹? はて……誰の事でしょう?? 今目の前で私に婚約破棄を告げたジラーニ様は、男ふたり兄弟の次男ですし。 私に妹は、元気な義妹がひとりしかいないけれど。 そう、貴方の腕に胸を押しつけるようにして腕を絡ませているアムエッタ、ただひとりです。 ※現実世界とは違う異世界のお話です。 ※全体的に浮気がテーマの話なので、念のためR15にしています。詳細な性描写はありません。 ※設定ゆるめ、ご都合主義です。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

処理中です...