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14 新しい旅
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順調だったわけではないけれど、イシュハル様の影響力は大きく、先に大国で入籍を済ませていた私たちは、王太子とその妃として祖国に帰国することが出来た。
帰国を祝う式典に、卒業から二年が経っているけれど、学園の同級生たちもちらほら姿が見えた。あの日、彼の追放を見送った人たちは今どう思っているんだろうか。
元婚約者は第三王子派だったけれど、爵位が低かったから共謀していなかったのだろう。式典で睨むように私を見つめていた。
その視線を受けてリオ様は「彼か?」と聞いた。「お気になさらず」と言ったけれど、王太子に目を付けられたら彼のその後が心配になる。「交流もずっとなかった方です」「そうか。覚えておこう」結局覚えられてしまった。
帰国後は慌ただしい日々が続き、あっという間に時が過ぎて行った。
病気で弱っていた王が亡くなった。リオ様が即位したのは二年後だった。
子供が出来たときにはリオ様は言った。「闘技場の無い国にしなくてはな」この国に闘技場などないけれどなんのことだったんだろう。イシュハル様は子供が出来る度にお祝いに来てくれて、子供同士も仲良くなった。
長い年月が経って。孫も出来て。老いて。きっとあと数年の命だろう、そう思う時がやって来て。
「たくさんの旅をしましたね」
「ああ、楽しかったな」
「私にも何か出来たでしょうか」
「私たちの旅はきっと少しだけ世界を変えたよ」
「私は幸せでした。賢王と呼ばれた方のお隣で」
「俺は慈愛の才女の隣で幸せだったよ」
「そんな呼ばれ方していましたの?」
「いくらでもあるさ。歴代最高の魔術師というのもある」
「それは両親のおかげでしたの」
「感謝しないとな。俺の称号も妻のおかげだよ」
「まぁ素晴らしい奥様がいらっしゃるのかしら」
「そうだ。世界で一番可愛らしく、美しく、綺麗なんだ」
「やめてくださいませ。私が悪かったですわ」
「悪くないさ。いくらでも伝えられる。愛してるよ」
「わ、私も……」
「泣くな」
「先に逝かないでくださいませ」
「大丈夫だ。新しい旅に出るだけだよ」
「新しい旅?」
「そうだ。まだ行ってない地に二人で行くんだ」
「まだ行ってない地……」
「ああ、人として生きてる間には見られなかった場所に、二人で……」
「あなた?」
私は本当に、人生の旅をとても楽しんだ。
私でも何か残せただろうか。
何もかも失ったはずなのにいつしかたくさんのものを手にしていた。
あなたもそうだったのならいい。
そして死後も旅の続きが出来たらいいのにと願ってる。
END
感想教えて下さい
帰国を祝う式典に、卒業から二年が経っているけれど、学園の同級生たちもちらほら姿が見えた。あの日、彼の追放を見送った人たちは今どう思っているんだろうか。
元婚約者は第三王子派だったけれど、爵位が低かったから共謀していなかったのだろう。式典で睨むように私を見つめていた。
その視線を受けてリオ様は「彼か?」と聞いた。「お気になさらず」と言ったけれど、王太子に目を付けられたら彼のその後が心配になる。「交流もずっとなかった方です」「そうか。覚えておこう」結局覚えられてしまった。
帰国後は慌ただしい日々が続き、あっという間に時が過ぎて行った。
病気で弱っていた王が亡くなった。リオ様が即位したのは二年後だった。
子供が出来たときにはリオ様は言った。「闘技場の無い国にしなくてはな」この国に闘技場などないけれどなんのことだったんだろう。イシュハル様は子供が出来る度にお祝いに来てくれて、子供同士も仲良くなった。
長い年月が経って。孫も出来て。老いて。きっとあと数年の命だろう、そう思う時がやって来て。
「たくさんの旅をしましたね」
「ああ、楽しかったな」
「私にも何か出来たでしょうか」
「私たちの旅はきっと少しだけ世界を変えたよ」
「私は幸せでした。賢王と呼ばれた方のお隣で」
「俺は慈愛の才女の隣で幸せだったよ」
「そんな呼ばれ方していましたの?」
「いくらでもあるさ。歴代最高の魔術師というのもある」
「それは両親のおかげでしたの」
「感謝しないとな。俺の称号も妻のおかげだよ」
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「やめてくださいませ。私が悪かったですわ」
「悪くないさ。いくらでも伝えられる。愛してるよ」
「わ、私も……」
「泣くな」
「先に逝かないでくださいませ」
「大丈夫だ。新しい旅に出るだけだよ」
「新しい旅?」
「そうだ。まだ行ってない地に二人で行くんだ」
「まだ行ってない地……」
「ああ、人として生きてる間には見られなかった場所に、二人で……」
「あなた?」
私は本当に、人生の旅をとても楽しんだ。
私でも何か残せただろうか。
何もかも失ったはずなのにいつしかたくさんのものを手にしていた。
あなたもそうだったのならいい。
そして死後も旅の続きが出来たらいいのにと願ってる。
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