49 / 68
創始の村へ
しおりを挟む
「創始の村に行ってみたいんだ」
ジェイラスが言った。
翌日の昼間、研究所のお父様の部屋に皆で集まっていた。
リオンくんやグレタさん、リュードさんもいる。
リオンくんたちにも、研究所の本当の目的を簡単に説明してあるんだってお父様は言っていた。
そして今日、ジェイラスは自分から創始の村で育ったことを皆に話すと、最後にそう言った。
「なぜですか?」
リオンくんが聞く。
「幼い頃の記憶は朧げで、覚えていないことも多い。廃村になっていたとしても、何か思い出せるかもしれない」
「一緒に行くよ、ジェイラス……」
彼は昔のことを思い出すと不安定になる。そんなところに一人でなんて行かせられない。
「私の部下も護衛に付けよう」
お父様が言った。
「いえ、僕らが行きます」
リオンくんが顔を上げて言う。
「いいよね?グレタ、リュードさん」
グレタさんとリュードさんが頷いた。
「ジェイラス、一人で抱えさせません。私たちも連れて行ってください」
リオンくんがジェイラスを見上げて言うと、ジェイラスは少し戸惑うように私をみた。
ん?なんだろ?
「良いのだろうか?」
ジェイラスは、人からの好意にまるで慣れない。
リオンくんはとても大人びた子だけど、ジェイラスに向ける感情は、子供が真っ直ぐに向けてくる、とても純粋なものだ。
ジェイラスが戸惑ってもおかしくないのかも。
「……うん!ご迷惑にならなければ……有難いと思うよ」
「なら、同行を頼みたい」
彼の返事にリオンくんが満面の笑みを浮かべる。
そうして、再度旅支度を整えた私たちは、創始の村に向かうことになった。
ここリンメルから魔の森を経て、セルズに入ったらすぐ近くに創始の村はあるらしい。
「人のいない、集落の跡地が残されているだけの場所だ。最近も確認に行ったが変わった様子はなかった」
お父様は別れ際にそう言っていた。
「また戻ってきます」
私は最後にお父様に伝えた。
私の中のルシアが呼びかけに答えなくなったけれど、まだ、ここにいる。彼女がいる限り、お父様の近くに居たいと思う。
「無理はするな」
「はい」
抱きしめてくれる腕が温かかった。
どうして私は、お父様に抱きしめられると、私自身が癒やされて行くような気持ちになれるのだろう。
旅の途中、馬車に揺られていると、またリュードさんがムードメーカーのようにいろんな話をしてくれていた。
慣れて来ているのか、ジェイラスも普通に受け答えしている。
「そろそろ酒が呑みてーなぁ」
「呑めばいいじゃないですか。クロードさんも用意してくださってましたよ」
「一人で呑んでも美味しくねーんだよ」
「俺は呑まない」
「私もちょっと……」
グレタさんも呑まないらしい。
「じゃあ嬢ちゃんは?」
え、私!?
私……呑めるの?
「お酒っていくつから呑めるんです?」
「いくつもなにもねえよ、子供も呑んでるよ」
え、大丈夫!?法律どうなってるの?
「の、呑もうかな……?」
だって前世でも成人前に亡くなってしまった。お酒呑んでみたい。
「そーかそーか、じゃあリオンとこ戻ったら、酒盛りだな」
リュードさんは機嫌良さそうに、ガハハと笑った。
リオンくんが止めに入らないところを見ると本当に法律ないのかな。
最近思うのだけど、リュードさんはすごく普通の人なんだ。
怒ったり、笑ったり、全部がすごく自然で、ダメなところも普通にあったり、良い人なところもあったり。
一緒にいると、普通の人の感覚が、すごくほっとする。
だからリュードさんが、悪魔の証のことでジェイラスに絡んできたことも今は普通に思えるし、全部知っているのに仲良くしてくれているのも、彼の性格的には自然に思えて……とても嬉しかった。
たぶん一緒にお酒を呑んだら楽しい人だ。
「シオリ……」
ジェイラスが心配そうに私を覗き込む。
「ジェイラスも一緒に呑もうね」
「……ああ」
そういえばジェイラスが嗜好品を嗜んでいる姿を見たことがないな、と思う。彼はいつも何事にもストイックな感じなのだ。
数日旅をして、森を抜けると創始の村のある場所にたどり着いた。
たくさん並んだ古屋は、手入れがされておらず蔦が生えている。
壊れた扉が、風に揺れてぎぃぎぃと音を立てる。
それでも、森に囲まれた集落の跡地は、明るい日差しの降り注ぐ普通の村のように見える場所だった。
小さな子供を監禁していた場所には思えない。特殊な宗教の人たちがいたようにも思えない。
祭壇とか、教会とか、そう言ったものが見当たらないからかな?
そんなことを思っていると、ジェイラスがどんどんと足を早めて歩いて行く。
私たちは慌てて彼の後を追った。
村の中心の広場のような場所で、彼はしゃがみ込むと地面に手を付いた。
そうして顔を伏せながら、吐き出すような声で言った。
「ラミアン……!!」
それは彼を育てた魔法使いの名前だった。
-----
今月中に終わらせたかったんです……TT(今日3回目更新)
ジェイラスが言った。
翌日の昼間、研究所のお父様の部屋に皆で集まっていた。
リオンくんやグレタさん、リュードさんもいる。
リオンくんたちにも、研究所の本当の目的を簡単に説明してあるんだってお父様は言っていた。
そして今日、ジェイラスは自分から創始の村で育ったことを皆に話すと、最後にそう言った。
「なぜですか?」
リオンくんが聞く。
「幼い頃の記憶は朧げで、覚えていないことも多い。廃村になっていたとしても、何か思い出せるかもしれない」
「一緒に行くよ、ジェイラス……」
彼は昔のことを思い出すと不安定になる。そんなところに一人でなんて行かせられない。
「私の部下も護衛に付けよう」
お父様が言った。
「いえ、僕らが行きます」
リオンくんが顔を上げて言う。
「いいよね?グレタ、リュードさん」
グレタさんとリュードさんが頷いた。
「ジェイラス、一人で抱えさせません。私たちも連れて行ってください」
リオンくんがジェイラスを見上げて言うと、ジェイラスは少し戸惑うように私をみた。
ん?なんだろ?
「良いのだろうか?」
ジェイラスは、人からの好意にまるで慣れない。
リオンくんはとても大人びた子だけど、ジェイラスに向ける感情は、子供が真っ直ぐに向けてくる、とても純粋なものだ。
ジェイラスが戸惑ってもおかしくないのかも。
「……うん!ご迷惑にならなければ……有難いと思うよ」
「なら、同行を頼みたい」
彼の返事にリオンくんが満面の笑みを浮かべる。
そうして、再度旅支度を整えた私たちは、創始の村に向かうことになった。
ここリンメルから魔の森を経て、セルズに入ったらすぐ近くに創始の村はあるらしい。
「人のいない、集落の跡地が残されているだけの場所だ。最近も確認に行ったが変わった様子はなかった」
お父様は別れ際にそう言っていた。
「また戻ってきます」
私は最後にお父様に伝えた。
私の中のルシアが呼びかけに答えなくなったけれど、まだ、ここにいる。彼女がいる限り、お父様の近くに居たいと思う。
「無理はするな」
「はい」
抱きしめてくれる腕が温かかった。
どうして私は、お父様に抱きしめられると、私自身が癒やされて行くような気持ちになれるのだろう。
旅の途中、馬車に揺られていると、またリュードさんがムードメーカーのようにいろんな話をしてくれていた。
慣れて来ているのか、ジェイラスも普通に受け答えしている。
「そろそろ酒が呑みてーなぁ」
「呑めばいいじゃないですか。クロードさんも用意してくださってましたよ」
「一人で呑んでも美味しくねーんだよ」
「俺は呑まない」
「私もちょっと……」
グレタさんも呑まないらしい。
「じゃあ嬢ちゃんは?」
え、私!?
私……呑めるの?
「お酒っていくつから呑めるんです?」
「いくつもなにもねえよ、子供も呑んでるよ」
え、大丈夫!?法律どうなってるの?
「の、呑もうかな……?」
だって前世でも成人前に亡くなってしまった。お酒呑んでみたい。
「そーかそーか、じゃあリオンとこ戻ったら、酒盛りだな」
リュードさんは機嫌良さそうに、ガハハと笑った。
リオンくんが止めに入らないところを見ると本当に法律ないのかな。
最近思うのだけど、リュードさんはすごく普通の人なんだ。
怒ったり、笑ったり、全部がすごく自然で、ダメなところも普通にあったり、良い人なところもあったり。
一緒にいると、普通の人の感覚が、すごくほっとする。
だからリュードさんが、悪魔の証のことでジェイラスに絡んできたことも今は普通に思えるし、全部知っているのに仲良くしてくれているのも、彼の性格的には自然に思えて……とても嬉しかった。
たぶん一緒にお酒を呑んだら楽しい人だ。
「シオリ……」
ジェイラスが心配そうに私を覗き込む。
「ジェイラスも一緒に呑もうね」
「……ああ」
そういえばジェイラスが嗜好品を嗜んでいる姿を見たことがないな、と思う。彼はいつも何事にもストイックな感じなのだ。
数日旅をして、森を抜けると創始の村のある場所にたどり着いた。
たくさん並んだ古屋は、手入れがされておらず蔦が生えている。
壊れた扉が、風に揺れてぎぃぎぃと音を立てる。
それでも、森に囲まれた集落の跡地は、明るい日差しの降り注ぐ普通の村のように見える場所だった。
小さな子供を監禁していた場所には思えない。特殊な宗教の人たちがいたようにも思えない。
祭壇とか、教会とか、そう言ったものが見当たらないからかな?
そんなことを思っていると、ジェイラスがどんどんと足を早めて歩いて行く。
私たちは慌てて彼の後を追った。
村の中心の広場のような場所で、彼はしゃがみ込むと地面に手を付いた。
そうして顔を伏せながら、吐き出すような声で言った。
「ラミアン……!!」
それは彼を育てた魔法使いの名前だった。
-----
今月中に終わらせたかったんです……TT(今日3回目更新)
0
お気に入りに追加
758
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる