4 / 72
サースティールート
お許しの出た日
しおりを挟む
月曜日、学校から帰ると私は速攻で異世界で浮かなそうな服に着替えた。よく考えたら学園の制服をこっちに持ってくれば良かったのか、と今頃やっと気づく。
「Hey Sir〇……じゃなくて、ヘイ、ミューラー!」
『ミュトラスの乙女……じゃなくてサリーナだったっけ』
「この押入れ、空が見えるけど屋上に繋がったままなの?」
『君が思い浮かべればどちらにも出れるよ』
ほほーう。
「ありがとう……行ってきます!」
私はお礼を言うと、寮の部屋を思い浮かべる。すると押入れの向こう側の風景が寮の部屋の中に切り替わった。なんて便利なんだ。
もぞもぞと押入れに入り、くぐり抜けると寮のクローゼットの中だった。頭を出すと、暗い室内に出た。
制服に着替えて、学校の鞄の中に、返してもらったスケッチブックと筆記具を詰めた。
時計を見ると4時だった。
研究室にいくにはまだ早い気がしたけれど、どうしようかなと思う。
特別教室を覗いてみるかな。もう誰もいないかもしれないけれど。
特別教室は校舎二階の角部屋だと聞いている。
寮を出て、中庭を歩き進み、校舎に近づくと、たくさんの生徒がいた。
授業が終わり、談笑している人や、寮に帰る人、部活棟に向かう人たちなど様々だった。
生徒をかき分け校舎に入り、階段をあがると二階に向かう。
2階の廊下を歩いていると、生徒が誰もいなくなった。
ひとけのない角部屋にたどり着くと、廊下から教室を覗いた。……誰もいなそうだった。
教室の扉を開け中に入ると、黒板に紙が貼ってあった。
『授業時間9:00-16:00』と書いてある。
本物の学校が終わったあとにこっちに来ても授業は受けられないのかぁ……。
私が未だなんだか分からない聖女について分かる日が来るとは思えなくなってしまった。まぁ興味もないんだけど。
仕方なく教室を出て、研究棟へと向かった。
今日も、サース様に会えるのかなぁ……。
昨日のことはまるで夢みたいだった。
美しい容姿の、漆黒の瞳を持つサースティー・ギアン。彼の視線の先に私がいた。
ゲームの中では、美しい悪魔と言われるような冷ややかな眼差しの彼が、不思議なほどよく笑っていた。
まるで普通の男の子みたいに、なんでもない話をしながら、ランチを一緒に食べてくれた。
そして、スケッチブックを返そうと、わざわざ走って追いかけてくれていた――
思い出すだけで、どきどきと胸が高鳴った。
あんなに良い人が、魔王になって殺されるなんて、絶対にダメだ。
そんなことを思いながら歩いていると、廊下の角の先に、誰かがもめているような声が聞こえた。
私は引き返そうかと足を止めて、そこにサース様の声が混じって聞こえてくるのが分かった。
「それはお前には関係がないだろう?」
その低い声は、私の心をときめかせる唯一の声。
身を隠すように廊下の角にちぢこまる。
「……そうは言ってもお前ひとりが勝手なことをすると、周りが迷惑するんだよっ!」
誰かが怒鳴っていた。
「……俺一人のことなど、誰も気にしていないからこうなったのだろうに」
「……っ」
怒鳴っていた相手が黙ったあと、足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
少しだけ覗き見ると、赤い髪の男の子の後ろ姿が見えた。そして遠くに、歩いていくサース様の長い黒髪が揺れているのが見えた。
顔は見えないけれど、私はその赤髪が誰なのか知っていた。
――ラザレス・バーン。攻略対象の一人だ。比較的小柄で幼げな顔立ちながら、快活で健康的な、剣技を得意とするキャラだった。
私は、このイベントがなんだか知っていた。
そろりそろりと忍び足でその場を離れながら、考える。
(授業のグループワークを、サース様はどれ一つとして参加しなかった。ラザレスにはサース様の行為は自分勝手なものに見えていたけれど、本当は違うのだ。だって、サース様は、クラスメイトに避けられ恐れられていたから)
――『興味がない』そう、口では言いながら、周りに気を使って自分から距離を置いていたのだ。
――だって彼には、人を避けさせる過去があったから。初等部のときに魔力を暴走させて、数人の生徒に怪我を負わせていたのだ。
魔法研究室の扉は、少し開いていた。隙間から中を覗き込むと、サース様は白衣のようなものを着て、ガラス瓶を手に持ち何かを行っていた。
その瞳には、影が見えるような気がした。
まるで忘れたいものを忘れるかのように、研究に集中しているように見えた。
サース様は扉が見える位置に立っていたので、すぐに覗き込む私に気が付き、ふっと柔らかい表情を浮かべた。
どうしてだか分からないけれど。それだけで私はちょっと泣きそうになってしまって、思わず、すごく愛しい気持ちいっぱいに微笑んでしまった。
「……なんだ?」
訝しむように黒い瞳を私に落として彼は言った。
そりゃそうだろう、私は彼にとって、毎日毎日ただの不審者だった。
「……今日も遊びに来ました!」
「遊びに来るような場所でもないが……」
サース様は実験道具を置くと、椅子の上に置かれていた書物をどかしてくれた。
「魔法研究室は、一般の生徒はほとんど近寄ることもない場所だ。絵描きなら、珍しく思うものもあるのだろう。好きに描いていくといい」
あれ、サース様自分が描かれると全く思っていなかったの……?
しかしあなたを描きに来たんです!と公言するのもはばかられるし、言わずに描き続けるのも問題があるしどうしようかな……と思いながら、私はスケッチブックを開いた。
この間描いた絵を数えたら24枚。ただひたすら、サース様を描いていた。どのサース様も、我ながらとてもカッコ良かった。ああああ、カッコイイ。次に持って帰った時には部屋に飾ろうと思う。
でもミューラーが言っていた、3回の願いを叶えるはずになった絵ってこのうちのどれなんだ?と見てみても私には分からなかった。
首をかしげながらスケッチブックを見ていると、鋭い視線を感じた。サース様が真剣な表情で私を見ていた。目が合うと、はっとしたようにサース様は視線を逸らした。
(……私のストーカーぶりを怖がられている!)
理由を理解した私は、慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「……勝手に描いてごめんなさい。怖がらせてごめんなさい。嫌な思いをさせてごめんなさい!」
「……え?」
戸惑ったような声が聞こえ、すぐに「いや……」という否定の言葉が続いた。
「何も嫌な思いをしていない。お前の絵はとても……温かかった。俺を描いているようには見えない」
「はい?」
「まるで愛する人を、愛情いっぱいの目線で描いた、愛ある人の絵だった。それは、俺であって俺ではない。描くお前自身がそういう人間なんだろう」
愛する人とか言った――――!
ストーカーバレどころか本質まで突かれていて私は言い訳のしようもなく頭をぐるぐるとさせていた。
でも一つだけ言いたい。これはサース様だ。
私は歩き進むと、むんず、とサース様の両腕を握りしめ、全身の力を振り絞るようにして言った。
「ギアンさんは、ご存じないんです!これは、ギアンさんそのものなんです」
私の行動に、目を丸くするように、驚きの表情でサース様は私を見下ろしていた。
「真面目な表情が時折くずれて、少し悲しそうな、でもとても優しい表情をするんです。そんな瞬間も逃さないように私はただ描いただけなんです。ああ、でも真面目な表情もとても素敵です。睫毛が伏せられて影が出来た瞬間のその美の集大成のような陰りも神様が生み出した奇跡のようです。だけれど、一番好きなのは、緊張がほぐれた瞬間の、ふっと柔らかな表情をする一瞬です。さっき私を見つけた時にしてくれたあの顔が私はとても好きです」
「――え?」
低い声が体に響くと私は正気を取り戻した。
……え?
私は今なにを言ったっけ?
そう思いながら視線を漂わせ、自分の両手が彼の両腕を力強く握りしめていることに気が付いた。
「きゃああああ」
自分のしていることに自分で悲鳴を上げた。
身を引き、壁際まで飛びのくと、恐る恐るサース様を見上げた。
「……」
片手で顔を半分隠すようにしたサース様が顔を背けていた。
「ご、ごめんなさい……」
もう二度とここには来られないと思いながら、謝罪の言葉を口にした。泣きそうに声を震わせていた私に、慌てるようにサース様が顔を上げた。
「いや……違う。謝る必要はない」
私をじっと見つめたサース様が、ふっと笑った。
「……サースだ。呼び捨てでいい。描きたければ俺のことも描いて行って構わない」
……あれ、そんな話今してたっけ?
不思議な気持ちでサース様を見つめると、サース様も真っすぐに私を見つめてくれて、私たちはしばらく見つめ合っていた。
日が落ちて暗くなったことに気が付くと、サース様が部屋の明かりを点け出した。
「お前は帰らなくていいのか?」
「……大丈夫です」
サース様は実験作業に戻って、もう私の方を振り返らなかった。
私は大人しく椅子に座り、スケッチブックを開いた。
なんだかよく分からないけれど、お許しが出たので描いてもいいのだろう。
私は実験を続けるサース様を見ながら、また一心不乱に絵を描き出した。
描いていると集中して何も考えられなくなった。
ただ、この傷つきやすい不器用な、美しい人が、世界で一番好きだなぁってそんな気持ちだけが胸に沸き起こった。
そんな人を描かせてもらえて、今私は、世界で一番幸せな女の子だなぁと思っていた。
サース様は8時くらいまで研究をしていた。私は家に帰ってから食べられるけれど、寮の夕食の時間を過ぎてしまった後に彼はどうするのだろうかと不思議に思って、明日は夕食を持ち込もうと思った。
(いろいろあって頭から吹っ飛んで完全に忘れていたけど、ラザレス・バーンルートで、このイベントがあった日の夜、高等部に入ってからはじめてサース様が魔力を暴走する事件があったように思ったのだけど、起きなかったから違う日だったのだろうか、と悩んだ日)
「Hey Sir〇……じゃなくて、ヘイ、ミューラー!」
『ミュトラスの乙女……じゃなくてサリーナだったっけ』
「この押入れ、空が見えるけど屋上に繋がったままなの?」
『君が思い浮かべればどちらにも出れるよ』
ほほーう。
「ありがとう……行ってきます!」
私はお礼を言うと、寮の部屋を思い浮かべる。すると押入れの向こう側の風景が寮の部屋の中に切り替わった。なんて便利なんだ。
もぞもぞと押入れに入り、くぐり抜けると寮のクローゼットの中だった。頭を出すと、暗い室内に出た。
制服に着替えて、学校の鞄の中に、返してもらったスケッチブックと筆記具を詰めた。
時計を見ると4時だった。
研究室にいくにはまだ早い気がしたけれど、どうしようかなと思う。
特別教室を覗いてみるかな。もう誰もいないかもしれないけれど。
特別教室は校舎二階の角部屋だと聞いている。
寮を出て、中庭を歩き進み、校舎に近づくと、たくさんの生徒がいた。
授業が終わり、談笑している人や、寮に帰る人、部活棟に向かう人たちなど様々だった。
生徒をかき分け校舎に入り、階段をあがると二階に向かう。
2階の廊下を歩いていると、生徒が誰もいなくなった。
ひとけのない角部屋にたどり着くと、廊下から教室を覗いた。……誰もいなそうだった。
教室の扉を開け中に入ると、黒板に紙が貼ってあった。
『授業時間9:00-16:00』と書いてある。
本物の学校が終わったあとにこっちに来ても授業は受けられないのかぁ……。
私が未だなんだか分からない聖女について分かる日が来るとは思えなくなってしまった。まぁ興味もないんだけど。
仕方なく教室を出て、研究棟へと向かった。
今日も、サース様に会えるのかなぁ……。
昨日のことはまるで夢みたいだった。
美しい容姿の、漆黒の瞳を持つサースティー・ギアン。彼の視線の先に私がいた。
ゲームの中では、美しい悪魔と言われるような冷ややかな眼差しの彼が、不思議なほどよく笑っていた。
まるで普通の男の子みたいに、なんでもない話をしながら、ランチを一緒に食べてくれた。
そして、スケッチブックを返そうと、わざわざ走って追いかけてくれていた――
思い出すだけで、どきどきと胸が高鳴った。
あんなに良い人が、魔王になって殺されるなんて、絶対にダメだ。
そんなことを思いながら歩いていると、廊下の角の先に、誰かがもめているような声が聞こえた。
私は引き返そうかと足を止めて、そこにサース様の声が混じって聞こえてくるのが分かった。
「それはお前には関係がないだろう?」
その低い声は、私の心をときめかせる唯一の声。
身を隠すように廊下の角にちぢこまる。
「……そうは言ってもお前ひとりが勝手なことをすると、周りが迷惑するんだよっ!」
誰かが怒鳴っていた。
「……俺一人のことなど、誰も気にしていないからこうなったのだろうに」
「……っ」
怒鳴っていた相手が黙ったあと、足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
少しだけ覗き見ると、赤い髪の男の子の後ろ姿が見えた。そして遠くに、歩いていくサース様の長い黒髪が揺れているのが見えた。
顔は見えないけれど、私はその赤髪が誰なのか知っていた。
――ラザレス・バーン。攻略対象の一人だ。比較的小柄で幼げな顔立ちながら、快活で健康的な、剣技を得意とするキャラだった。
私は、このイベントがなんだか知っていた。
そろりそろりと忍び足でその場を離れながら、考える。
(授業のグループワークを、サース様はどれ一つとして参加しなかった。ラザレスにはサース様の行為は自分勝手なものに見えていたけれど、本当は違うのだ。だって、サース様は、クラスメイトに避けられ恐れられていたから)
――『興味がない』そう、口では言いながら、周りに気を使って自分から距離を置いていたのだ。
――だって彼には、人を避けさせる過去があったから。初等部のときに魔力を暴走させて、数人の生徒に怪我を負わせていたのだ。
魔法研究室の扉は、少し開いていた。隙間から中を覗き込むと、サース様は白衣のようなものを着て、ガラス瓶を手に持ち何かを行っていた。
その瞳には、影が見えるような気がした。
まるで忘れたいものを忘れるかのように、研究に集中しているように見えた。
サース様は扉が見える位置に立っていたので、すぐに覗き込む私に気が付き、ふっと柔らかい表情を浮かべた。
どうしてだか分からないけれど。それだけで私はちょっと泣きそうになってしまって、思わず、すごく愛しい気持ちいっぱいに微笑んでしまった。
「……なんだ?」
訝しむように黒い瞳を私に落として彼は言った。
そりゃそうだろう、私は彼にとって、毎日毎日ただの不審者だった。
「……今日も遊びに来ました!」
「遊びに来るような場所でもないが……」
サース様は実験道具を置くと、椅子の上に置かれていた書物をどかしてくれた。
「魔法研究室は、一般の生徒はほとんど近寄ることもない場所だ。絵描きなら、珍しく思うものもあるのだろう。好きに描いていくといい」
あれ、サース様自分が描かれると全く思っていなかったの……?
しかしあなたを描きに来たんです!と公言するのもはばかられるし、言わずに描き続けるのも問題があるしどうしようかな……と思いながら、私はスケッチブックを開いた。
この間描いた絵を数えたら24枚。ただひたすら、サース様を描いていた。どのサース様も、我ながらとてもカッコ良かった。ああああ、カッコイイ。次に持って帰った時には部屋に飾ろうと思う。
でもミューラーが言っていた、3回の願いを叶えるはずになった絵ってこのうちのどれなんだ?と見てみても私には分からなかった。
首をかしげながらスケッチブックを見ていると、鋭い視線を感じた。サース様が真剣な表情で私を見ていた。目が合うと、はっとしたようにサース様は視線を逸らした。
(……私のストーカーぶりを怖がられている!)
理由を理解した私は、慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「……勝手に描いてごめんなさい。怖がらせてごめんなさい。嫌な思いをさせてごめんなさい!」
「……え?」
戸惑ったような声が聞こえ、すぐに「いや……」という否定の言葉が続いた。
「何も嫌な思いをしていない。お前の絵はとても……温かかった。俺を描いているようには見えない」
「はい?」
「まるで愛する人を、愛情いっぱいの目線で描いた、愛ある人の絵だった。それは、俺であって俺ではない。描くお前自身がそういう人間なんだろう」
愛する人とか言った――――!
ストーカーバレどころか本質まで突かれていて私は言い訳のしようもなく頭をぐるぐるとさせていた。
でも一つだけ言いたい。これはサース様だ。
私は歩き進むと、むんず、とサース様の両腕を握りしめ、全身の力を振り絞るようにして言った。
「ギアンさんは、ご存じないんです!これは、ギアンさんそのものなんです」
私の行動に、目を丸くするように、驚きの表情でサース様は私を見下ろしていた。
「真面目な表情が時折くずれて、少し悲しそうな、でもとても優しい表情をするんです。そんな瞬間も逃さないように私はただ描いただけなんです。ああ、でも真面目な表情もとても素敵です。睫毛が伏せられて影が出来た瞬間のその美の集大成のような陰りも神様が生み出した奇跡のようです。だけれど、一番好きなのは、緊張がほぐれた瞬間の、ふっと柔らかな表情をする一瞬です。さっき私を見つけた時にしてくれたあの顔が私はとても好きです」
「――え?」
低い声が体に響くと私は正気を取り戻した。
……え?
私は今なにを言ったっけ?
