5 / 43
05:父への報告
しおりを挟む屋敷に戻ったフェデリーカは、父フランチェスコの居る執務室へと向かった。
今日の出来事を報告する為である。
悲しげに報告する方が良いか、嬉しそうに報告する方が良いか、淡々と事実報告する方が良いか。
扉の前に立ち、淡々と事実を報告する事に決める。
数回ノックすると、中から「誰だ」と問うフランチェスコの声がした。
「フェデリーカです。少しお時間をいただけますか?」
やはり先に執事を通した方が良かったかしら?フェデリーカがそう考えたところで、中から「入りなさい」と返事があった。
「失礼します」
扉を開けて中に入ると、目の前の執務机に座っているフランチェスコがいた。
「急ぎの用事かい?」
机の上の書類を揃えながら、フランチェスコが言う。
夕食の後に、いつも家族団らんの時間がある。
その時に学校での出来事を報告するのが常なのだ。
「楽しい時間を潰すのは忍びなくて」
頬に手を当て、フェデリーカは苦笑する。
その様子を見て片眉を上げ、フランチェスコは立ち上がる。
「話を聞こう」
フェデリーカをソファへ誘導しながら、フランチェスコが告げた。
フェデリーカはなるべく感情的にならないように、事実だけを脚色せずに伝えた。
教室内で子爵令嬢がスティーグの婚約者だと触れ回っていた事。雑談だけでなく、自己紹介で「自分の婚約者は侯爵家嫡男だ」と宣言した事もしっかりと伝える。
そして馬車を待っている間に、スティーグに言われた事。なるべく言われた言葉も一語一句思い出して伝えた。
「ダヴォーリオ公爵令嬢とお兄様達、その婚約者のご令嬢方が室内にいらしたので、証人は充分ですわね」
そこまで一気に話し、フェデリーカは笑顔を浮かべる。
目の前のフランチェスコは、ワナワナと体を震わせていた。
「妙に事業の話を急ぐと思ったら……そういう事か」
いつもより低い声に、フランチェスコの怒りの度合いが判る。
「婚約なんぞ破棄だ!業務提携もせん!」
テーブルを叩くフランチェスコを見て、お茶を用意してもらわなくて良かったわ、とフェデリーカは明後日の事を考えていた。
フランチェスコは暫くスティーグとベッラノーヴァ侯爵家への怒りを口にしていたが、落ち着いたのか肩で息をしながらも大人しくなった。
それを見て大きく息を吸いこんだフェデリーカは、お腹に力を入れる。
「すぐに婚約破棄したら、私の瑕の方が深くなります」
フランチェスコの眉間に皺が寄る。
「婚約してすぐに破棄したなど、私が悪いと皆が勝手に誤解しますわ」
侯爵家と伯爵家の婚約が、短期間で破棄される。
上の爵位からの破棄が普通である。
「今はクラスの中だけですが、もっと皆様にスティーグと子爵令嬢の関係を目撃してもらいましょう!」
フェデリーカは、馬車の中で考えた案を父親に提案する。
「超絶良い女になってから、馬鹿な婚約者と縁を切ってやるのです!その頃には周りも「あのクズなら婚約破棄して当然」と思うようになりますわ」
余りのフェデリーカの勢いに押され、あれだけ怒っていたフランチェスコも、「フェディが良いなら」と、戸惑いながらも了承した。
76
お気に入りに追加
2,182
あなたにおすすめの小説
精霊王を宿す令嬢が、婚約破棄される時
田尾風香
恋愛
全六話。
***注意*** こんなタイトルですが、婚約破棄は五話、ざまぁは最終話の六話です。それを前提の上でお読み下さい。
暗い色をした目を持つマイヤは、両親から疎まれていた。それでも、優しい祖父母と領民の元で幸せに暮らしていた幼少期。しかし、十三歳になり両親に引き取られて第三王子の婚約者となってから、その幸せは失われた。そして、マイヤの中の何かが脈動を始めた。
タイトルがネタバレになっています。
週一回、木曜日に更新します。
婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~
たんぽぽ
恋愛
両家の話し合いは円満に終わり、酒を交わし互いの家の繁栄を祈ろうとしていた矢先の出来事。
酒を運んできたメイドを見て小さく息を飲んだのは、たった今婚約が決まった男。
不運なことに、婚約者が一目惚れする瞬間を見てしまったカーテルチアはある日、幼馴染に「わたくし、立派な悪役になります」と宣言した。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
泥を啜って咲く花の如く
ひづき
恋愛
王命にて妻を迎えることになった辺境伯、ライナス・ブライドラー。
強面の彼の元に嫁いできたのは釣書の人物ではなく、その異母姉のヨハンナだった。
どこか心の壊れているヨハンナ。
そんなヨハンナを利用しようとする者たちは次々にライナスの前に現れて自滅していく。
ライナスにできるのは、ほんの少しの復讐だけ。
※恋愛要素は薄い
※R15は保険(残酷な表現を含むため)
溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~
弓はあと
恋愛
「センティア、君との婚約は破棄させてもらう。病弱な妹を苛めるような酷い女とは結婚できない」
……病弱な妹?
はて……誰の事でしょう??
今目の前で私に婚約破棄を告げたジラーニ様は、男ふたり兄弟の次男ですし。
私に妹は、元気な義妹がひとりしかいないけれど。
そう、貴方の腕に胸を押しつけるようにして腕を絡ませているアムエッタ、ただひとりです。
※現実世界とは違う異世界のお話です。
※全体的に浮気がテーマの話なので、念のためR15にしています。詳細な性描写はありません。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。
幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」
結婚して幸せになる……、結構なことである。
祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。
なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。
伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。
しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。
幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。
そして、私の悲劇はそれだけではなかった。
なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。
私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。
しかし、私にも一人だけ味方がいた。
彼は、不適な笑みを浮かべる。
私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。
私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる