3 / 32
聖女side
3
しおりを挟む16歳になると、逃げる以外で初めて神殿の敷地を出る機会がやってきた。
「慰問……ですか?」
「そうです。皆が聖女様のお姿を一目見たいと思っております。これからは聖女様の優しさを伝える機会を作って行きたいと思います」
自分は軟禁されているのだと思っていた。
けれどそれは幼い年齢故だったのか、16歳からは外的活動もしていくのだという。
馬車に乗り町の小さな教会にたどり着く。
けれど聖女の姿を待ち望んでいる人は誰もおらず、着いた早々に子供たちに大泣きされた。
「うわ~怖いよ~~!」
「黒いー」
「怖いよー!!」
「わーーーおばけーーー!!」
ここは教会に隣接された孤児院なのだと言う。
何が起きたか分からず呆然としていたけれど、子供達のその素直な言葉から状況を少しだけ把握する。
――黒髪黒目が怖いのだ。
そう言えば神殿に来てから、黒髪の人に出会ったことがない。もしかしたらこの場所には、きっと存在しない色なのだ。
結局その日は孤児院に訪問しただけで、何も出来ずに帰らされた。
後日別の孤児院に連れて行かれたが、また同じように大泣きされた。
私を見つめる教会の神官たちからも、怯えのような視線を感じていた。
――心から、怖がっている。
神殿の神官たちとも距離があったけれども、聖女として敬われているのかと思っていた。けれど、こんなにも畏怖の対象なのだとは思ってもいなかった。それならば、目が合うことすら避けられていたと思っていたのは、気のせいではなかったのだ。
王城での、謁見もあった。
市街地での、式典の参加もあった。
けれどどこに行っても、人々から怯えられた。
子供の私を外に出さなかったのは、理由があったのだと知る。子供の頃こんな対応をされたら、私は泣き叫ぶだけだっただろう。
何度か孤児院を移ったけれど、どこも同じことになったため、ある時から月に2度の頻度で同じ孤児院に行くことになった。
そこでも最初は子供たちは怯え泣いた。
けれど院長たちが迅速に子供たちを嗜めたのが他の場所と違ったのだ。
そして月日を重ねるうちに、危険な存在ではないと認識したのか、次第に子供たちと少しずつ会話が出来る様になっていった。
「どうして聖女様は髪が黒いの?」
「私の父も母も黒かったからよ」
「悪魔じゃないの?」
「……普通の人間よ」
「聖女さまなのに?」
「ええ、そうよ。みんなと一緒。泣いたり笑ったり、大好きな人のために祈るのよ」
一年も過ぎる頃には子供たちからの心が寄せられるようになり、その孤児院への慰問は私にとって心安らぐ時間の一つになっていた。
そして心を開いてもらえていたのは、子供たちからだけではなかった。
「かつて、ここにも黒髪の子供が預けられていました」
「……黒髪の子供ですか?」
それは私と同じふるさとの人なのだろうかと考えながら、院長の言葉の続きを待った。
「本当のところは分かりません。その子には、かつての聖女様の血が混ざっているのではないかと噂されておりました」
「……そう」
「この子です」
見せてくれたのは一枚の絵。
孤児院の子供たちの絵姿を残したものだ。
絵の下には名前が残っていた。
「……ツキト」
おもわず呟く。
この国の言葉で、月の人と書かれていたのだ。
院長が言った。
「彼が10歳の時に姿を消して、もう8年になります」
ここの人たちは、私に本当に心を開いてくれているわけではないのだと思う。
私の背後にある神殿の存在をいつだって少し警戒している。
だけどきっとこのことを話してくれたのは、彼らの心に間違いなくある誠意からなのだと思う。
11
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
【完結】前世聖女の令嬢は【王太子殺害未遂】の罪で投獄されました~前世勇者な執事は今世こそ彼女を救いたい~
蜜柑
恋愛
エリス=ハウゼンはエルシニア王国の名門ハウゼン侯爵家の長女として何不自由なく育ち、将来を約束された幸福な日々を過ごしていた。婚約者は3歳年上の優しい第2王子オーウェン。エリスは彼との穏やかな未来を信じていた。しかし、第1王子・王太子マーティンの誕生日パーティーで、事件が勃発する。エリスの家から贈られたワインを飲んだマーティンが毒に倒れ、エリスは殺害未遂の罪で捕らえられてしまう。
【王太子殺害未遂】――身に覚えのない罪で投獄されるエリスだったが、実は彼女の前世は魔王を封じた大聖女・マリーネだった。
王宮の地下牢に閉じ込められたエリスは、無実を証明する手段もなく、絶望の淵に立たされる。しかし、エリスの忠実な執事見習いのジェイクが、彼女を救い出し、無実を晴らすために立ち上がる。ジェイクの前世は、マリーネと共に魔王を倒した竜騎士ルーカスであり、エリスと違い、前世の記憶を引き継いでいた。ジェイクはエリスを救うため、今まで隠していた力を開放する決意をする。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
王太子殿下は虐げられ令嬢を救いたい
参谷しのぶ
恋愛
エリシア・アージェント伯爵令嬢は国中から虐げられている。百年前の『大厄災』で、王侯貴族は魔力を発動させることに成功したが、アージェント家だけは魔力を得られなかったからだ。
百年後のいま『恥知らずなアージェント家』の末裔であるエリシアは、シンクレア公爵家の令嬢ラーラからこき使われていた。
かなり虐げられているが給料だけはいい。公爵家の使用人から軽んじられても気にしない。ラーラの引き立て役として地味なドレスを身にまとい、社交界でヒソヒソされても気にしない。だって、いつか領地を買い戻すという目標があるから!
それなのに、雇い主ラーラが『狙って』いる王太子アラスターが公衆の面前でラーラを諫め、エリシアを庇う発言をする。
彼はどうやらエリシアを『救いたい』らしく……?
虐げられすぎて少々価値観がずれているエリシアと、そんな彼女を守りたい王太子アラスター。やがてエリシアにとんでもない力があることが判明し……。
★小説家になろう様でも連載しています。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる