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月人side
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しおりを挟む月日は巡る。
俺が再び就職し、彼女の勉強がひと段落した頃、俺たちは入籍した。ささやかな結婚式には、彼女の家族、友人、そして飯村夫妻と俺の友人も来てくれた。
女の子が生まれた。
すると彼女は言った。
月人のお母さんの名前は?と。
母親もまた、魔法で記憶を薄れさせられていた人だ。向こうで付けられた名前しか持たなかった。
名前は分からないというと、どんな人なのか聞きたがった。けれど俺自身も大したことは知らなかった。母親のことも、その血縁者も探しようがなかった。
「いつも春になると、息が吸えるような気持ちになれると言っていた。花が好きだった。笑顔で花の香りを嗅ぐ、そんな人だった」
生まれた子供は、二人で相談し、桜と名付けた。
翌年には、柊が、3年後には葵が生まれた。
子供たちは、月を見上げる母親の姿を見て育ったせいか、月や星空を見上げることがとても好きだった。
休日にはプラネタリウムや、ベランダでの天体観測、時にはキャンプに行き、満点の夜空を見上げた。
無邪気な瞳で空を見上げる子供たちの横で、俺はいつも彼女の様子を窺っていた。心の奥底にしまい込まれているはずの深い哀しみを、彼女はもう表には出さない。けれど消えているはずもない。彼女の表情に翳りがないか、俺はずっと気にしていた。
彼女は俺の視線に気付くといつも笑顔を浮かべる。
「幸せだね」
「俺もだよ」
それは何度も交わしている俺たちの会話。
その度に俺は母の台詞を思い出す。
『月人も幸せなら、お母さんはもっと嬉しい。いつかお母さんが居なくなっても、あなたが幸せでいてくれたら、お母さんも幸せなんだって、忘れないでね』
けれど――お母さん。
俺は、あなたにも幸せになってもらいたかった。
叶わぬ願いは、祈りに代わる。
月に星に。俺に彼女に。
どうかあの人に言葉を届けてほしいと。
『俺は、幸せです』と――。
俺の手を彼女が握る。
「月人……あのね」
今日は少し違った。
彼女は、今まで言わなかった台詞を続けた。
「私分かったよ」
「うん?」
彼女は笑顔で言う。
「色んなことがあったのに、でも、ちゃんと、綺麗だって感じられる」
「……うん」
「それってすごく幸せ」
まるでね、と彼女は続ける。
「心が綺麗でいられるような気がして……でも心の中はそんなものばかりじゃないって、もちろん分かってるんだけど、それでも嬉しくて、泣きそうになっちゃって……だから思わず言っちゃうんだね」
「何を?」
「あのね、月人」
彼女は少しだけ頬を朱に染める。
――月が、綺麗ですね。
月は何も語らずに、俺たちを見下ろしていた。
END
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とても素敵な物語でした。久しぶりに子供の頃に童話を読んでワクワク、ドキドキした気持ちを思い出しました。
きらさびさん
とても素敵な感想をありがとうございました。
また久しぶりに読んで下さった方がいたのもとても嬉しかったです(^^)
長く何も書けてなかったんですけど、また何か書いてみたいなって思えます。
こんなに美しいな「月がきれいですね」を初めて見ました。
喜びも悲しみも全部まるごと受け止めて今がある、そんな台詞ですね
!
全体的にしっとりとして美雨ちゃんサイドは雨かしとしと降るような、月人くんサイドは雪がしんしんと静かに積もっていく雰囲気がすごく好きです。
完結お疲れさまでした、素敵な話を読ませていただきたいてありがとうございました。
素敵な感想をありがとうございました。
雨がしとしと降るような、雪がしんしんと静かに積もって行くような、というこちらこそ素敵な表現をしてもらえて嬉しかったです。喜びも悲しみも全て受け止めて今がある、と受け止めてもらえたセリフも嬉しかったです。
読んで頂けただけでなく、作者を嬉しくさせてくれる素敵な感想をありがとうございました!
とても素敵な物語でした。
泣きました。
ありがとうございます。
こちらこそ素敵な感想をありがとうございました!
泣いて頂けたんですね。光栄です。
またそれを伝えてくださったことがとても嬉しいです。
なかなか聞けないのですが……どんな場面で泣けたんだろうな、と気になって聞いてみたくなります。
読んでくださって素敵な感想をありがとうございました!