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地の底
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やっと会えた――。
目の前には、漆黒の色の人影が立っている。
肌の色は黒く、艶やかな角が生えている。
彼の黒髪が揺れる。赤い宝石のような瞳が私を捉える。
ジェイラス。
彼の持つ全てが、私の心をまるごと持って行ってしまう。
それは闇の中で輝く、唯一の美しいもののように思えた。けれど感情を映さない彼の瞳からは、どこか諦めのようなものを感じる。
「ジェイラス……」
愛しい人の名前を呼んで一歩足を踏み出す。
けれど彼は、立ち上がり後ずさった。
草を踏みしめる音だけが、二人の間に響く。
近づけない彼に、どうしたらいいのだろうかと考える。
「ジェイラス」
「来るな」
彼は苦しそうな表情でそう言った。
「俺に近づくな!」
どうして、と問うまでもなく、彼は自らの体を見下ろしながら静かな口調で言った。
「……堕ちたんだ。俺は望んで、間違いを犯し続けながら、地の底まで身を堕としたんだ」
地の底?
彼はこの場所を、地の底だと言う。
ジェイラスの抱えた想いに胸が痛くなる。
「堕ちてないよ」
たとえ堕ちているのだとしても、それは私も一緒だ。彼が一人堕ちたのではない。
「シオリ……」
ジェイラスが顔を顰めながら声を絞り出す。
「もう……戻れない」
「……どうして?」
「俺の体は、もう、元に戻らない」
「……」
「一緒には生きられない」
どうか分かってくれ……、そうジェイラスは泣きそうな顔をして言う。
「ジェイラス」
「……」
「側に行かせて」
お願い、と懇願しながら足を踏み出しても、彼は後ずさる。
「シオリ」
「うん」
「今までと違うんだ。分かってくれ」
「分からないよ」
「住む世界が違うんだ!俺の身体はもう、完全に闇と同化している。最初の神の意識も……俺の中に繋がっている。人が知りえる限りの、闇の深淵を、この体は知ってしまった。戻る方法などどこにもない……」
最初の神の意識?
闇と同化?
少し会わなかっただけなのに、ジェイラスはゾッとするような響きの言葉を口にする。
訳の分からない彼の台詞に不安が募る。
「シオリ……済まないと思っている。俺は約束を守れなかった。こんな男は見限って、どうか幸せに生きてほしい」
ジェイラスは本当にそんなことを思っているのだろうか。
私の幸せは、彼とともにある。
彼のいない世界での私の幸せを望む彼の言葉に、ただ傷付く。
だけど苦しげに私を見つめる彼が、そう言いながらも、自分自身をも傷付けていることを感じている。
「ジェイラス……」
「来るな……!」
彼が近寄らせてくれないことが悲しい。
悔しくて悲しくて、だけどそうさせたのが自分だと言うことを知っていた。自分が許せない。私が彼を一人にした。唇を噛み締めると涙が浮かぶ。心がぐちゃぐちゃだ。
私はお腹に力を入れて、めいっぱい叫ぶ。
「私ね……!!」
大きな声を出した私に、彼は一瞬びくりとする。
「私怒ってる!怒ってるんだよ!」
すると彼は意外なことに目をまん丸にして私を見つめた。
彼の前でこんな風に怒ったのは初めてだったのかもしれない。
「めちゃくちゃ怒ってる!死ぬほど怒ってる!勝手に出ていったジェイラスを、私、絶対に許さない!」
彼は傷ついたような眼差しを私に向ける。どうして近寄らせてもくれないのにそんな顔をするのだと憤る。
「抱えているものを自分にぶつけて欲しいって言ってたのに!二人で話し合いながら、抱えていこうって言ってたのに!……そう言ったのはジェイラスだったのに……!!約束を破って、酷いよジェイラス……」
ああ、ダメだ。我慢が出来なくて涙が溢れて来てしまう。
するとジェイラスが反射のように一瞬足を前に踏み出し掛けて、止めた。
(ああ……やっぱりジェイラスだ)
優しいジェイラス。
泣いてる私を放っておくことも、突き放すことも出来やしない。
「ジェイラスと結婚したいって言ったよ!同じことを願ってるって言ってくれたよ!」
そう言いながら足を一歩前に踏み出すと、今度は彼は身じろぐことをしなかった。
泣きながら一歩ずつ彼に近づく私をじっと見つめている。
「夫婦になろうって、ジェイラスが言ったんだよ……!」
私はぼろぼろと涙を流しながら、次第に駆け足で彼に近づき、最後には勢いよく彼の胸の中に飛び込んだ。
「ジェイラス……!」
「シオリ……」
両腕で私を受け止めてくれる。広い胸板も、安心する彼の体温も、なにも変わらずそこにあった。
彼の名前を呼びながらしばらく泣き続けていると、彼はその間ずっと私の背中を撫でてくれていた。
「すまない。シオリ……」
彼の低い声が、とても好き。
大好きだって気持ちが広がっていく。
こんなにも私を幸せにしてくれる人は、彼以外にはきっといないんだ。
顔を上げて彼の赤い瞳を見上げると、彼は気まずそうに視線をそらせた。それに気が付いたけど、私はそのまま彼をじっと見つめた。
前から日焼けした肌が浅黒かったけれど、今は黒色の肌に変わっていた。艶やかな髪はそのままに、髪の間からは美しい宝石のように黒色に輝く角が生えていた。
そっとその角へと手を伸ばすと、彼は悲しげに顔を歪めた。指先から角に触れる。想像よりも冷たくて、つるりとしていた。
「……痛い?」
「痛みはない」
「そう。良かった……」
「……」
羽も角も、彼に痛みという苦痛を与えているのではないなら良かった。
私は今度は、彼の背中を覆う黒い羽に触れた。思ったよりも柔らかくて、温かくて気持ちがいい。
(もふ……)
世の中にはそういう属性もあったな、とふと思い出す。
「羽も痛くない?」
「ああ」
「良かった」
「……」
彼が私を傷つけないようにそっと支えてくれていることに気が付いていた。
なぜなら、その手には長く鋭利な黒い爪が伸びているのだ。
少しも傷付けないように、まるで宝物のように、大事に受け止めてくれている。
(ジェイラスは変わらない――)
何一つ変わらず、大好きなジェイラスとしてここにいる。
意思の通じない悪魔なんかじゃなかった。良かったジェイラスだ。そう思ったら、涙が溢れた。
「大好き……ジェイラス」
彼を見上げ、まっすぐに彼の瞳を見つめながら言う。
「ずっと側に居たい。居させて欲しい。私のことが重荷じゃなければ、あなたに付いて行きたい。ジェイラスの側じゃないと……私はこの世界が怖いよ」
だってこの世界は、まるでジェイラス一人に負を背負わせるみたいだ。それに荷担した人間は、なにも知らない人たちだけじゃない。私もそうなのだ。彼が悪魔になるように、なにより私自身が導いてしまった。
「ジェイラスが一人きりになる世界なんて、生きていたくないよ……!」
ぎゅっと彼の手を強く握ると、彼のもう片方の手が優しく添えられる。
「シオリ」
「うん」
「なぜ……」
「うん」
「心からそう思えるんだ?」
ジェイラスの赤い瞳が揺れている。
「俺の姿が分かっているのか」
「うん」
「怖くないのか」
「うん」
「俺と居たら、もう、戻れないんだ」
「私は、ジェイラスの側にしか、いたくないよ」
「なぜ……」
ジェイラスが顔を歪めて言う。
「なぜ、お前は心から、そんなことが言えるんだ!」
どうして彼が好きなだけだと、伝わらないのだろう。
「ジェイラス」
「ああ」
「どうして、一人になろうとしたの?」
「……」
「どうして、私を連れて行ってくれなかったの?どうして、私があなたを好きだって、信じてくれないの!?」
私の中の気持ちも感情も、全て彼に伝わっているはずなのに、何一つ彼は信じてくれない。
「ジェイラスがいてくれるだけでいいの。生きていてくれるだけでいいの。お願い、置いていかないで……」
ボロボロと涙を溢れさせると、ジェイラスが優しく頬に指を寄せる。
「連れて行って……」
「シオリ……」
暗い表情で、俯きながら彼は言った。
「俺の存在は……君にやりたくもない役割を課すことになる」
「え……?」
「いつか、俺を殺してくれと、なによりも大事な君に言わなくてはならなくなるだろう」
「……」
「俺には、それはとても耐えられない」
やっぱりジェイラスはジェイラスなのだ。
「私のためなんだね」
悪魔になった自分を私に殺させないために彼は消えた。
それは、私を泣かせないためだ。私に辛い思いをさせないためだ。
彼はどこまでも、人のことばかり考えている。
(それが、私の世界で一番大好きなジェイラスだ)
ならば私に出来ることはただ一つ。
私のように欲深く、自分のことしか考えていないような人間が、心から思っている真実の想いを彼に伝えればいい!
「ジェイラス……あのね」
「……なんだ?」
こんな時でも優しく労るように、私に返事をしてくれるジェイラス。そんな彼への恋心は常にマックスを振り切っている。いつか私の心は恋情だけで燃え尽きてしまいそうだ。でも出来るならそれは普通に老後に老衰であって欲しいけれど。
「あのね」
「ああ」
「……カッコイイ」
「……は……?」
ジェイラスは言われた言葉の意味が分からないようだ。少し考えるようにしている。
だから私は彼の頬に触れながら、指先からしびれるようにぞくぞくしてくるこの気持ちを丁寧に彼に伝えようと思う。
「黒い肌に赤い瞳のジェイラスはすごくカッコイイ」
「カッコイイ」
あ、意味が分からず思わずオウム返ししちゃってるジェイラスは、かわいい!
「今までだって綺麗で見惚れてしまってたんだけど」
「見惚れる」
「で、でもね」
彼を見上げ言う。
「……悪魔の姿も、すっごく最高にカッコイイ……!イイ……!」
どうしよう今自分が満面の笑みで言っている自信がある。瞳がきらめいているのも間違いない。
「闇色って綺麗なんだね。肌の色も髪の色も、そして翼も角も。全部が美の結晶みたいに、私の心に響いてくる。綺麗でカッコ良くて、大好きで、ドキドキする。ずっと見ていたいし、抱きついていたい。抱きしめて欲しいし、もっといろんなこともしたい。一言で言うと……出来るならそんなあなたのお嫁さんにしてください!」
一世一代のプロポーズだ。
今私は彼に求婚している!
……とはいえ彼にも一度されてるけど……。
今の私は、この場で今すぐにでも嫁にしてくれて構わないという内容を伝えているはずだ。あれ、伝えられてるかな?不安になってきた。
「あの……ジェイラス……?」
「……あ、ああ?」
「前に、出会ったころに、初めて宿屋に泊まったときのこと覚えてる?」
「……宿屋?」
あれは魔の森の麓の、食堂兼宿屋さんでの出来事。
「宿の部屋に鏡が置いてあって、あのとき、記憶をなくしてた私は初めてルシアの姿を見たの」
「ああ……」
鏡に映っていた半裸のジェイラスのことを思い出すだけで頬が熱くなってしまう。
「私ジェイラスに聞いたの。ルシアは人にどんな風に見える外見をしてますかって?」
「覚えている」
あのときジェイラスは答えなかったけど、私は続けて言ったのだ。
「常識的なことは分からないけど、私にはジェイラスがとてもカッコイイ男の人に見えるって言った」
それは私の心からの言葉で、今でも変わらず思っていることだ。
「今の姿のジェイラスも、以前となにも変わらず、すごくすごくカッコイイの!」
「……」
見開かれたままの瞳が私を捉えている。
これは信じてない、と確信した私は、もっと言葉を尽くして語らなければならないと意気込む。
「赤い瞳で見つめられると立って居られないくらいドキドキするし、黒い肌に直接触れていると、麻薬でも打たれたみたいに幸福感が湧き上がって来るし、背中の羽は温かくて気持ちがよくてずっとさわっていたいし」
「……」
「頭の角はさわった瞬間ヒヤっとして、でも温かいジェイラスとの対比がすごくてぞくぞくしてきてまたさわりたくなって」
「……シオリ」
「爪は……ちょっと危ないかもだけど気をつけるし、もしかしたら短く切れるかもしれないし」
「シオリ」
「あの……服の下はどうなってるのかな……むぐぅっ」
まくし立てていた私の口は、彼の唇で塞がれていた。熱い彼の体温をそのままに感じられて、涙が出て来そうな幸福感が広がっていく。
大好き。愛してるのジェイラス。
彼がどう思おうと、社会が彼を受け入れなくても、最終的には、そんなことは私自身には関係がないのだ。
彼の側にいたくて、出来るならば添い遂げたくて、そのための手段がどんな方法になろうとも、その結果耐えがたいものを引き受けることになろうとも、最期まで一緒に居たいのだ。
それが唯一の私の望みだ。
けれど出来るならば……彼と、そして私たちを愛してくれている人たちを悲しませない方法がいいと思う。
それを考えたい、二人で。
長く続く抱擁を、永遠に続けばいいと願ったのだけど、彼はゆっくりと体を離して、私の表情を窺うように顔をのぞき込んできた。
瞳が心配そうに揺れている。
これでいいのかと、触れあっても、望んでもいいのかと、彼の言葉にもならない想いが感じられる気がした。
だって彼はきっと、私を望むことは不幸にすることだと思っているから。
「二人で、一緒に居られる方法を考えよう」
私はそんな彼に言った。
「今度こそ、一人で背負わないで、二人で決めよう。それで上手く行っても行かなくても、受け入れるから」
彼の胸にぎゅっとしがみついて、想いが伝わりますようにと願う。
「最期まで一緒に居たいの。誰よりも優しいジェイラスが、大好き。自分一人で安全に暮らせる場所に居られたとしても、あなたが幸せじゃないと、私は決して幸せにはなれないの……」
彼が息を呑むのを感じた。そして強く強く私を抱きしめる。
「……シオリ」
彼の声が震えている。
不思議に思い少しだけ顔を上げる。
黒色のその頬に、煌めく水晶のような結晶がこぼれ落ちていた。
あまりに美しくて、それが彼の涙だとしばらく気が付かなかった。
宝石がポロポロとこぼれ落ちる。思わず手を伸ばして、すくい上げるようにそれを拾うのだけど、私の両手からこぼれ落ちていく。
「……宿屋で」
「え?」
ジェイラスがぽつりと言った。
「最初の日、俺は思った。女神か精霊に違いないと。君にどんな風に見えるかと聞かれても、人ではないほどに美しいなどとは答えられなかった」
「……ん?」
女神か精霊?
というか。精霊なんかこの世界にいるのだろうか。そっちは本当におとぎ話なのかな。
「男なら誰でも手に入れたいと願うほどに美しい。きっとどんな幸せも願えるだろう。けれど君はただの女で、俺を好いてくれた」
確かに私もルシアは美少女に見えたけど、そこまで思ってた……?
「一番に俺を好きだと、世界よりも俺を取ると、俺の心が好きだと、何度も繰り返し言ってくれた。今も……俺が幸せになれないと自分も幸せになれないと……心からの言葉で言う……」
うなだれる彼の頭を、私はかかえるように抱きしめた。そうしてゆっくりと彼の艶やかな黒髪を撫でる。
「いざ変化してしまうと、もうなにも出来ないと知った。俺に出来ることは消えることだけだった。それが君の幸せを願う俺の、唯一の出来ることだと思った。俺は諦めたんだ。君を望むことも、俺自身の望みを叶えることも」
私は、うん、と言いながら彼の頭を撫でた。
「諦めたんだ……」
彼が苦しみを吐き出すように泣き続ける。
きっとジェイラスの人生は諦めることばかりだったんだろうな、思う。
染み着いたその思考で、当たり前のように私のことも自分のことも諦めたのだ。
(似てるのかな……)
私たちは全然違うと思っていたけど、こんなところはよく似てるなと思う。
だってジェイラスが私に言った。いつも無理してばかりだって。彼だって同じだ。無理して、我慢して、たった一人で耐えて来たのだ。
彼はこんなにも苦しんで、本当は諦めたくなかったのだって、彼の涙が語っていた。
(追いついて良かった……)
ようやく彼の気持ちを受け止めることが出来たんだ。
彼を一人で泣かせなくて、本当に良かった。
そう思うと涙がじわりと浮かぶ。
温かい。大好きな人の体温がここにある。
彼に言葉を伝えられて、彼の気持ちを聞けて、そうして抱きしめ合えている。これ以上に幸福なことなんてない。
(一緒に考えよう)
砂のように消えた黒い石のことを思い出す。
結果がどんなことになろうとも、背負える覚悟を私はとうに持っているのだ。
目の前には、漆黒の色の人影が立っている。
肌の色は黒く、艶やかな角が生えている。
彼の黒髪が揺れる。赤い宝石のような瞳が私を捉える。
ジェイラス。
彼の持つ全てが、私の心をまるごと持って行ってしまう。
それは闇の中で輝く、唯一の美しいもののように思えた。けれど感情を映さない彼の瞳からは、どこか諦めのようなものを感じる。
「ジェイラス……」
愛しい人の名前を呼んで一歩足を踏み出す。
けれど彼は、立ち上がり後ずさった。
草を踏みしめる音だけが、二人の間に響く。
近づけない彼に、どうしたらいいのだろうかと考える。
「ジェイラス」
「来るな」
彼は苦しそうな表情でそう言った。
「俺に近づくな!」
どうして、と問うまでもなく、彼は自らの体を見下ろしながら静かな口調で言った。
「……堕ちたんだ。俺は望んで、間違いを犯し続けながら、地の底まで身を堕としたんだ」
地の底?
彼はこの場所を、地の底だと言う。
ジェイラスの抱えた想いに胸が痛くなる。
「堕ちてないよ」
たとえ堕ちているのだとしても、それは私も一緒だ。彼が一人堕ちたのではない。
「シオリ……」
ジェイラスが顔を顰めながら声を絞り出す。
「もう……戻れない」
「……どうして?」
「俺の体は、もう、元に戻らない」
「……」
「一緒には生きられない」
どうか分かってくれ……、そうジェイラスは泣きそうな顔をして言う。
「ジェイラス」
「……」
「側に行かせて」
お願い、と懇願しながら足を踏み出しても、彼は後ずさる。
「シオリ」
「うん」
「今までと違うんだ。分かってくれ」
「分からないよ」
「住む世界が違うんだ!俺の身体はもう、完全に闇と同化している。最初の神の意識も……俺の中に繋がっている。人が知りえる限りの、闇の深淵を、この体は知ってしまった。戻る方法などどこにもない……」
最初の神の意識?
闇と同化?
少し会わなかっただけなのに、ジェイラスはゾッとするような響きの言葉を口にする。
訳の分からない彼の台詞に不安が募る。
「シオリ……済まないと思っている。俺は約束を守れなかった。こんな男は見限って、どうか幸せに生きてほしい」
ジェイラスは本当にそんなことを思っているのだろうか。
私の幸せは、彼とともにある。
彼のいない世界での私の幸せを望む彼の言葉に、ただ傷付く。
だけど苦しげに私を見つめる彼が、そう言いながらも、自分自身をも傷付けていることを感じている。
「ジェイラス……」
「来るな……!」
彼が近寄らせてくれないことが悲しい。
悔しくて悲しくて、だけどそうさせたのが自分だと言うことを知っていた。自分が許せない。私が彼を一人にした。唇を噛み締めると涙が浮かぶ。心がぐちゃぐちゃだ。
私はお腹に力を入れて、めいっぱい叫ぶ。
「私ね……!!」
大きな声を出した私に、彼は一瞬びくりとする。
「私怒ってる!怒ってるんだよ!」
すると彼は意外なことに目をまん丸にして私を見つめた。
彼の前でこんな風に怒ったのは初めてだったのかもしれない。
「めちゃくちゃ怒ってる!死ぬほど怒ってる!勝手に出ていったジェイラスを、私、絶対に許さない!」
彼は傷ついたような眼差しを私に向ける。どうして近寄らせてもくれないのにそんな顔をするのだと憤る。
「抱えているものを自分にぶつけて欲しいって言ってたのに!二人で話し合いながら、抱えていこうって言ってたのに!……そう言ったのはジェイラスだったのに……!!約束を破って、酷いよジェイラス……」
ああ、ダメだ。我慢が出来なくて涙が溢れて来てしまう。
するとジェイラスが反射のように一瞬足を前に踏み出し掛けて、止めた。
(ああ……やっぱりジェイラスだ)
優しいジェイラス。
泣いてる私を放っておくことも、突き放すことも出来やしない。
「ジェイラスと結婚したいって言ったよ!同じことを願ってるって言ってくれたよ!」
そう言いながら足を一歩前に踏み出すと、今度は彼は身じろぐことをしなかった。
泣きながら一歩ずつ彼に近づく私をじっと見つめている。
「夫婦になろうって、ジェイラスが言ったんだよ……!」
私はぼろぼろと涙を流しながら、次第に駆け足で彼に近づき、最後には勢いよく彼の胸の中に飛び込んだ。
「ジェイラス……!」
「シオリ……」
両腕で私を受け止めてくれる。広い胸板も、安心する彼の体温も、なにも変わらずそこにあった。
彼の名前を呼びながらしばらく泣き続けていると、彼はその間ずっと私の背中を撫でてくれていた。
「すまない。シオリ……」
彼の低い声が、とても好き。
大好きだって気持ちが広がっていく。
こんなにも私を幸せにしてくれる人は、彼以外にはきっといないんだ。
顔を上げて彼の赤い瞳を見上げると、彼は気まずそうに視線をそらせた。それに気が付いたけど、私はそのまま彼をじっと見つめた。
前から日焼けした肌が浅黒かったけれど、今は黒色の肌に変わっていた。艶やかな髪はそのままに、髪の間からは美しい宝石のように黒色に輝く角が生えていた。
そっとその角へと手を伸ばすと、彼は悲しげに顔を歪めた。指先から角に触れる。想像よりも冷たくて、つるりとしていた。
「……痛い?」
「痛みはない」
「そう。良かった……」
「……」
羽も角も、彼に痛みという苦痛を与えているのではないなら良かった。
私は今度は、彼の背中を覆う黒い羽に触れた。思ったよりも柔らかくて、温かくて気持ちがいい。
(もふ……)
世の中にはそういう属性もあったな、とふと思い出す。
「羽も痛くない?」
「ああ」
「良かった」
「……」
彼が私を傷つけないようにそっと支えてくれていることに気が付いていた。
なぜなら、その手には長く鋭利な黒い爪が伸びているのだ。
少しも傷付けないように、まるで宝物のように、大事に受け止めてくれている。
(ジェイラスは変わらない――)
何一つ変わらず、大好きなジェイラスとしてここにいる。
意思の通じない悪魔なんかじゃなかった。良かったジェイラスだ。そう思ったら、涙が溢れた。
「大好き……ジェイラス」
彼を見上げ、まっすぐに彼の瞳を見つめながら言う。
「ずっと側に居たい。居させて欲しい。私のことが重荷じゃなければ、あなたに付いて行きたい。ジェイラスの側じゃないと……私はこの世界が怖いよ」
だってこの世界は、まるでジェイラス一人に負を背負わせるみたいだ。それに荷担した人間は、なにも知らない人たちだけじゃない。私もそうなのだ。彼が悪魔になるように、なにより私自身が導いてしまった。
「ジェイラスが一人きりになる世界なんて、生きていたくないよ……!」
ぎゅっと彼の手を強く握ると、彼のもう片方の手が優しく添えられる。
「シオリ」
「うん」
「なぜ……」
「うん」
「心からそう思えるんだ?」
ジェイラスの赤い瞳が揺れている。
「俺の姿が分かっているのか」
「うん」
「怖くないのか」
「うん」
「俺と居たら、もう、戻れないんだ」
「私は、ジェイラスの側にしか、いたくないよ」
「なぜ……」
ジェイラスが顔を歪めて言う。
「なぜ、お前は心から、そんなことが言えるんだ!」
どうして彼が好きなだけだと、伝わらないのだろう。
「ジェイラス」
「ああ」
「どうして、一人になろうとしたの?」
「……」
「どうして、私を連れて行ってくれなかったの?どうして、私があなたを好きだって、信じてくれないの!?」
私の中の気持ちも感情も、全て彼に伝わっているはずなのに、何一つ彼は信じてくれない。
「ジェイラスがいてくれるだけでいいの。生きていてくれるだけでいいの。お願い、置いていかないで……」
ボロボロと涙を溢れさせると、ジェイラスが優しく頬に指を寄せる。
「連れて行って……」
「シオリ……」
暗い表情で、俯きながら彼は言った。
「俺の存在は……君にやりたくもない役割を課すことになる」
「え……?」
「いつか、俺を殺してくれと、なによりも大事な君に言わなくてはならなくなるだろう」
「……」
「俺には、それはとても耐えられない」
やっぱりジェイラスはジェイラスなのだ。
「私のためなんだね」
悪魔になった自分を私に殺させないために彼は消えた。
それは、私を泣かせないためだ。私に辛い思いをさせないためだ。
彼はどこまでも、人のことばかり考えている。
(それが、私の世界で一番大好きなジェイラスだ)
ならば私に出来ることはただ一つ。
私のように欲深く、自分のことしか考えていないような人間が、心から思っている真実の想いを彼に伝えればいい!
「ジェイラス……あのね」
「……なんだ?」
こんな時でも優しく労るように、私に返事をしてくれるジェイラス。そんな彼への恋心は常にマックスを振り切っている。いつか私の心は恋情だけで燃え尽きてしまいそうだ。でも出来るならそれは普通に老後に老衰であって欲しいけれど。
「あのね」
「ああ」
「……カッコイイ」
「……は……?」
ジェイラスは言われた言葉の意味が分からないようだ。少し考えるようにしている。
だから私は彼の頬に触れながら、指先からしびれるようにぞくぞくしてくるこの気持ちを丁寧に彼に伝えようと思う。
「黒い肌に赤い瞳のジェイラスはすごくカッコイイ」
「カッコイイ」
あ、意味が分からず思わずオウム返ししちゃってるジェイラスは、かわいい!
「今までだって綺麗で見惚れてしまってたんだけど」
「見惚れる」
「で、でもね」
彼を見上げ言う。
「……悪魔の姿も、すっごく最高にカッコイイ……!イイ……!」
どうしよう今自分が満面の笑みで言っている自信がある。瞳がきらめいているのも間違いない。
「闇色って綺麗なんだね。肌の色も髪の色も、そして翼も角も。全部が美の結晶みたいに、私の心に響いてくる。綺麗でカッコ良くて、大好きで、ドキドキする。ずっと見ていたいし、抱きついていたい。抱きしめて欲しいし、もっといろんなこともしたい。一言で言うと……出来るならそんなあなたのお嫁さんにしてください!」
一世一代のプロポーズだ。
今私は彼に求婚している!
……とはいえ彼にも一度されてるけど……。
今の私は、この場で今すぐにでも嫁にしてくれて構わないという内容を伝えているはずだ。あれ、伝えられてるかな?不安になってきた。
「あの……ジェイラス……?」
「……あ、ああ?」
「前に、出会ったころに、初めて宿屋に泊まったときのこと覚えてる?」
「……宿屋?」
あれは魔の森の麓の、食堂兼宿屋さんでの出来事。
「宿の部屋に鏡が置いてあって、あのとき、記憶をなくしてた私は初めてルシアの姿を見たの」
「ああ……」
鏡に映っていた半裸のジェイラスのことを思い出すだけで頬が熱くなってしまう。
「私ジェイラスに聞いたの。ルシアは人にどんな風に見える外見をしてますかって?」
「覚えている」
あのときジェイラスは答えなかったけど、私は続けて言ったのだ。
「常識的なことは分からないけど、私にはジェイラスがとてもカッコイイ男の人に見えるって言った」
それは私の心からの言葉で、今でも変わらず思っていることだ。
「今の姿のジェイラスも、以前となにも変わらず、すごくすごくカッコイイの!」
「……」
見開かれたままの瞳が私を捉えている。
これは信じてない、と確信した私は、もっと言葉を尽くして語らなければならないと意気込む。
「赤い瞳で見つめられると立って居られないくらいドキドキするし、黒い肌に直接触れていると、麻薬でも打たれたみたいに幸福感が湧き上がって来るし、背中の羽は温かくて気持ちがよくてずっとさわっていたいし」
「……」
「頭の角はさわった瞬間ヒヤっとして、でも温かいジェイラスとの対比がすごくてぞくぞくしてきてまたさわりたくなって」
「……シオリ」
「爪は……ちょっと危ないかもだけど気をつけるし、もしかしたら短く切れるかもしれないし」
「シオリ」
「あの……服の下はどうなってるのかな……むぐぅっ」
まくし立てていた私の口は、彼の唇で塞がれていた。熱い彼の体温をそのままに感じられて、涙が出て来そうな幸福感が広がっていく。
大好き。愛してるのジェイラス。
彼がどう思おうと、社会が彼を受け入れなくても、最終的には、そんなことは私自身には関係がないのだ。
彼の側にいたくて、出来るならば添い遂げたくて、そのための手段がどんな方法になろうとも、その結果耐えがたいものを引き受けることになろうとも、最期まで一緒に居たいのだ。
それが唯一の私の望みだ。
けれど出来るならば……彼と、そして私たちを愛してくれている人たちを悲しませない方法がいいと思う。
それを考えたい、二人で。
長く続く抱擁を、永遠に続けばいいと願ったのだけど、彼はゆっくりと体を離して、私の表情を窺うように顔をのぞき込んできた。
瞳が心配そうに揺れている。
これでいいのかと、触れあっても、望んでもいいのかと、彼の言葉にもならない想いが感じられる気がした。
だって彼はきっと、私を望むことは不幸にすることだと思っているから。
「二人で、一緒に居られる方法を考えよう」
私はそんな彼に言った。
「今度こそ、一人で背負わないで、二人で決めよう。それで上手く行っても行かなくても、受け入れるから」
彼の胸にぎゅっとしがみついて、想いが伝わりますようにと願う。
「最期まで一緒に居たいの。誰よりも優しいジェイラスが、大好き。自分一人で安全に暮らせる場所に居られたとしても、あなたが幸せじゃないと、私は決して幸せにはなれないの……」
彼が息を呑むのを感じた。そして強く強く私を抱きしめる。
「……シオリ」
彼の声が震えている。
不思議に思い少しだけ顔を上げる。
黒色のその頬に、煌めく水晶のような結晶がこぼれ落ちていた。
あまりに美しくて、それが彼の涙だとしばらく気が付かなかった。
宝石がポロポロとこぼれ落ちる。思わず手を伸ばして、すくい上げるようにそれを拾うのだけど、私の両手からこぼれ落ちていく。
「……宿屋で」
「え?」
ジェイラスがぽつりと言った。
「最初の日、俺は思った。女神か精霊に違いないと。君にどんな風に見えるかと聞かれても、人ではないほどに美しいなどとは答えられなかった」
「……ん?」
女神か精霊?
というか。精霊なんかこの世界にいるのだろうか。そっちは本当におとぎ話なのかな。
「男なら誰でも手に入れたいと願うほどに美しい。きっとどんな幸せも願えるだろう。けれど君はただの女で、俺を好いてくれた」
確かに私もルシアは美少女に見えたけど、そこまで思ってた……?
「一番に俺を好きだと、世界よりも俺を取ると、俺の心が好きだと、何度も繰り返し言ってくれた。今も……俺が幸せになれないと自分も幸せになれないと……心からの言葉で言う……」
うなだれる彼の頭を、私はかかえるように抱きしめた。そうしてゆっくりと彼の艶やかな黒髪を撫でる。
「いざ変化してしまうと、もうなにも出来ないと知った。俺に出来ることは消えることだけだった。それが君の幸せを願う俺の、唯一の出来ることだと思った。俺は諦めたんだ。君を望むことも、俺自身の望みを叶えることも」
私は、うん、と言いながら彼の頭を撫でた。
「諦めたんだ……」
彼が苦しみを吐き出すように泣き続ける。
きっとジェイラスの人生は諦めることばかりだったんだろうな、思う。
染み着いたその思考で、当たり前のように私のことも自分のことも諦めたのだ。
(似てるのかな……)
私たちは全然違うと思っていたけど、こんなところはよく似てるなと思う。
だってジェイラスが私に言った。いつも無理してばかりだって。彼だって同じだ。無理して、我慢して、たった一人で耐えて来たのだ。
彼はこんなにも苦しんで、本当は諦めたくなかったのだって、彼の涙が語っていた。
(追いついて良かった……)
ようやく彼の気持ちを受け止めることが出来たんだ。
彼を一人で泣かせなくて、本当に良かった。
そう思うと涙がじわりと浮かぶ。
温かい。大好きな人の体温がここにある。
彼に言葉を伝えられて、彼の気持ちを聞けて、そうして抱きしめ合えている。これ以上に幸福なことなんてない。
(一緒に考えよう)
砂のように消えた黒い石のことを思い出す。
結果がどんなことになろうとも、背負える覚悟を私はとうに持っているのだ。
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