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創始の村へ

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「創始の村に行ってみたいんだ」

 ジェイラスが言った。

 翌日の昼間、研究所のお父様の部屋に皆で集まっていた。
 リオンくんやグレタさん、リュードさんもいる。

 リオンくんたちにも、研究所の本当の目的を簡単に説明してあるんだってお父様は言っていた。
 そして今日、ジェイラスは自分から創始の村で育ったことを皆に話すと、最後にそう言った。

「なぜですか?」

 リオンくんが聞く。

「幼い頃の記憶は朧げで、覚えていないことも多い。廃村になっていたとしても、何か思い出せるかもしれない」
「一緒に行くよ、ジェイラス……」

 彼は昔のことを思い出すと不安定になる。そんなところに一人でなんて行かせられない。

「私の部下も護衛に付けよう」

 お父様が言った。

「いえ、僕らが行きます」

 リオンくんが顔を上げて言う。

「いいよね?グレタ、リュードさん」

 グレタさんとリュードさんが頷いた。

「ジェイラス、一人で抱えさせません。私たちも連れて行ってください」

 リオンくんがジェイラスを見上げて言うと、ジェイラスは少し戸惑うように私をみた。

 ん?なんだろ?

「良いのだろうか?」

 ジェイラスは、人からの好意にまるで慣れない。

 リオンくんはとても大人びた子だけど、ジェイラスに向ける感情は、子供が真っ直ぐに向けてくる、とても純粋なものだ。

 ジェイラスが戸惑ってもおかしくないのかも。

「……うん!ご迷惑にならなければ……有難いと思うよ」
「なら、同行を頼みたい」

 彼の返事にリオンくんが満面の笑みを浮かべる。

 そうして、再度旅支度を整えた私たちは、創始の村に向かうことになった。

 ここリンメルから魔の森を経て、セルズに入ったらすぐ近くに創始の村はあるらしい。

「人のいない、集落の跡地が残されているだけの場所だ。最近も確認に行ったが変わった様子はなかった」

 お父様は別れ際にそう言っていた。

「また戻ってきます」

 私は最後にお父様に伝えた。
 私の中のルシアが呼びかけに答えなくなったけれど、まだ、ここにいる。彼女がいる限り、お父様の近くに居たいと思う。

「無理はするな」
「はい」

 抱きしめてくれる腕が温かかった。
 どうして私は、お父様に抱きしめられると、私自身が癒やされて行くような気持ちになれるのだろう。










 旅の途中、馬車に揺られていると、またリュードさんがムードメーカーのようにいろんな話をしてくれていた。

 慣れて来ているのか、ジェイラスも普通に受け答えしている。

「そろそろ酒が呑みてーなぁ」
「呑めばいいじゃないですか。クロードさんも用意してくださってましたよ」
「一人で呑んでも美味しくねーんだよ」
「俺は呑まない」
「私もちょっと……」

 グレタさんも呑まないらしい。

「じゃあ嬢ちゃんは?」

 え、私!?

 私……呑めるの?

「お酒っていくつから呑めるんです?」
「いくつもなにもねえよ、子供も呑んでるよ」

 え、大丈夫!?法律どうなってるの?

「の、呑もうかな……?」

 だって前世でも成人前に亡くなってしまった。お酒呑んでみたい。

「そーかそーか、じゃあリオンとこ戻ったら、酒盛りだな」

 リュードさんは機嫌良さそうに、ガハハと笑った。
 リオンくんが止めに入らないところを見ると本当に法律ないのかな。

 最近思うのだけど、リュードさんはすごく普通の人なんだ。
 怒ったり、笑ったり、全部がすごく自然で、ダメなところも普通にあったり、良い人なところもあったり。

 一緒にいると、普通の人の感覚が、すごくほっとする。

 だからリュードさんが、悪魔の証のことでジェイラスに絡んできたことも今は普通に思えるし、全部知っているのに仲良くしてくれているのも、彼の性格的には自然に思えて……とても嬉しかった。

 たぶん一緒にお酒を呑んだら楽しい人だ。

「シオリ……」

 ジェイラスが心配そうに私を覗き込む。

「ジェイラスも一緒に呑もうね」
「……ああ」

 そういえばジェイラスが嗜好品を嗜んでいる姿を見たことがないな、と思う。彼はいつも何事にもストイックな感じなのだ。







 数日旅をして、森を抜けると創始の村のある場所にたどり着いた。

 たくさん並んだ古屋は、手入れがされておらず蔦が生えている。
 壊れた扉が、風に揺れてぎぃぎぃと音を立てる。

 それでも、森に囲まれた集落の跡地は、明るい日差しの降り注ぐ普通の村のように見える場所だった。

 小さな子供を監禁していた場所には思えない。特殊な宗教の人たちがいたようにも思えない。

 祭壇とか、教会とか、そう言ったものが見当たらないからかな?

 そんなことを思っていると、ジェイラスがどんどんと足を早めて歩いて行く。

 私たちは慌てて彼の後を追った。

 村の中心の広場のような場所で、彼はしゃがみ込むと地面に手を付いた。

 そうして顔を伏せながら、吐き出すような声で言った。

「ラミアン……!!」

 それは彼を育てた魔法使いの名前だった。







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今月中に終わらせたかったんです……TT(今日3回目更新)
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