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27:有象無象
しおりを挟む二人が保健室へ到着すると、黒山の人集りが出来ていた。
「すみません、通して」
人垣を掻き分けて前へ出ると、扉の前に一人の男子生徒が倒れていた。
扉から中を伺うと、呆然と立ち尽くしているフェデリーカが居る。
「フェディ!」
オズヴァルドが名前を呼ぶと、油の切れた人形のようにぎこちない動きで振り返り、オズヴァルドとロザリアの姿を認めると、ぶわりと涙を溢れさせた。
「オズ兄様!リア!」
泣き出したフェデリーカに走り寄り、二人でフェデリーカを抱きしめる。
フェデリーカを抱きしめながら、オズヴァルドは室内を見回した。
ベッドの脇に二人、ベッドの上に一人、男子生徒が倒れている。
そしてベッドの上には制服の乱れた女子生徒が一人。
「……何が?」
思わずオズヴァルドが呟いた時、ベッドを囲うカーテンの陰から人が現れた。
喉元にナイフを当てられたスティーグと一緒に、にこやかな青年が居る。
「私から説明しましょう」
青年はスティーグの喉元にナイフを当てたまま、器用にナイフの柄を見せてくる。
そこには、王家の紋章があった。
駆け付けた教師達により、スティーグを含む男子生徒達は連行された。
女子生徒はショックで口もきけなかった為、家族が迎えに来た。
本当に侯爵令嬢だったようだ。
駆け付けた保健医が備え付けの膝掛けで体を隠したが、破れた制服を目撃した生徒は多い。
未遂だろうが、もうまともな結婚は無理だろう。
青年により校長室へ案内されたフェデリーカ達三人は、彼が第三王子の命により付けられた王家の影だと知った。
「もう一人おりまして、大暴れをしてから教師を呼びに行ったのはそっちなんですよ」
青年は肩をすくめる。
「大事になってしまって申し訳ない」
青年が謝るのを、フェデリーカは慌てて止める。
「いえ!私が無事なのは、間違い無くお二人のお陰です。ありがとうございました。あのお姉さんにもお礼を言っておいてください」
どうやら大暴れをしたのは、女性だったようだ。
その後、女子生徒はジェネジオと結婚したいが為に、スティーグに協力したと白状した。
元々、侯爵家であるスティーグの求愛を拒み続けるフェデリーカに、反感を持っていたらしい。
爵位史上主義の、古い考えの家柄だったようだ。
今回の件では、かなり重い処罰が下されるだろう。少なくとも侯爵からの降格は免れまい。
伯爵令嬢に対しての、計画的な強姦未遂事件である。
理由も身勝手極まりなく、隷属目的だったので、全員一切同情の余地無しとされた。
ベッド側に居た二人は、子爵家と男爵家の次男で、卒業後はベッラノーヴァ侯爵家で働く名目で、フェデリーカの情夫となる契約をスティーグと交わしていた。
フェデリーカを突き飛ばした男子生徒は、最初から侯爵令嬢目当ての伯爵家三男で、スティーグの友人だ。
扉の外に居たのは、単に金を貰っただけの関係だったが、中で行われる事を知っていたので、罪の重さは変わらないだろう。
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