そう思いながら視線を漂わせ、自分の両手が彼の両腕を力強く握りしめていることに気が付いた。
「きゃああああ」
自分のしていることに自分で悲鳴を上げた。
身を引き、壁際まで飛びのくと、恐る恐るサース様を見上げた。
「……」
片手で顔を半分隠すようにしたサース様が顔を背けていた。
「ご、ごめんなさい……」
もう二度とここには来られないと思いながら、謝罪の言葉を口にした。泣きそうに声を震わせていた私に、慌てるようにサース様が顔を上げた。
「いや……違う。謝る必要はない」
私をじっと見つめたサース様が、ふっと笑った。
「……サースだ。呼び捨てでいい。描きたければ俺のことも描いて行って構わない」
……あれ、そんな話今してたっけ?
不思議な気持ちでサース様を見つめると、サース様も真っすぐに私を見つめてくれて、私たちはしばらく見つめ合っていた。
日が落ちて暗くなったことに気が付くと、サース様が部屋の明かりを点け出した。
「お前は帰らなくていいのか?」
「……大丈夫です」
サース様は実験作業に戻って、もう私の方を振り返らなかった。
私は大人しく椅子に座り、スケッチブックを開いた。
なんだかよく分からないけれど、お許しが出たので描いてもいいのだろう。
私は実験を続けるサース様を見ながら、また一心不乱に絵を描き出した。
描いていると集中して何も考えられなくなった。
ただ、この傷つきやすい不器用な、美しい人が、世界で一番好きだなぁってそんな気持ちだけが胸に沸き起こった。
そんな人を描かせてもらえて、今私は、世界で一番幸せな女の子だなぁと思っていた。
サース様は8時くらいまで研究をしていた。私は家に帰ってから食べられるけれど、寮の夕食の時間を過ぎてしまった後に彼はどうするのだろうかと不思議に思って、明日は夕食を持ち込もうと思った。
(いろいろあって頭から吹っ飛んで完全に忘れていたけど、ラザレス・バーンルートで、このイベントがあった日の夜、高等部に入ってからはじめてサース様が魔力を暴走する事件があったように思ったのだけど、起きなかったから違う日だったのだろうか、と悩んだ日)
2
お気に入りに追加
363
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
王命を忘れた恋
水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
乙女ゲーの王子に転生したけどヒロインはマジでお断りです
きょんきち
恋愛
乙女ゲー好き暴虐姉に使いパシリさせられてトラックに轢かれた弟は気付いたら姉がプレイしていた乙女ゲーの王子に転生していた。
乙女ゲーのヒロインって貴族社会で考えるとありえないよね!悪役令嬢?いやいや言ってる事は貴族として真っ当だから!
あれ?このヒロイン何かおかしくねえ?いやまさかお前!?
お腐れ令嬢は最推し殿下愛されルートを発掘するようです~皆様、私ではなくて最推し殿下を溺愛してください~
風和ふわ
恋愛
「乙女ゲームの主人公がいないなら最推し溺愛(※BL)ルートを作ればいいじゃない!」
神から魔法の力を授かる儀式──戴聖式。
傲慢我儘令嬢と名高いディア・ムーン・ヴィエルジュは父や兄と同じ「氷魔法」を授かる……はずだった!
実際にディアが授かったのは盾や壁を実物化し、自分や他人を守護する魔法──守護魔法だったのだ。
「守護、魔法? それって……障壁……を出したりする魔法……なの? そ、それって──推しと推しを閉じ込めて……観察とか、できちゃうんじゃない!? 二次創作でよく見た、「〇〇しないと出れない部屋」とか作れちゃうんじゃない!? ……え、最高オブ最高かな??」
そこからディアは自分が乙女ゲーム「黎明のリュミエール」の悪役令嬢に転生してしまったことに気づく。
また、同じ年の戴聖式で現れるはずの主人公が現れなかったことも知らされる。
主人公がいなければ、物語にハッピーエンドはない。
「そうだわ、主人公がいないなら最推し溺愛(※BL)ルートを作ればいいじゃない! そして私は頃合いをみて殿下に円満に婚約破棄してもらって、のんびりとオタ活ライフを送るのよ!!」
そうしてディアは最推しであり、この物語のヒロインと並ぶ主人公であるクリスをヒロインに仕立て上げることで、物語をハッピーエンドに導く作戦を考えたのだった……。
***
表紙イラスト:いよ。様(@iyosuke_114)
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
社内恋愛~○と□~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
一年越しの片想いが実り、俺は彼女と付き合い始めたのだけれど。
彼女はなぜか、付き合っていることを秘密にしたがる。
別に社内恋愛は禁止じゃないし、話していいと思うんだが。
それに最近、可愛くなった彼女を狙っている奴もいて苛つく。
そんな中、迎えた慰安旅行で……。
『○と□~丸課長と四角い私~』蔵田課長目線の続編!
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる